2017

09/20

ヒアリと微生物

  • 感染症

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内藤 博敬
『微生物・感染症講座』
静岡県立大学食品栄養科学部環境生命科学科/大学院食品栄養環境科学研究院、助教。
静岡理工科大学、非常勤講師。
湘南看護専門学校、非常勤講師。
専門は環境微生物学、病原微生物学、分子生物学、生化学。
ウイルスや細菌の感染予防対策法とその効果について、幅広く研究を行っている。

隔月刊ドクターズプラザ2017年9月号掲載

微生物・感染症講座(60)

はじめに

今年5月末に、広州(中国)から神戸港に運ばれたコンテナの中で見つかったアリの集団が、南米原産の特定外来生物である「ヒアリ(火蟻)」であると確認されました。その後、愛知、大阪、東京、福岡、神奈川、茨城の港や内陸部でもヒアリやアカカミアリが見つかり、報道でも大きく取り上げられ、一般にもその名が知れ渡りました。ヒアリは非常に攻撃的なことで知られていますが、重症熱性血小板減少症候群などの感染症を媒介するマダニと違って、今のところヒトへの感染症媒介は報告されていません。むしろ、ヒアリの持つ“毒”はわれわれだけでなく微生物にも効果があることが分かっています。今回は、微生物とは無関係そうなヒアリを通じて、感染症を考えてみましょう。

ヒアリの日本定着は時間の問題!?

ヒアリ(注1)は、赤茶色をした小型のアリで、体長は2・5〜6㎜くらいと個体によってバラツキがあるため、日本の赤蟻(ヒメアリ、クシケアリ)とは見た目で区別できます。また、ヒアリは直径25〜60㎝、高さ15〜50㎝のアリ塚を作るため、塚を作らない日本の在来アリとは習性が全く異なります。

このヒアリが恐れられている理由の一つは、アルカロイドの一種である”毒‶を持つことです。ソレノプシンを主成分とするこの毒は、膜表面タンパク質の機能阻害や神経間のアセチルコリン伝達阻害を引き起こします。ヒアリの刺咬による腫脹は1週間程度で治癒しますが、複数回の刺咬によってアナフィラキシーショックを起こして命を脅かすこともあります。しかしこの毒は、ヒトに対して細胞毒性や溶血性を示す一方で、虫、細菌、真菌にも毒性を示し、さらには抗HIV(エイズウイルス)活性を持つことが分かっています。そう、毒も使い方次第で薬になるのです。

ヒアリが恐い理由は、刺咬時にヒトへ危害を加えることだけでありません。むしろ、植物、小動物や鳥を捕食することで生態系や農作物、さらには家畜にまで大きな被害をもたらすことが、日本に侵入した場合に大きな脅威、問題となります。また、ヒアリは電気に引き付けられる習性があり、アメリカでは漏電による火災の原因の一つとなっています。1930年代に南米から北米へと侵入、定着し、年に約10㎞のペースで北米大陸を侵攻していったと考えられており、その後の交通の発展、物流の活発化によって、オーストラリア、台湾、中国へと上陸して定住したことが確認されています。

また、ニュージーランドにも侵入しましたが、いち早い対応と2年に渡る戦いの末、現在では根絶されています。これらの国との貿易が盛んな日本への侵入は時間の問題と考えられていましたが、現実に侵入が確認されたことで、今後は侵攻を許さず、定着をさせないよう、早急な対策を施さなければなりません。

目には目を、ヒアリには微生物を!?

外来生物が定着する条件の一つに、天敵のいない環境があります。ヒアリには絶対的な天敵はいませんが、ハチやハエの仲間にはヒアリに寄生可能な種類がいます。アリヤドリコバチと呼ばれるハチは、アリの幼虫に寄生するハチで、日本にも数種類生息しています。しかし、天敵を使った害虫駆除に成功した例は無く、むしろ環境中に天敵を放つことで生態系のバランスを崩しかねません。それでも、アメリカではヒアリに寄生するノミバエを使った駆除実験が続けられており、ヒアリ被害の甚大さを物語っています。

また、沖縄科学技術大学院大学の吉村正志研究員は、日本に在来しているアリは天敵とまではいかなくとも、「敵」には十分なり得るとして、殺虫剤による在来種の駆除をしないよう呼び掛けています(注2)。

天敵のいないヒアリの駆除法として、微生物を使った方法の研究が精力的に進められています。ヒアリも生物なので、微生物に感染して感染症を引き起こします。例えば単細胞の寄生虫である原虫では、ニルヘイジアやウァイモルファといった微胞子虫の仲間が感染することが分かっており、特にニルヘイジアの一種がヒアリ駆除剤として有望だと考えられています。

また、真菌の一つで、セミに感染して死に至らしめるカビとして知られているボーベリア菌の仲間にヒアリに感染するものがあり、これも駆除剤候補として注目されています。さらに、ウイルスの中にもヒアリに感染するSolenopsisinvicta virus 1(SINV -1)、SINV -2 、SINV -3 が見つかっており、中でもSINV -1 は多くの種類のヒアリで幼虫に感染することが分かっています。ヒアリそのものの遺伝子も2011年に解読されていることから、これらの微生物を利用したヒアリ駆除薬の登場も近いことでしょう。それまではヒアリの日本定住を阻止するよう、水際対策を強化していきたいですね。

 

(注1)ヒアリは刺されると火傷のような激しい痛みがあることから「火蟻、Fire ant」と呼ばれ、特に特定外来生物として世界中で問題となっている種は、別名アカヒアリと呼ばれ、英語で「Red imported fire ant:RIFA」と呼びます。

(注2)琉球新報 2017年7月18日 https://ryukyushimpo.jp/news/entry-536992.html