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パーソナリティについて

メンタルヘルス

西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事
ドクターズプラザ2013年1月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(10)

人にはそれぞれ固有の物事の捉え方、感じ方、行動の特徴がある

心の病気についての話題の中に、少しピンと来ないお話があります。ある会社に、同僚たちがみんな忙しく働いている時期に、一人だけ有給休暇を平然と取るAさんという女性社員がいました。同僚たちも困り、上司にそれとなく注意してもらったところ、「何が悪いんですか!」と女性社員は激しく怒り、上司に対して暴言を吐きました。そして泣きながら会社を飛び出しましたが、ほどなくして会社に救急隊から連絡がありました。Aさんが駅前で過呼吸発作を起こして倒れたので病院に運ぶというのです。慌てて同僚が病院に駆けつけたところ、救急外来のコンサルテーション精神科医から「パーソナリティ障害です」と告げられたとのことでした。かねてからAさんについては、周囲の人たちは、お嬢様育ちでわがままだ、未熟で勝手な人だと思ってきました。パーソナリティ障害と告げられてもピンと来ません。

心の病気は、大きく二つに分けられます。一つは統合失調症や双極性感情障害のようにある時を境に病気になる場合です。今一つは、大人になった頃(診断基準では18歳とされています)に心の病気によって生活しにくさに気付く場合です。例えば、知的な遅れであったり、人柄の偏りであったりします。パーソナリティ障害とは生きにくさをもたらす人柄の偏りのことです。パーソナリティ障害は、言ってみれば不都合な個性です。

例のAさんは大学卒業後、広報の仕事を希望して入社してきました。熱心に会社のことを学び、もし広報に配属されたらと夢を語り、研修中の評価はとても良いものでした。研修後、秘書課に配属されました。新入秘書として、受付業務をすることになりましたが、研修中とは打って変わって熱心さが見られません。時には来客に不機嫌な態度で接します。年末の大きなイベントがあり、受付をはじめ秘書課がてんやわんやの時期に突然有休申請が出されました。同僚や上司との軋轢の結果、過呼吸発作を起こし、救急搬送されたわけです。Aさんの手首にリストカット痕を認めた救急担当医が、精神科医にコンサルテーションし、パーソナリティ障害と診断されました。後から駆けつけた母親は、同僚にひたすら「ご迷惑掛けました、申し訳ありません」と謝るばかりでした。どうやら高校生の頃から、些細なことで突然態度が変わり、友人と絶交したり、ボーイフレンドと別れるということを繰り返してきたようです。母親には入社当時は「素晴らしい会社に入った。きっと広報に配属されると思う」と話していました。しかし、秘書課に配属されてしばらくすると、「大学を卒業してする仕事ではない。もう辞めたい」などと話すようになりました。母親は高校時代以来の極端な反応やリストカットをまた繰り返すのではないかと危惧していました。

特別扱いせず、誠実に対応すること

Aさんは、「広報に配属されないならもう会社は辞めたい」と感じましたが、大変な就職活動をして、やっと入社できた会社だと思うと、そう簡単に辞めることはできません。秘書課に配属されて2カ月目には、眠れなくなり、日中もイライラすることが多くなり、かかりつけの精神科医からは「会社のことは気に入っているのだから、しばらく様子を見る練習をしてみよう」と言われていました。高校時代にダイエットから摂食障害になって受診した主治医には「境界性パーソナリティ障害」と診断されています。人柄の癖として、白か黒か、という反応の激しさや対人関係の不安定さに気を付けるように言われていますが、実際には白か黒かと感じてしまうとなかなか灰色とは思えません。

境界性パーソナリティ障害に限らず、パーソナリティ障害は不都合な人柄の偏りです。誰の心の中にもパーソナリティ障害に似たところがあります。人にはそれぞれ固有の物事の捉え方、感じ方、行動の特徴があります。ある個人に固有の外界への認知、そこから生じる感情・感覚、反応としての行動など、あり方全体をパーソナリティと言います。パーソナリティ障害では、日常の些細な出来事の評価が偏り、その結果、偏った反応・行動が出現して、周囲の思惑と大きくずれてしまいます。

パーソナリティ障害は、周囲が落ち着いて反応をすることによって、年齢と共に改善してくることが多い、つまり人柄が成熟し、個性の内の不都合な部分が少なくなっていくと言えます。われわれ自身の個性を大事にするように、パーソナリティ障害においても特別扱いをせず、誠実に対応していきましょう。腫物扱いせず、答えられない要求や規則違反はきちんと注意することによって、周りの安心も得られるでしょう。それぞれの個性が活かせますように。

 

ドクターズプラザ2013年1月号掲載

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