2018
01/15
ドクターヘリとドクターカーの現状と今後
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僻地・離島医療
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沖縄県
ドクターズプラザ2018年1月号掲載
ドクターヘリとドクターカーの併用で救命率の向上!
ドクターヘリとドクターカーで初期医療を向上
―浦添総合病院が運航している沖縄県のドクターヘリは、いつスタートしたのですか。
八木 当院では2005年より、病院の自主財源で独自の救急ヘリ搬送システム「U-PITS」(Urasoe PatientImmediate Transport System)を運航していました。その搬送実績が認められ、2008年12月からは、国や県から運航資金の補助を受けて活動する、県のドクターヘリ(国内15機目)としてスタートしています。
2012年4月からは、医師や看護師が救急現場に緊急自動車で出動するドクターカーの運用も行っています。ドクターカーは、ドクターヘリと同様に医師が現場で早期に医療を開始できますし、市街地などヘリコプターの着陸場所を確保できないような場所への出動や時間帯、天候の影響を受けにくいなどの利点もあります。沖縄県は道路の車線が広いため、多少渋滞していても周りの車両が避けてくれれば意外と通り抜けることができ、ドクターヘリと並行して運用することで、救命率の向上や後遺症の軽減に大きく寄与しています。
またドクターヘリだけでは、若手の医師や看護師がプレホスピタル(病院前救護)の現場を経験する機会が限られてしまいますが、ドクターヘリより多くのスタッフが乗り込めるドクターカーがあることで、ベテランと若手がペアで活動することができます。ドクターカーで修行を積んで、ドクターヘリでのOJTを経て独り立ちするという過程をとりやすくなっており、若手の育成にも効果を上げています。
―ドクターヘリを運航している範囲は。また年間でどのくらいの要請、搬送があるのですか。
八木 100㎞圏内、片道の飛行時間約30分以内が主な運航範囲です。具体的には、沖縄本島周辺離島(久米島、粟国島、渡名喜島、座間味島、渡嘉敷島、阿嘉島、伊是名島、伊平屋島、津堅島、久高島等)、本島内の遠隔地(国頭地区、本部、金武、伊計島等)のほか、鹿児島県との協定により、一部鹿児島県の離島に沖縄県のドクターヘリが出動することもあります。
ドクターヘリの2016年度の実績は、要請件数578件、うち搬送件数は412件で、ここ数年は年間400件を超える搬送を行っています。運航を開始した2008年12月から2017年10月までの累計では、要請件数が4108件、搬送件数は3440件です。疾病別では、最も多いのが外傷で984人です。それ以外で多いのは、循環器系疾患468人、消化器系疾患457人、脳血管障害417人、呼吸器疾患343人です。
またドクターカーの2016年度の実績は、要請件数542件、うち搬送件数は331件で、2012年4月から2017年3月までの累計では、要請件数が2267件、搬送件数が1540件です。疾病別では、脳血管疾患が341件と最も多く、続いて外因性(外傷・中毒・溺水)が296件、CPA(内因性・原因不明)が248件、循環器疾患226件となっています。
―沖縄県には外国人の観光客も多いと思いますが、外国人を搬送するケースは増えているのでしょうか。
八木 日本人の患者さんと比べれば一部ではありますが、観光客の増加に伴い、外国人を搬送するケースも増加しています。しかし、これまで言葉の問題などで困ったことはありません。
発進基地の移転によるメリットとデメリット
―2016年12月からドクターヘリの基地が移転されたそうですね。
八木 当院は米軍普天間基地の滑走路の延長線上にあり、病院の敷地内にドクターヘリの発進基地を設けることができません。そのためU-PITSの時代から、病院から30㎞ほど離れた読谷村のヘリポートを基地としていましたが、2016年12月に病院から約3㎞の浦添市港川に移転しました。市が所有している野球場の跡地です。
―病院から近くなって、運用しやすくなったのでは。
八木 そうですね。病院とは別の場所に基地があるため、ドクターヘリに搭乗するフライトドクターやフライトナース、パイロット、また整備士、運行管理士は交代で基地に待機していますが、まずわれわれスタッフが基地に行きやすくなりました。読谷村の発進基地までの道路は、昼間の時間は混んでしまうので、1時間以上かかることもありましたからね。
また、幸いなことにこれまではありませんでしたが、万が一スタッフが怪我や病気で勤務できないような事態になっても、交代のスタッフを送りやすくなりました。
運航範囲は基本的には変わりませんが、2016年12月から鹿児島県の奄美大島の病院がドクターヘリの運航を開始したため、以前は沖縄県のドクターヘリがカバーしていた鹿児島県の徳之島、与論島、沖永良部島は、奄美のドクターヘリがすでに出動中などで出動できない場合のみ、私たちが対応することになっています。
―発進基地の移転によるデメリットはありますか。
八木 浦添市港川の発進基地は、離陸するとすぐに普天間の管制圏内に入るため、飛び立ったらすぐに管制とやり取りをしなければならず、パイロットにとっては負担が大きいかもしれません。また読谷村の基地は、海側に木が茂っていて風を防いでくれていましたが、新たな基地はそういう環境ではないので、風向きによっては海水がかなり飛んできます。通常、ドクターヘリは格納庫の外で待機していますが、海水でヘリコプターの機体を痛めてしまうので、格納庫内で待機するようにしています。そのため要請を受けてから出動までの時間が3分程度違うと思います。
ドクターヘリ専門チームの編成も必要!?
―以前、取材をさせていただいた時は病院側の費用負担が大きいというお話をお聞きしましたが、現在はいかがでしょうか。
八木 ドクターヘリを運用するために、年間約2億5千万円の費用がかかります。そのうち8千万円ほどを浦添総合病院で負担していた時期もあります。しかし、数年前に病院の負担額を透明化したことで改善し、現在は国と県の補助でほとんど賄えるようになりました。
―その他、全国的な課題として、県をまたいだ連携の問題があるようですね。
八木 沖縄県の場合は本土から離れているので、鹿児島県の離島の対応について、両県で協定を結ぶ程度ですが、隣接する県の場合は、連携ができればもっと効率よく搬送できるようになると思います。一例を挙げれば、現場まで山を越えて自県のヘリコプターで向かうなら、山越え無しで向かえる他県のヘリコプターの方が安全ですし、天候の影響も受けにくくなります。いろいろな地域で連携に向けた検討は行われていますが、他県に出動した分の費用などの問題もあり、なかなか難しいようです。
―医療スタッフだけでなく、パイロットの育成も課題と聞いています。
八木 ドクターヘリのパイロットも高齢化が進んでいます。その一つの要因は、ドクターヘリの機長になるための条件が非常に厳しく、養成と条件のクリアに時間がかかることです。近年、多少緩和されていますが、当然、操縦やさまざまな対応など高い技術は必須ですし、これも難しい問題ですね。
現在日本に配備されているドクターヘリは、41道府県、51機です。ドクターヘリを管轄する厚生労働省では、もっと増やしたい意向のようです。それには、パイロットの育成という課題も並行して考えていかなければならないでしょうね。現状でも、日本全国をほぼカバーできていると思いますが、都道府県ごとではなく複数県で連携するとか、都市部のような密集した地域に有効なドクターカーという方法も併せて検討する必要があるのではないでしょうか。
―今後のドクターヘリやドクターカーはどのような方向に進んでいく、あるいは進めるべきだとお考えですか。
八木 プレホスピタルの質を向上させるために、国としては、救急車で現場に駆けつける救急救命士の医療行為を拡大しようとしてきました。しかし救急救命士ができる処置を一つ増やすには、学校が新たな実習プログラムを実施するなど、年単位で考えなければならず、学校にとっても、自治体にとっても簡単ではありません。一方で、われわれ医療従事者は、いかなる状況でも医療行為を行うことが認められているのですから、ドクターヘリやドクターカーの運用を広げる方が速いでしょう。
今以上にわれわれの範囲を広げるとしたら、現在は日没までと決められているドクターヘリを、夜間にも出動できるようにするのも一つです。スイスでは、24時間365日運航していますが、日本でも夜間出動できるようにするには、現在のように病院勤務とドクターヘリへの搭乗を兼務するという体制では無理です。ドクターヘリ専門のチームを作って、パイロットと一緒に常に訓練していないと夜間飛行はできません。どこまでできるかは、法整備にも依存することになるので、国の考え次第だと思います。
個人的には機械が好きなこともあって、ドローンなどもうまく活用できたらいいなと考えています。例えば、ドローンで上空の映像を見られれば、ドクターカーも現場の位置が分かりやすいですし、現場の映像を病院で見ながら病院から直接指示することもできます。今は、現場の人が見ているものを、その人の言葉を通じて情報収集するしかありませんが、映像なら判断もしやすくなります。現状では、市街地でドローンを飛ばすことができないので、実現は難しいかもしれませんが、そういった連携も可能になるとプレホスピタルの質ももっと向上すると思います。