2013

03/25

ダニと感染症

  • 感染症

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内藤 博敬
静岡県立大学環境科学研究所/大学院食品栄養環境科学研究院 助教。短期大学部看護学科 非常勤講師、静岡理工科大学 非常勤講師。専門は環境微生物学、病原微生物学、分子生物学、生化学。ウイルスや細菌の感染予防対策法とその効果について、幅広く研究を行っている。

ドクターズプラザ2013年3月号掲載

微生物・感染症講座(27)

マダニが生息する場所へ入る際には、長袖・長ズボンで足元をしっかり覆う事

はじめに

ダニが媒介する新種の感染症による死者が国内で初めて確認され、また同様の事例が昨秋にもあったことを厚生省が報告し、社会的なニュースとなっています。「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」と呼ばれるこの感染症の原因は、ダニの刺咬によって伝播するウイルスです。ダニにも種類があって、ヒトの体内外に寄生するタイプもいれば感染症を媒介するタイプもいます。また、ダニが媒介する病原体はウイルスに限ったものではありません。今回は、外部寄生虫として知られるダニについて紹介し、特にマダニが媒介する感染症を中心にお話しましょう。

ダニの種類は2万種以上!?

「ダニ」と聞くと、おそらく多くの方は畳や布団の中に潜んで私たちの血を吸う“ツメダニ”や“ヒョウヒ(チリ)ダニ”の仲間を思い浮かべることでしょう。では、そのダニについて、皆さんはどの程度のことを御存知でしょうか。一言でダニと言っても、世界には2万種以上のダニがいます。ダニは頭と胸と腹が合体して胴部を形成していて、クモ網ダニ目の節足動物です。ダニにはマダニ科のように硬い甲羅を持つタイプと、ヒメダニのように甲羅を持たない柔らかいタイプとがありますが、いずれも卵から孵ったばかりの幼虫の足は6本で、脱皮によって若虫・成虫になると足が8本になる特徴を持っています。家屋で見られるダニはおよそ15種で、日本では全てを「ダニ」と呼んでいますが、欧米では比較的大きいダニを「Tick」、小さめのダニを「mites」と呼んでいます。学術的には、毛の有無や呼吸器の状態によって分類されており、感染症との関わりが特に強いダニとして、サシダニ類(中気門亜目)、ツツガムシ類・ツメダニ類(前気門亜目)、ヒゼンダニ類・ヒョウヒダニ類・コナダニ類(無気門亜目)、マダニ類(後気門亜目)の4亜目が知られています。サシダニ類の代表であるイエダニは、主にドブネズミに寄生していますが、時としてヒトを刺咬することがあります。ツツガムシ類は南アジア、西南太平洋地域、日本にも広く分布してツツガムシ病リケッチアを媒介します。ツメダニは捕食するコナダニがいなくなるとヒトを刺咬することが知られており、ヒゼンダニは疥癬、ヒョウヒダニはアレルゲン、コナダニは皮疹や喘息の原因となるだけでなく人体内ダニ症の原因にもなることが報告されています。

ダニは雄よりも雌の方が大きく、また、胴部のほとんどを消化管が占めているので、吸血するタイプのマダニなどは血を吸うと丸々とします。マダニの吸血は、鋭い口器を皮膚に突き刺して行い、血液が凝固しないように刺し口から唾液を送り込みます。そう、この時に病原体を媒介しているのです。幼虫や若虫の時に野生動物などから吸血する際に病原体を一緒に取り込み、次に動物やヒトを刺咬した時に病原体を伝播することがあるのです。

マダニ媒介性感染症

新種の感染症として注目を集めたSTFSウイルスは、マダニの仲間(フタトゲチマダニ、オウシマダニ)が刺咬することによって感染します。STFSウイルスに感染すると、6日~2週間の潜伏期間を経て、発熱、嘔吐や下痢などの症状が表れ、白血球や血小板の数が減少します。このウイルスは、2009年頃から中国で170例以上の発症が報告されていますが、日本で亡くなった患者さんが保有していたウイルスとは遺伝子の配列が異なるため、国内にもこのウイルスが存在していると考えられています。マダニが媒介する感染症はSTFSウイルスの他、クリミヤ・コンゴ出血熱ウイルス、野兎病菌、ライム病ボレリア、Q熱リケッチア、ロシア春夏脳炎ウイルス、コロラドダニ熱ウイルス、アナプラズマ症やエーリキア症など、数多く知られています。マダニ媒介性の感染症を予防するには、とにかくマダニに刺されないことです(*1)。草むらや藪など、マダニが生息する場所へ入る際には、長袖・長ズボン、足元をしっかりと覆う事で、肌の露出を少なくするよう心掛けましょう。

(*1)日本国内のマダニは、攻撃的な欧米のマダニと比べて穏やかだと言われています。付着した表皮をすぐに刺すわけではなく、頭髪、へそや陰部など“黒い場所”を目指して移動して刺咬します。草むらや山道を歩いた時には、早めに風呂に入ったり衣服を洗濯するよう心掛けてください。

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