2016

03/16

ジカウイルス感染症

  • 感染症

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内藤 博敬
静岡県立大学食品栄養科学部環境生命科学科/大学院食品栄養環境科学研究院、助教。静岡理工科大学、非常勤講師。湘南看護専門学校、非常勤講師。

ドクターズプラザ2016年3月号掲載

微生物・感染症講座(51)

「国際的に懸念される保健衛生上の緊急事態」を考える

はじめに

旧正月を目前に控えた2月の初め、「ジカ熱」と呼ばれる感染症に対して、世界保健機関(WHO)が「国際的に懸念される保健衛生上の緊急事態」宣言をしました。日本では聞きなれないジカ熱ですが、緊急事態宣言となると、ちょっと怖いですよね。この「国際的に懸念される保健衛生上の緊急事態」とはどのような状況なのか、また、対象となっている「ジカ熱」について私たちは何に気を付けるべきなのか、ご紹介します。

「国際的に懸念される保健衛生上の緊急事態」とは

「国際的に懸念される保健衛生上の緊急事態(PHEIC)」宣言は、対象疾患の世界的封じ込めをWHOが中心となって行う宣言のことです。PHEICが宣言されると、WHOに加盟する194カ国で対象疾患が検知された場合、24 時間以内にWHOへ通告する義務が生じます。WHOは、この通告内容に応じて感染防止対策を迅速に講じます。また、強制力はありませんが、必要に応じて加盟国に対する出入国制限などの勧告を行います。

WHOは、感染症などの疾病が国際的に伝播することを最大限防止することを目的として、1951年に国際衛生規則を制定し1969年に国際保健規則へ名称を改めました。その後、交通や流通が劇的な発展を遂げた一方で新興・再興感染症が増加し、発生地での初期対応の遅れが世界的な流行につながる危険性が年々増していったことから、この国際保健規則は2005年に大幅に改正されました。改正前は、黄熱、コレラ、ペストの3疾患を対象としていましたが、改正後は国際的に公衆衛生上の脅威となりうるあらゆる健康被害事象を対象とするよう拡大し、感染症だけでなくテロや化学物質・放射性物質などの人為的な疾病も含まれるようになりました。PHEICは、この国際保健規則に基づいて、事態の深刻さや異常さ、国際的な流行の可能性、旅行や商用での渡航によるリスクなどを勘案して事務局長が認定、宣言しています。

2005年以降、WHOが「国際的に懸念される保健衛生上の緊急事態」宣言を出したのは、2009年の新型インフルエンザ世界流行、2014年の野生型ポリオウイルス世界流行、同じく2014年の西アフリカエボラ出血熱流行に続いて、今回のジカ熱で4例目です。

ジカウイルスはデングウイルスの仲間!?

ジカウイルス(Zika virus)は、2014年に日本で流行したデングウイルス、日本脳炎ウイルスや黄熱ウイルスと同じフラビウイルス科に属すウイルスです。フラビウイルスは、蚊やダニなどの節足動物が媒介者となってヒトに感染します。ジカウイルスの主な感染経路(注1)も“蚊”による媒介で、「ネッタイシマカ」や日本にも生息している「ヒトスジシマカ」が媒介者として報告されています。ジカウイルスに感染して発症すると、発熱、頭痛、関節痛、倦怠感などの症状が顕れますが、デング熱や日本脳炎などの蚊が媒介する他の感染症と比べて軽微です。

また、症状の顕れない不顕性感染も確認されています。ジカウイルスは1947年にアカゲザルから発見され、1968年にヒト検体から分離された比較的古くから存在が知られていたウイルスで、これまではそれほど怖い感染症だとは考えられていませんでした。ところが近年、ジカ熱の流行と難病のギラン・バレー症候群(注2)や、妊娠時の感染による小頭症との関連が強く疑われています。2013年にフランス領ポリネシアで約1万人がジカ熱に感染する流行が起こり、2014年にはチリのイースター島で、2015年からはブラジルやコロンビアを中心に南米で大流行しており、事態を重く見たWHOが、PHEIC宣言を出したのです。

日本にとっても対岸の火事ではない!!

PHEIC宣言を受けて、日本でも厚労省を中心に予防啓発がなされています。日本では2013年以降に3件のジカ熱が報告されていますが、いずれも渡航先で感染した輸入症例であり、国内での感染は報告されていません。

しかし、今夏には前述の流行地であるブラジル(リオデジャネイロ)でオリンピックとパラリンピックが開催され、日本人の渡航も多数あるものと予測されており、国内への持ち込みが起こる可能性も高くなると考えられています。ジカ熱に特異な治療法やワクチンは無いので、流行地域で蚊の刺咬に注意することと、国内でも溜まり水などの蚊が繁殖する場所を作らないよう衛生向上に努めることが大切です。蚊は春先から活動し始めますので、例年以上に発生させないよう、刺されないよう、2014年のデング熱の二の舞とならないよう早めに対策しましょう。

 

(注1)ジカウイルスの主な感染経路は蚊による媒介ですが、妊娠中の母親から胎児への垂直感染が多数報告されています。また、血液感染、性行為感染の可能性も疑われています。

(注2)ギラン・バレー症候群とは、運動神経が傷害されることで手足などに力が入らなくなる自己免疫疾患です。