2022

09/01

サル痘の感染予防

  • 感染症

内藤 博敬
静岡県立農林環境専門職大学 生産環境経営学部 准教授
日本医療・環境オゾン学会 副会長
日本機能水学会 理事

新微生物・感染症講座(3)

はじめに

前回、人類と感染症との闘いは始まったばかりだとお話ししましたが、COVID-19の1日当たりの検査陽性者数が世界一となり、サル痘の国内初感染に続けて2例目も報告されるなど、今年の7月末の日本では、感染症との闘いの真っただ中にあることを強く感じたのではないでしょうか。今回は、微生物の基礎的な話の箸休めの意味も込めて、トピックスである「サル痘」を取り上げてみたいと思います。

サル痘とは

「痘」とは、皮膚などに豆粒ほどの水膨れができる症状を意味します。サル痘は、サル痘ウイルスの感染によって起こる感染症です。サル痘ウイルスは、人類が唯一撲滅した天然痘ウイルス、天然痘対策として行った種痘に用いられるワクチニアウイルス、牛痘ウイルスなどが含まれる、オルソポックスウイルス属に属します。サル痘ウイルスには、死亡率約10%のコンゴ盆地型と、1%程度の西アフリカ型の2系統があります。サル痘ウイルスが元々寄生している宿主動物は不明ですが、サルやネズミなどのげっ歯類である可能性が高いと考えられています。サル痘ウイルスに感染している動物にかまれる、あるいは感染している動物の血液、体液、発疹部位との接触によって感染することが分かっています。ヒトへの感染は、1970年に現在のコンゴ共和国で初めて確認されました。その後、中央アフリカから西アフリカにかけて流行しています。ヒトからヒトへの感染は、濃厚接触や飛沫を長時間受けるといったまれなケースと考えられていましたが、2020年の報告では患者が使用した寝具などとの接触によっても感染することが明らかとなりました。感染者の飛沫、体液および発疹部位(エアロゾルを含む)を介した、飛沫感染および接触感染するものと考えられています。

感染するとどうなる?

サル痘ウイルスに感染すると、通常は1~2週間程度で発症します(最短5日、最大3週間)。発熱、頭痛、リンパ節(顎下、頸部、鼠径部)の腫れなどが数日間持続し、発熱してから数日後に皮膚に発疹が現れます。サル痘の皮疹は顔面や四肢(手足や足の裏)に多く現れることが知られており、口腔内にも発疹ができます。この発疹は、徐々に隆起して水膨れ(水疱)となり、これに膿が混ざって膿疱となり、やがてカサブタ(痂皮)を形成します。この体液(滲出液)や膿汁などが皮膚の表面で固まってかさぶたとなるまでの状態を結痂と呼びますが、この間は皮疹が潰れたり内容物が滲出したりしてサル痘ウイルスが大量に放出されることが考えられるため、飛沫だけでなく、直接あるいは寝具などを介した接触によっても、他者へと感染する確率が高まります。

日本では、認可されているサル痘の治療薬はありません。そのため、症状に対する対症療法がとられます。サル痘は、ほとんどの場合2~4週間で自然回復しますが、小児や健康状態の低い場合は重症化することもあり、気管支肺炎、脳炎、敗血症などの合併症も報告されています。現在、ヨーロッパではサル痘治療薬としてテコビリマットが承認されており、日本でも特定臨床研究が進められています。

流行を防ぐ

2022年5月ごろから、ヨーロッパを中心として多くの国でサル痘感染が確認されています。日本で初めて感染が確認された7月25日時点で、75の国と地域、16,000人以上の感染と5人の死亡が報告されています。WHOによると、現在の流行では感染者の98.8%が男性で大半が18~44歳とのことですが、サル痘は男性特有の疾患ではありません。感染経路は特定されてはいませんが、男性同性愛者のコミュニティーで感染が拡大し、市中へ拡大した可能性が指摘されています。しかし、前述のようにサル痘は女性にも感染しますし、年齢も関係ありません。成人男性感染者が多いのはあくまでも7月末の状況でしかないのです。また、サル痘に限らず男性同性愛者に特異的に感染する感染症などありませんから、性的マイノリティーの差別は絶対あってはなりません。また、発熱や頭痛などの感冒症状が無いまま、発疹が現れるまで無自覚に周囲へ感染を広げるケースが懸念されています。

サル痘の予防には、天然痘のワクチン(種痘:痘瘡ワクチン)が有効です。しかし、天然痘は1980年にWHOが根絶宣言を出しており、日本でも天然痘ワクチンの接種は1976年以降行っていません。竹内氏ら(国立予防衛生研究所)は2006年に、種痘廃止後28年後の抗体保有状況を報告しており、年齢に関係なく種痘接種者の約80%が4倍以上、約26%が感染予防レベルの32倍以上の抗体を保有していることを報告しています。また、天然痘ワクチンは、サル痘ウイルスに曝露してから4日以内に接種することで感染予防効果があり、14日以内であれば重症化予防効果が期待できます。厚生労働省は、感染確認がされた方のご家族や濃厚接触者および医療従事者へのワクチン接種を、臨床研究として進めるとしています。

サル痘の飛沫および接触感染対策は、これまでCOVID-19対策として行ってきた、マスク着用や手洗い・手指消毒と同じです。日本国内では、政府のCOVID-19対策を批判する声が大きく聞こえてきますが、日本をはじめとした東アジアのマスク、手洗いによる対策は、欧米、とりわけイギリスからの評価が高いものでした。これについてはまたの機会にお話ししたいと思います。マスク、うがいと手洗いで、COVID-19に引き続きサル痘も予防していきましょう。