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コロナ禍で親や介護に感じる“不安”を、改めて整理してみよう

介護

川内 潤
NPO法人となりの介護 代表理事
ドクターズプラザ2020年9月号掲載

隣(となり)の介護(9)

●だれに対する“不安”なのか?

コロナ禍で「高齢な親が感染したら大変」と、“不安”を感じた方も少なくないようです。ただ、その“不安”の正体を「“自分の不安”なのか」「“親の不安”なのか」と、きちんと整理することができないと、その後の介護生活や親子関係に大きな影響を及ぼしてしまいます。

●自分の“不安”と親の“不安”を整理できているか?

親に関する選択や行動が、実は“自分の不安解消”のために行ってしまっているケースがあります。以下に紹介する事件のような2次被害や、親子関係が崩壊しかねない事例から、改めて、コロナ禍で感じている親や介護に感じる“不安”について考えていただければと思います。

●“自分の不安”が招いたコロナ禍による2次被害

4月に大阪で起きた悲しい事件
【新型コロナウイルスの影響で老人ホームは面会制限をしており、そこへ入居していた母(91歳)を持つ男性(57歳)は面会できずにいました。そこで、男性は母を退所させ自宅に連れ帰ったその日、「母に『死にたい』と言われ、糸が切れた」というメモを残し、無理心中を図りました】

私はこの事件を知ったとき、コロナ禍で“自分の不安”と向き合えず、今、親にとって必要な介護環境が何かを冷静に判断できないままに、起きてしまった悲劇(2次被害)だと思いました。さらに、“自分の不安”として潜在的に背負っている「子どもが直接介護するのが親孝行」という呪縛がコロナ禍で顕著となり、状況を悪化させてしまったこともあるかもしれません。

●母親が感染することを不安に思って……

郷里で1人暮らしをしている高齢の母親のことを思い、都会で暮らす娘さんが「必要なものは、私が自宅からネットで注文するので、出歩かずに連絡がほしい」と提案したそうです。ところが、母親は感染対策をしっかり行っているし、「自分の目で確かめながら買い物がしたいから」と、娘の提案を頑なに拒否。「一人暮らしなのに、コロナに感染したらどうするつもりなのだろうか」と、娘さんは“不安”で仕方がないというのです。娘さんの行動は親の感染「リスクを防ぐ」という観点では正しい判断で、親が感染することを不安に思う気持ちも分かります。でも、それはこちらだけの不安で、もしかしたら、親はご近所など周りのサポートで何とかなっていたり、うまく生活をしていたりするかもしれません。娘さんの提案を母親が納得して受け入れてくれるのであればいいのですが、無理矢理に受け入れさせたり、母親の意見を差し置いて自分がやってしまうと、親子関係が崩れてしまうことが少なくありません。そうならないためにも、まずは母親の生活を尊重して、その中で、できること(頼まれたことにだけ対応する)だけをサポートしていくことが、今、娘さんにできることなのかもしれません。

●会えないからこそ、優しくできることも

“自分の不安解消”のために親にあれこれやってしまうよりも、次に会えた時には「ああしよう!」「こうしよう!」と親が喜んでくれることを、じっくり考えてみるのはどうでしょうか。むしろ、「頻繁に会えなくなったことで優しくなれた」という声も少なくありません。また、コロナ禍の今こそ、あえて手紙を書いてみるのはいかがでしょうか。手紙を書くことは、文字で自身の気持ちを表現するため“自分の不安”を客観視できるようにもなります。そして、それはあなたにしかできない“親孝行”でもあるのです。

●誰もが不安を抱えた世の中だからこそ……

世界中の誰もが不安を抱えている今、親や介護に対する“自分の不安”と上手に向き合うことができれば、急な状況変化が予想される介護生活の中で、親の望みを優先できる冷静な判断がしやすくなります。自分のことよりも親の介護が生活の中心になってしまうと、介護ストレスによる不適切な関わりや、いずれ訪れる“お別れ”のあとの喪失感が強過ぎて、うつ状態になるケースも少なくありません。それを防ぐためにも、些細な不安でも1人で抱え込まず、ケアマネジャーや地域包括支援センターなどに相談していただければと思います。相談を通して、この機会に「親が本当に望んでいること」を再確認することができれば、コロナ禍で抱えている“自分の不安”が解決するかもしれません。

ドクターズプラザ2020年9月号掲載

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