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コロナの時代に

メンタルヘルス

西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。
ドクターズプラザ2020年9月号

よしこ先生のメンタルヘルス(56)

目に見えないウイルスとの戦い

今、時代は「コロナの時代」といわれています。ビフォア・コロナ、アフター・コロナと時代が分けられるのではないかと言う人もいます。実際、ウェブ会議やリモートワークが身の回りでも増え、第4次産業革命を実感させられます。コロナについての6月1日〜7日までの調査によると、海外の抗体保有率は数%から十数%ですが、東京の抗体保有者はわずか0.1%、1000人に1人でした。感染者の8割が不顕性感染であることを考えると、コロナの症状を自覚した人はおおよそ5000人に1人ということになります。一方、実際の感染者は0.038%で、2500人に1人が顕在化した症状を持ったことになります。つまり重い症状を現した人は、5000〜12500人に1人ということになります。世界中の人々が今、COVID-19にかかることを恐れ、目に見えない脅威と戦っています。

人は目に見えるものと戦うことを得意としています。眼の前にある課題をさまざまな工夫と創意で乗り越えてきました。人は目に見えないものを恐れ、古来、ある時は鬼と見なしたり、またある時はたたりと感じたりしてきました。近代社会は、目に見えないものを科学の力によって可視化する営みを続けてきました。細菌、ウイルスや放射線など、目に見えないものを顕微鏡などさまざまな道具を駆使し、目に見えるものに変換することによって、戦う方略を見いだしてきたのです。今世界中の国々は、COVID-19を可視化することに全力を挙げています。どのような特性を持つウイルスなのか、いったいどのような人がかかるのか、どのような人が重症化するのか、その本態を知るために、世界中の感染症研究者は全力で立ち向かっています。

医療では、診断はさまざまな検査の結果や臨床所見によって原因を見つけることで行われ、診断されると治療法がおのずと決まってきます。しかしCOVID-19では、今までは検査に時間がかかり、その上条件がありなかなか検査自体を受けることができませんでした。しかもまだ治療法は特定できていません。今のところ、人に太古より備わっている免疫力しか頼りになる対策がないのです。運を天に任すというか、神に祈るしかないと感じる人も多いでしょう。

物理的に孤立しても心を通わせる

予防は今は、人との距離を隔てることしかありません。COVID-19は、とても狡猾なウイルスで、宿主を根絶することはありません。感染したほとんどの人は不顕性感染で、伝播者となります。ある人は元気で、症状を出す前にウイルスを他の人に伝え続けます。本来の人類の流儀は、数人から十数人の群れを作り、親しく交わることを幸福と感じます。今やコロナによって、本来の人らしい幸せは、大きく阻まれています。孤立と孤独は、精神症状を悪化させる大きな要因とされているにもかかわらず、今は、人と距離を隔て、3密を避け、孤立することを求められています。

われわれ人が物理的に孤立しても孤独ではない工夫は、どのようなものがあるでしょう。私は遠方に住む友人との電話をスカイプにしてみました。ところが困ったことに、実際に会うとあっという間に少女時代に戻ることができるのに、スカイプではお互いの年寄りぶりに大笑いすることになってしまいました。友人は、単身赴任の夫とSNSでビデオ通話を始めたそうです。やけに夫が年を取って見えると嘆いていました。つまりお互いに年を取っただけよと笑い合いました。

今私たちの手にある第4次産業革命をどのように使っていくことが、私たちを幸せにするでしょうか。医師と接することとなる受診さえ、症状があっても皆控えています。厚生労働省は本年4月10日付で、精神科領域とがん治療、免疫治療を除いて、初診から電話を含めたオンライン診療を許可しました。人の肉体に実際に触れることなく診察することによって、診立て、処方、治療が可能と認められたのです。今私たち医師には、人に実際に触れることなく、診立てる力が求められています。第4次産業革命の時代は、肉体を介さずに心を通わせる工夫が求められている時代ともいえるでしょう。

今皆さんは、どのように心を伝えていますか?

ドクターズプラザ2020年9月号

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