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コロナ――孤立と孤独がもたらすもの

メンタルヘルス

西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本外来臨床精神医学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。
ドクターズプラザ2021年5月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(58)

心を蝕む孤立と孤独

コロナ禍が社会全体のメンタルヘルスの低下をもたらしたことは疑いありません。前回ご報告したように、厚生労働省は産後うつ病など、一定の領域について前向き疫学調査を行っています。その中で産後うつ病は10%程度と報告されています。しかし、コロナ禍における筑波大学の松島みどり氏らの調査によると、およそ24%に増加したとのことです。従来の調査の2倍以上ということです。調査の中で異口同音に訴えられたことは、孤立と孤独だったということです。孤立と孤独がうつをもたらしたということでしょうか。

この1月に第2子が生まれたAさんは困り果てていました。実家からは「人目があるから今回は里帰り出産を遠慮してほしい」と言われ、第1子を一時保育に預け出産しました。産後十日を経て第1子を引き取りましたが、2週間のお泊り保育ですっかり赤ちゃん返りした2歳児と、生後2週間の赤ちゃん2人の面倒を見ることは、想像を絶する大変さでした。全く寝られなくなって受診した内科で処方された睡眠導入剤を服用し、やっと一息つきましたが、安心感がありません。夫はコロナ禍でさらに忙しく、朝早くから家を出て夜遅くまで戻りません。助けてほしいとも言いにくい状況です。ふっと結婚前にハードワークで疲弊し受診していたメンタルクリニックを思い出し、電話をしてみました。当時の主治医から、「今はコロナだから電話でお薬も処方できるけど、少しケースワーカーさんに何か手伝えることがあるか教えてもらいましょう」と言われ、PSW(精神保健福祉士)につながりました。PSWからは、子育て緊急サポート事業を紹介され、「もう一度、上のお子さんを預かってもらうこともできますよ」と言われましたが、帰ってきてからの赤ちゃん返りを考えると、気は進まず、「預かり保育は考えていません」と答えました。しかし、何かあればサポートしてもらえると知って、少し救われた思いでした。クリニックへの一本の電話でAさんは一人ではない、支えてくれる人がいると思えました。

孤立と孤独はうつや不安をもたらします。元来、人は群れで暮らし、コロナ禍の今もヒトは仲間を必要としています。しかし、実際には、社会全体で人との接触を避けねばなりません。頭では分かっているのですが、孤立と孤独が心を蝕みます。会いたい人とも会えません。実家でさえ立ち寄ることは難しくなっています。いつも学校帰りに立ち寄っていた孫さえもおばあちゃんちに立ち寄りにくくなっています。人と接することで分泌されるオキシトシンは人を幸せにするといわれていますが、すっかり出番がありません。

コロナ禍でも生き生きと暮らすために、今できること

今私たちができることを考えてみましょう。生き生きと暮らすためには、脳内の神経伝達物質が関与するといわれています。1つはセロトニンと呼ばれます。このセロトニンが充分分泌することで幸福感を得ることができます。穏やかな幸福感の源となる物質です。朝起きて太陽の光を浴びると、メラトニンという睡眠物質の分泌を止め、運動することでセロトニンが増加するといわれています。セロトニンが増えると、夕方からのメラトニン増加にも役立ち、ぐっすり休めることになります。

2つ目はオキシトシンと呼ばれ、人とのコミュニケーションで分泌されます。温かく幸せな気持ちになる物質です。赤ちゃんを抱いたり授乳したりしている母親から最も分泌されるといわれています。セロトニンやオキシトシンは安心感や幸福感に関わる物質で、今一番大事な脳内物質でしょう。コロナによって人と隔てられ、分泌が妨げられています。しかし、オキシトシンは、実際にハグしたり握手したりしないでも、人を褒めるだけでも分泌されるといわれています。関係を大事にしたい人に感謝したり、褒めたりすることで、自分のオキシトシンが分泌されるとしたら、それは素敵なことですね。ちなみに今一つの脳内神経伝達物質ドパミンは、目標達成によって分泌されるといわれていますから、親しい人と小さな目標を作り、達成を共に喜び褒め合うことは、お互いの幸せの源となるでしょう。

ドクターズプラザ2021年5月号掲載

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