2014

09/21

コレラ

  • 感染症

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内藤 博敬
静岡県立大学食品栄養科学部環境生命科学科/大学院食品栄養環境科学研究院、助教。静岡理工科大学、非常勤講師。湘南看護専門学校、非常勤講師。

ドクターズプラザ2014年9月号掲載

微生物・感染症講座(42)

今なお世界的に流行するコレラ

はじめに

数多ある感染症の中でも、知名度の高さで五本の指に入る『コレラ』は、コレラ菌の経口感染が原因で起こります。現代の日本では、海外から海産物などを介して輸入される感染症として意識されていますが、かつては国内でも大流行した記録があり、時代劇の中でコレラが猛威をふるう場面を時々見かけます。そのため、日本では過去の感染症と思われがちですが、コレラの世界的流行は今も続いています。今回は、このコレラについてあらためて意識する機会としましょう。

今なお続く、コレラの世界的流行

コレラ菌は、海水〜淡水まで水中環境に広く分布するビブリオ属の仲間です。ビブリオ属には、腸炎ビブリオやビブリオ・バルニフィカスなどの病原細菌が多く存在しますが、知名度や凶悪なイメージはコレラ菌が最も強いことでしょう。コレラに罹ると、激しい下痢に襲われ、その便は米のとぎ汁様と称されます。この激しい下痢は、コレラ菌の産生するコレラ毒素によって起こります。全ての種類のコレラ菌がコレラ毒素を産生するわけではなく、およそ150種ある血清型のうち、O1(オー1)とO139(オー139)と呼ばれる抗原を持つコレラ菌のみがコレラ毒素を産生します(注)。さらにO1コレラ菌は、バイオフィルムを作るタイプのエルトール型と、古典型(アジア型)とに分けられています。

コレラと思しき流行の記録は紀元前にまで遡る事ができますが、世界的大流行の認識は、1817年に始まった流行を第一次としています。この第一次世界流行から1899年に始まった第六次世界流行まで、原因となったコレラ菌はインドのベンガル地方から広がった古典型のO1コレラ菌であったと考えられています。世界は今、第七次世界流行の真っただ中にありますが、この発端は1961年にインドネシアのスラウェシ島であり、原因菌はそれまでとは異なるエルトール型のO1コレラ菌です。また、1992年にO139コレラ菌を原因とする新興感染が、インドのチェンナイから流行しました。こうして第七次世界流行は、エルトール型O1コレラ菌とO139コレラ菌とが交互あるいは同時に流行しながら、50年以上もの間インドを中心に世界的な拡がりを見せているのです。

コレラの死亡要因は脱水!?

著者は東南アジア滞在時、夜中に腹痛を伴わない猛烈な便意に襲われて『米のとぎ汁様』を経験しました。コレラ毒素の引き起こす下痢は通常の下痢とは全くの別物で、想像を絶する強さで襲ってきます。潜伏期間は数時間〜数日であり、おそらく前日の屋台での飲食が原因ではないかと推察しています。コレラ毒素はこの強烈な下痢を引き起こす毒素であり、高い死亡率の要因は急激な脱水症状です。先進国で発症した場合は速やかに病院で治療を受けることが可能ですが、コレラの流行するエリアは衛生対策の整っていない場所が多く、発症場所によっては命を落としかねません。脱水への対応は、体液と同程度の電解質(塩分やミネラル)を含んだ水を、飲み続けることにあります。スプーン1杯ずつ、1〜5分間隔で構わないので、ゆっくり飲み続けることが重要です。ただし、海水の飲用は高濃度の電解質を排泄しようと脱水に傾くので、非常時でも飲んではいけません。可能であれば、真水1リットルに、スプーン1杯(約2グラム)の塩と4杯の砂糖を混ぜて経口補水液を作り、給水しながら医療機関へ向かいましょう。シプロフロキサシンやドキシサイクリンなどの抗生物質で治療を行うことで罹病期間を短縮でき、点滴などの適切な処置を施すことで、脱水による最悪の結末を回避できます。

海外へ出掛けられる方は、コレラは今なお世界的に流行しているということを忘れてはいけません。感染予防を心掛けることが第一ですが、万が一海外で発症した場合にはしっかりと治療してから帰国するようにしましょう。日本国内へ不用意に持ち込んで、自分自身が流行の感染源とならないことも大切です。また、帰国してから体調を崩した場合には、速やかに医療機関を受診し、渡航先や渡航期間を伝えてください。コレラの第七次世界流行に巻き込まれないよう、一人一人が注意しましょう。

(注)コレラ毒素を産生しないコレラ菌は、非O1コレラ菌あるいはナグビブリオと呼ばれます。コレラ毒素は産生しませんが、他のビブリオ属菌と同様に食中毒原因菌として取り扱われています。