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コミュニケーション力や人間力も重要

職場訪問

理学療法士は、骨折後などの整形外科的な運動機能訓練、いわゆるリハビリの指導や手助けしてくれる人というイメージを持っている方が多いかもしれない。しかしその仕事は、整形外科的な分野だけでない。今回は北里大学北里研究所病院リハビリテーション技術科の渡邊智之氏に、理学療法士という仕事の内容、また同氏の経験から感じていること、仕事をする上で大切なことなどを伺った。
ドクターズプラザ2019年5月号掲載

職場訪問(3)/北里大学北里研究所病院

理学療法士は理系の仕事

―なぜ理学療法士になろうと思ったのですか。

渡邊 高校卒業後、最初はスポーツクラブで水泳のインストラクターなどの仕事をしていました。いわゆる、サラリーマンですね。理学療法士という資格は耳にしていましたが、スポーツに関わる仕事というイメージしかありませんでした。あるとき実際に理学療法士の仕事を見学してみると、病院がメインで、全く知らない世界に衝撃を受けました。20数年前のことですが、当時はスポーツに関わっている理学療法士はごくわずかでした。体とか、筋肉とか、トレーニングにはもともと興味がありましたが、それに加えて医療の世界にも繋がっていて、より人の役に立てる機会が多いのではないかと思い、理学療法士を目指すことにしました。

―理学療法士になるためには、どのような勉強をするのでしょうか。

渡邊 養成校を卒業すると、国家試験の受験資格を得ることができます。養成機関としては、今は4年制の大学が多いですが、当時はまだ大半が専門学校で、私が入ったのも専門学校でした。医療は理系の仕事が多く、理学療法士も同様です。数学、物理は必須ですが、私は、高校時代は文系だったので、まず医療系の予備校で勉強し直しました。当時はリハビリ専門の予備校はなく、医療系の予備校というと看護を目指す女性がほとんどでしたから、私はかなり浮いている存在だったと思います。予備校の理系科目では苦労しましたが、専門学校に入ってからは、運動生理学や解剖学などの専門科目もあり、あまり苦手意識もなく学ぶことができました。

―リハビリというと整形外科のイメージが強いですが。

渡邊 実際にはそればかりではありません。循環器科、呼吸器科、外科、神経内科ほか、多くの診療科に関わっています。私は現在、北里研究所病院リハビリテーション技術科の内科チームで仕事をしていますが、整形外科以外は全て担当します。多いのは手術後の患者さんの体を動かすお手伝いです。昔は、手術後は数日間は安静でしたが、平らなベッドで寝ていることが一番体を衰えさせてしまうので、現在は一部を除き大抵の手術では翌日には患者さんの状態を総合的に判断して、できる範囲で体を動かします。ベッドを起こして寄りかかるだけでも体は反応します。病院によっては、手術当日、麻酔が覚めたら動かすというところもあります。

整形外科は固くなった関節を動かしたり、筋肉を揉んだりしますが、内科のリハビリでは、患者さんとお話しをしながら指導することもとても多いです。
例えば心臓の場合は、入院後、何日目からリハビリを始め、日ごとにリハビリの内容をステップアップし、退院するといったプログラムが決まっているので、それに沿ってリハビリを行います。呼吸器では、6分間歩いていただいてその間の酸素量を測るなどの呼吸機能の評価業務がありますし、最近注目されているCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の方に痰の出し方や、苦しくならないような動き方をお伝えするなど、患者さんへの指導も行います。理学療法士は各疾患に対して一通りのことができるだけでなく、それぞれ専門の分野を持っていることが多く、私は呼吸が専門ですが、心臓や腎臓のリハビリを専門としている理学療法士もいます。整形外科の分野でも、肩、膝、腰などと専門が分かれてきています。

―リハビリと聞くと作業療法士という資格もありますが、理学療法士との違いは?

渡邊 理学療法士は寝る、立つ、歩くといった、大きな体の動きに必要な筋力や関節の動きを訓練します。それに対して作業療法士は、作業を通して、手の筋肉を使ったり、神経を訓練したりします。箸で豆をつかむような訓練を見たことがあるのではないでしょうか。一般に手術後は、まず理学療法士が最初に動作のベースを作り、作業療法士がその方の退院後の生活を踏まえた作業を訓練することが多いです。

「あの判断は良かったのか」と考えることもある

―理学療法士としての最初の仕事先は。

渡邊 1999年に資格を取得し、東海大学病院に就職しました。専門学校の最終学年に行う、8週間×2回の臨床実習でお世話になった病院でもあります。最初はいろいろな疾患を見たいと思っていたので、大学病院で良かったと思います。実習でも患者さんと触れ合ったり、プログラムを作ったりと、いろいろな経験をさせていただいたものの、仕事となるとプレッシャーが大きかったですね。一つは、知識も経験もない新卒でも、看護師の方々や指示をくださるドクターと話をしなければいけないこと。コミュニケーションにはすごく気を使いました。ドクターにも看護師にも、理学療法士の先輩にもずいぶん叱られましたが、急性期病院の厳しい環境で揉まれたのはいい経験になったと思います。

もう一つは、われわれのリハビリの方向性次第で、患者さんのその後の生活が変わってしまうという緊張感です。それでも整形外科の患者さんは、リハビリをして機能が回復すれば、障害が残る場合もあるものの、その後の生活に繋がっていきます。しかし内科の患者さんを多く受け持つようになると、自分の患者さんが亡くなることもあり、命の終末期に関わる仕事をしているという責任の重さを感じました。

―特に印象深い出来事はありますか。

渡邊 ご高齢の肺炎の患者さんがおられました。病状は終末期で、リハビリで介入しても状態に変化は見られない状態でした。その患者さんのお孫さんがたまたま理学療法士で、直接私に、呼吸のリハビリをしてほしいというお話がありました。おそらくご家族は、苦しい状態を何とかしてほしいという思いでおっしゃったのだと思いますが、いろいろなデータ等医学的に考えると、どう判断しても呼吸のリハビリをすべきではない。理学療法士としては先輩であるその方と意見の相違がありましたが、結局リハビリはせず、数日後に患者さんは亡くなりました。医学的には、確かにリハビリをしない方が正解だったと思いますが、あのときの判断は良かったのかと、今でも考えます。患者さんの状態は変わらないとしても、例えば手に触れてあげるだけで家族は救われる部分があったのではないかと。他にもいくつか、あの判断は正しかったのか、患者さんの力になれたのかと考える症例もありますが、そういう面ではこの仕事は難しいと思います。

人の気持ちになって考えられるように

―北里大学北里研究所病院の沿革と特徴について教えてください。

渡邊 当院は、北里柴三郎先生が1892(明治25)年に設立した伝染病研究所が起源です。その翌年、附属施設として日本初の結核療養所「土筆ヶ岡養生園」が建てられ、1914(大正3)年に北里研究所が創立され、1917年に「北里研究所附属病院」が開院しました。1931年に両施設が合併して現在の基礎となっています。

大学病院ではありますが、地域医療に熱心に取り組んでいるのが特徴で、昔から当院に通ってくださっている高齢の方も多いです。一方で港区白金という土地柄もあって周辺には企業がたくさんあり、当院の医師が産業医を務めていることも多く、現役時代に当院に通っていた方が、定年後も遠くから来てくださるケースも珍しくありません。大病院とは異なり、地域に根ざしやすい規模でもありますし、患者さんにも気軽に受診していただけるのだろうと思います。多くの病院が退院後の外来リハビリテーションを行わなくなっていますが、当院では退院後も、可能ならばリハビリに通っていただき、社会生活への復帰をお手伝いします。

―リハビリテーション技術科は、どのような体制で治療にあたっているのですか。

渡邊 リハビリテーション技術科には現在、理学療法士14名(男性9、女性5人)、作業療法士3名(男性1人、女性2人)、言語聴覚士2名(各1名)が所属しています。理学療法士は、私が属している内科チームのほか、整形外科チーム、地域包括チーム、介護チームに分かれており、内科チームは4名です。内科チームのメンバーは、それぞれ1日に10〜15人の入院患者さんのリハビリを行います。お部屋で行う場合もあれば、訓練室で機械を使って行う場合もあり、1人に20分〜1時間を要します。その間に外来患者さんのリハビリにも対応します。

看護師のような交代勤務ではなく、定時は8時半〜17時です。業務開始前に担当している患者さんのカルテのチェック、清掃、ミーティングを行うため、7時半には出勤します。全員のカルテを書き終えて病院を出るのは19時ごろです。

―理学療法士という仕事をしていて、どのようなことにやりがいを感じますか。

渡邊 われわれは、大きな病気をして人生が変化している方に関わるのですから、一人一人の患者さんと向き合わなければいけない。その方の仕事や通勤手段などさまざまなお話を聞いて、スムーズに社会生活に戻れるようにしなければならない。大変なことですし責任も感じますが、やりがいでもあります。退院した方が、外来に来られたときにお元気な姿を見ると、お役に立てたかなと思います。

―仕事をする上で大切なことは。

渡邊 チーム医療なので、コミュニケーションが大事ですね。特に内科の場合は、リハビリの業務と看護師のケアがかぶる部分があります。例えば、われわれは呼吸の観点からずっと同じ向きで寝かせたくないので体の向きを変えますが、看護師も床ずれ予防で向きを変えます。看護師ときちんとコミュニケーションを取っていないと、頻繁に患者さんを動かすことになってしまうのです。またいろいろな患者さんと接するためにも、コミュニケーション能力、人間力は必須です。患者さんの性格だけでなく、中には、がんの告知をされたばかりの方、余命宣告を受けた方などもおられますので、相手の気持ちになって考えられる人でなければ難しいですね。人間力は、学校以外にも養える場はたくさんあると思いますので、いろいろなことをして、いろいろな人と関わり、いろいろなものに共感する……、そういう経験を積んで理学療法士になってほしいと思います。

ドクターズプラザ2019年5月号掲載

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