2017

03/15

クラミジア

  • 感染症

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内藤 博敬
静岡県立大学食品栄養科学部環境生命科学科/大学院食品栄養環境科学研究院、助教。静岡理工科大学、非常勤講師。湘南看護専門学校、非常勤講師。

ドクターズプラザ2017年3月号掲載

微生物・感染症講座(57)

性感染症だけではないクラミジア感染症!?

はじめに

我が国では近年、梅毒の新規罹患者が増加していることを受け、本書でも警鐘を鳴らしてきました(Vol.121)。かつて梅毒は、軟性下疳、淋病および第四性病と共に四大性病と呼ばれ、これらは昭和23年に施行された性病予防法(※)の対象となっていました。現在の性感染症の報告数では、クラミジア症が圧倒的に多く、淋病、性器ヘルペス、尖圭コンジローマと共に5類感染症として性感染症定点からの報告が義務付けられています。現在日本で最も多い性感染症であるクラミジア症の蔓延防止を願い、今回はクラミジアについてお話します。

クラミジアは結膜炎の病原体!?

クラミジアは細菌の一つですが、大腸菌や乳酸菌などの一般的な細菌とは違って、生きた細胞の中でしか増殖することができません。感染した宿主の細胞内に封入体を作って増殖するさまはウイルスに似ていますが、クラミジアは封入体の中で二分裂しますし、リボソームや細胞壁などの細胞構造を有するので、偏性細胞内寄生細菌と呼ばれます。偏性細胞内寄生細菌には、増殖や生存にダニやノミなどの節足動物を媒介者とするリケッチアがありますが、クラミジアは媒介者を必要とせず、ヒトでは接触感染によって伝播します。接触感染の一つである性感染を引き起こす病原体は、トラコーマクラミジアです。トラコーマクラミジアは、生理的な違いからA〜L型の血清型に分類されています。主に眼と泌尿・生殖器の粘膜に感染して、A〜C型は結膜炎、D〜K型では非淋菌性尿道炎および入体結膜炎、L型では性病性リンパ肉芽腫をそれぞれ
発症します。

A〜C型が原因となる結膜炎はトラコーマと呼ばれる慢性角結膜炎であり、患者の眼から手やタオルなどを介して感染し、治療を怠ると失明します。性感染症の中で、現在の日本で最も多く報告されているクラミジア症は、D〜K型によって引き起こされる非淋菌性尿道炎や子宮頚管炎です。潜伏期間は2〜3週間と淋菌性尿道炎に比べて長く、男性での尿道炎は痛みが少なく、分泌物が膿性でないことから淋菌性尿道炎と比して称されています。女性では子宮頚管炎の他にも骨盤内付属器炎、肝周囲炎や不妊の原因にもなりますが、自覚症状に乏しく、淋菌など他の性感染症に重複感染して感染が分かることもあります。また、D〜K型は泌尿・生殖器の粘膜から眼の粘膜へ感染すると、封入体結膜炎を起こします。L型の感染では、鼠径リンパ節の化膿や全身性感染を主徴とする、鼠径リンパ肉芽腫を引き起こします。鼠径リンパ肉芽腫は、梅毒、軟性下疳、淋病に続く第四の性病として前述の四大性病に含まれていましたが、現在の日本では稀な感染症となっています。

肺炎の原因にもなるクラミジア

われわれが「クラミジア」と呼ぶ病原体は3種あり、全てクラミジア科の細菌ですが、前述の性感染症などを起こすクラミジア属と、肺炎やオウム病の原因となるクラミドフィラ属に分類されています。肺炎クラミドフィラを原因とする肺炎は、日本における肺炎の1割程度を占めています。成人の抗体保有率も60〜70%であり、極めて身近な感染症の一つです。また、心血管に動脈硬化を引き起こすことも証明されてきており、虚血性心疾患の原因の一つに位置付けられています。オウム病クラミドフィラも、ヒトに対して肺炎を起こす病原体です。その名にあるようにオウムはもちろんのこと、近縁種のインコだけでなくさまざまな鳥類に広く感染しており、鳥の肝臓や脾臓で増殖して心膜炎や下痢を引き起こします。ヒトは、感染している鳥の排泄物を吸入することで、オウム病と呼ばれる肺炎を起こすのです。

クラミジア科の感染では、病原体が粘膜上皮の中に生存しているので、粘膜分泌液に対して抗原検出、遺伝子検査や抗体価測定が行われます。抗生物質による治療が可能で、原因菌・病型に関わらず、第一選択薬としてドキシサイクリンの内服が用いられています。クラミジアによる性感染は、前述のように比較的症状が軽いために現在でも感染が拡大していると考えられています。性感染症の予防法としてコンドームを正しく使用すること、感染の疑われる相手や不特定多数との性交渉を避けることが大切です。万が一クラミジアに感染してしまった場合、一人で治療するのではなく、パートナーと同時に治療することが重要で、繰り返し感染(ピンポン感染)しないようにしましょう。
(注)性病予防法は、1998年に伝染病予防法、エイズ予防法と共に廃止され、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症新法)」が施行されました。また、2007年には結核予防法も廃止となり、感染症新法に一元化されました。

 

 

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