2013

11/23

カンピロバクター

  • 感染症

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内藤 博隆
静岡県立大学環境科学研究所/大学院食品栄養環境科学研究院 助教。短期大学部看護学科 非常勤講師、静岡理工科大学 非常勤講師。専門は環境微生物学、病原微生物学、分子生物学、生化学。ウイルスや細菌の感染予防対策法とその効果について、幅広く研究を行っている。

ドクターズプラザ2013年11月号掲載

微生物・感染症講座(35)

冬にも起こる細菌性食中毒

はじめに

今年も感染性胃腸炎(ノロウイルス感染症)の季節が近づいてきました。近年、年間を通じて食中毒予防啓発がなされていますが、冬場は「ウイルス性食中毒」に、高温多湿となる梅雨時から秋雨時までは「細菌性食中毒」への注意喚起がなされます。これらの食中毒は、流行の“ピーク”に季節性があるものの、いずれも年間を通じて報告がなされています。中でも、現代の細菌性食中毒の主役ともいえる「カンピロバクター」は、低温でも増殖が可能であることから一年を通じた食中毒の原因となっています。今回はこのカンピロバクターを中心にお話をしましょう。

低温に強いカンピロバクター

昨年(平成24年)の食中毒の報告から考察すると、一年間の細菌性食中毒とウイルス性食中毒の患者数では、集団感染の多いウイルス性食中毒患者が圧倒的に多く報告されています。しかし、事件数は細菌性食中毒とウイルス性食中毒でほぼ等しく、この両者で食中毒事例全体の90%以上を占めています。細菌性食中毒の起きやすい時期は、細菌の繁殖にうってつけの高温多湿となる梅雨時から秋の長雨までです。昔も今も、初夏から晩秋までは、微生物の繁殖に注意する必要があるのです。細菌性食中毒の原因となる微生物には、サルモネラ属、ブドウ球菌、ボツリヌス菌、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌、腸管出血性大腸菌、ウエルシュ菌、セレウス菌、エルシニア、ナグビブリオ、コレラ菌、赤痢菌、チフス菌、パラチフスA菌など、一度は耳にしたことのある細菌が名を連ねています。しかし、これらの細菌による食中毒は、近年劇的な減少傾向を示しています。その要因の一つに、食品の低温輸送や低温販売が挙げられます。病原細菌の多くはヒトの体温付近で活発に増殖するので、製造・輸送・販売の過程で低温を維持することは、食中毒予防の三原則の一つ「病原体を増やさない」を達成することになるのです(*1)。

これらの細菌による食中毒が減少する一方で、食中毒事例数を維持している細菌が「カンピロバクター」です。実は、カンピロバクターは低温の中ででも増殖する細菌なのです。グラム陰性のらせん菌であるカンピロバクターは、鞭毛をスクリューのように高速回転させて移動します。検鏡像がウネウネと曲りくねった細菌であることから、ラテン語で「曲った細菌」を意味する「カンピロバクター」と名がつけられました。これまでに17菌種ほど見つかっていますが、ヒトに食中毒を起こすものは数種類で、その95%以上はカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacterjejuni)によるものです。牛、羊、鶏、犬、猫、水鳥 など、家畜やペットの腸管から水を介して感染することが多く、中でも鶏肉や鶏卵による食中毒が多いと考えられています。カンピロバクターに感染すると、2日から一週間の潜伏期間を経て、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛などの前駆症状が表れ、吐き気、腹痛などの消化器症状を呈します。ほとんどの場合は自然治癒するため、予後良好な感染症と言えますが、続発的にギラン・バレー症候群(急性突発性多発性根神経炎)を起こすことがあると報告されています。アメリカでの統計では、ギラン・バレー症候群患者の10~30%がカンピロバクターに感染経験があることがわかっています。ギラン・バレー症候群は運動神経が障害されて四肢に力が入らなくなる病気で、日本では特定疾患に認定されている指定疾患です。日本でもカンピロバクター感染とギラン・バレー症候群の関連が報告されており、治療には血清交換が有効であることから、ギラン・バレー症候群は生体防御機構によって自分自身を傷つけてしまう“自己免疫疾患”の一つと考えられています。

冬こそ食中毒対策を!!

食中毒のイメージとしては、気温が高くなる夏場に流行するものと思われていましたが、近年ではノロウイルス感染症が冬場に流行することからも一年を通じての食中毒予防が重要となってきています。今回紹介したカンピロバクターは、60℃以上の高温には弱いため、食材にしっかりと火を通すことが食中毒予防として重要です。また、肉類を調理する際には、生食する野菜などと調理器具を一緒にしないといった、接触を避ける対策も重要です。また、ウイルスや細菌だけでなく、昨冬にはアニサキスやクドアといった寄生虫の報告も相次ぎました。次亜塩素酸系を用いたノロウイルス対策を中心に、冬場も食中毒対策を充実させましょう!

 

(*1)食中毒予防は、まず食中毒の原因となる微生物を食品に付けないように気を付けること。微生物は目に見えないので付いてしまったとしても、増やさないように対策すること。そしてきちんと殺菌対策などで取り除く事。①付けない、②増やさない、③除くの3原則で、しっかりと食中毒を予防しましょう。