2024

06/03

エネルギーと、タンパク質は足りていますか?

  • 在宅医療

四街道まごころクリニック
院長
梅野 福太郎

在宅医療(2)

Bさん(79歳・男性)は、一人暮らしで体調が悪くなると食事摂取量が低下、脱水により入退院を繰り返しており、1年に4度ほど救急搬送されることも。そこで当院に依頼があり訪問診療を開始。内服薬を見直し、介護保険サービスを導入。訪問看護と訪問介護の定期介入を開始し生活をサポート。体調が悪化したときには介護サービスを密に提供し、時には点滴を施行することで改善し、救急搬送なく自宅療養されていました。

点滴と共に活躍したのがONS(Oral Nutritional Supplements):経口的補助栄養でした。

今回は、Bさんのケースで課題となった高齢者の「食事」と「栄養」について考えたいと思います。

栄養のギアチェンジ

身長と体重から肥満度を計算するBMI(Body Mass Index)という指標があります。

※BMIの計算式;[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]

一般成人(男女)のBMIは22とされています。しかし、65歳以上(男女)を対象としたBMIと死亡率を見た研究データ(*1)では、男性の場合はBMIが25~27、女性でも23~25位とやや肥満傾向の方の死亡率が低く、男女ともに18.5を下回る「やせ」だと、むしろ死亡率が急激に高まることが知られています。

通院困難で訪問診療を受けている高齢者(男女)のBMIを調査した医療法人悠翔会 佐々木医師らの報告では、約60%の方がBMI 18.5 以下との結果が出ています。

もちろん一般成人では栄養を取り過ぎない、生活習慣病・メタボ対策が大切になります。糖尿病、高血圧、脂質異常症から動脈硬化が進展する心筋梗塞や脳卒中をいかに回避するがが大切です。

しかし、男女ともに65~75歳を境にタンパク質やビタミンDも含めて、十分なエネルギーをどれほど取るかが重要になってきます。プラス7000Kcalで体重が1㎏増えるといわれており、日々の通常の食事を取りつつ1日当たり200~300Kcalをどのようにしてプラスアルファするかということが課題となります。そのような課題の解決策として冒頭のBさんのケースで活躍したONS(経口的栄養補助)が有用です。ドリンクやゼリーなどで少量にもかかわらず、手軽に100~200Kcalほどのバランス良い栄養・エネルギーを摂取することができます。さらに、市販されているので手軽に手に入れることができ、治療として必要とされる場合は処方できるものもあります。

また、メタボ対策としては敬遠されがちなメニューも活躍します。例えばハンバーガーや牛丼などいわゆるファストフードは、高エネルギー・高タンパク質のものが多く、しかも短時間で手頃な費用で用意することができます。訪問先で好きな食べ物は? と聞くと、高齢の方は刺身と答える方が多いですが、最近はハンバーガー! と答える方もしばしばお見かけします。コンビニエンスストアやドラッグストアでも、手軽に適切なエネルギーとタンパク質を摂取できる商品が多く陳列されていますので、お試しになられてはいかがでしょうか?

このように年齢に応じて、栄養に関するギアチェンジをする事が大切です。

年齢と共に食事が取れなくなる理由

では、どのような原因で食べられなくなるのでしょうか。

う歯(虫歯)、認知症、鬱などの病気が要因のことがあります。また費用的に十分な食事を用意できないこともあるでしょう。高齢となると食事を用意できない、調理ができない、食事の介助不足、環境調整なども挙げられます。

高齢単身世帯となってくるとこれらがさまざまに絡み合い、食事の摂取量が不足してくることが考えられます。冒頭のBさんのケースでは訪問診療が介入し、介護サービスを整えることによってサポートできました。同居のご家族がいれば協力を仰ぐこともできるかもしれません。

このように、その人の“食べる”をみんなで支える考え方が非常に大切になってきます。

“何を食べるか”以上に“誰と食べるか”が大事!

そして何より“何を食べるか”以上に大事なのが、“誰と食べるか”です。

1人で食べる孤食に比べて一緒に食べる共食の場合は、死亡率が3分の2に低下することが分かっています。体をつくるために必要な栄養素を摂取するだけでなく、その人の人生に彩りを添えてくれるのです。

現在、当法人には管理栄養士1名と食事のリハビリのプロフェッショナルである言語聴覚士が在籍しています。彼らが食べるのにお困りの地域の方々を訪問し、サポートしています。食べる事は当たり前であるがゆえ、当たり前と思い込み逆におろそかになる現実があります。

また最近、“フレイル”という言葉をよく耳にすると思います。“フレイル”とは、健康な状態と要介護状態の中間に位置する状態です。そのフレイル対策、健康長寿の3つの柱として“運動”と“社会参加”に並んで“栄養”が挙げられています。

日本人の平均寿命は男性81歳、女性87歳。一方で、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる健康寿命は男性72歳、女性75歳となっています。それぞれ男性9年、女性12年の期間は日常生活に制限のある期間があるといえます。

豊かに実りある生活を送り、その人らしく健康的に“生き生き”と生きられる期間を少しでも伸ばせるように、普段から食事・栄養面で工夫できるといいですね。

 

*1:文部科学省科学研究費の助成を受けたコホート研究「JACC Study」で、研究開始時点で65~79歳だった2万6,747人を対象に平均11.2年追跡して調査。

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