menu

イボとウイルス

感染症

内藤 博敬
静岡県立大学食品栄養科学部環境生命科学科/大学院食品栄養環境科学研究院 助教。静岡理工科大学 非常勤講師。湘南看護専門学校 非常勤講師。
ドクターズプラザ2019年1月号掲載

微生物・感染症講座(66)

はじめに

皮膚にできる小さな盛り上がりのあるデキモノを、私たちはイボ(疣)と呼んでいます。子供や高齢者に多くみられる皮膚疾患の一つですが、顔や手足といった人目に付く場所にできたイボは厄介ですよね。また、治療しても再発しやすく、海外では全身に感染、発症している患者さんもいらっしゃいます。このイボができる主な原因がウイルス感染によるものだということをご存じでしょうか。イボそのものは良性腫瘍として命に関わる感染症ではありませんが、イボを作るウイルスの仲間には、がんに関係するものも存在しています。今回はイボとウイルスとの関わりについてご紹介しましょう。

イボの種類と原因

一口にイボと言ってもその種類はさまざまで、全てがウイルス感染によってできるわけではありません。中高年者になって首回りなどにできるブツブツ(スキンタッグ)や、高齢者に見られる老人性疣贅(脂漏性角化症)などの感染症を原因としない皮膚疾患もイボの一種です。しかし、子供に見られることの多い“ミズイボ”は、伝染性軟属腫ウイルスの感染を原因とするイボです。さらに、専門用語で尋常性疣贅(じんじょうせいゆうぜい)と呼ばれる最も一般的なイボは、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV、ヒトパピローマウイルス)の感染によってできるイボで、ウイルス性疣贅とも呼ばれます。一般的なイボは手足によく見られますが、ミズイボは手のひらや足の裏といった末端ではなく、ほとんどの場合で身体にできます。いずれも皮膚疾患ですが、HPVは、体表の小さな傷口から表皮と真皮の境目にある基底層に感染してイボを形成すると考えられており、ミズイボの原因となる伝染性軟属腫ウイルスは毛、毛穴から感染すると考えられています。

最も一般的なイボの原因となるヒト乳頭腫ウイルスは、これまでに200種類以上の型が見つかっており、種類によってイボを形成し易い場所や形が異なります。手指や足の裏などにできる、ザラザラした肌色、白色または褐色の尋常性疣贅はもちろんのこと、主に女性の顔や腕にできる平たいイボ(扁平疣贅)や、外陰部や肛門周辺にできる尖ったイボ(尖圭コンジローマ)も、HPVを原因とした感染症です。また、HPVの中には子宮頸がんの原因となるウイルスや、膀胱がん、咽頭がんとの関連性が高いウイルスも知られています。通常、尋常性疣贅や扁平疣贅ががん化することはありませんが、皮膚の腫瘍にもさまざまな種類があるので、自己診断せずに皮膚科専門医の診察を受けるようにしましょう。

イボの治療法

HPVの感染が原因となるイボは、原因がウイルスなのでヒトからヒトへとうつる可能性があります。しかし、健康であれば免疫が働いて、簡単には感染しません。逆に、免疫が低下している場合には、イボができやすくなるだけでなく、悪化したり治りにくくなることが知られています。免疫力はさまざまな感染症対策としても重要ですが、国内には多くの「イボ取り地蔵・神・観音」が祀られており、昔はお参りして「これで治る」と思うことで免疫力が上がり、実際にイボが治ることもあったと考えられています。

現在、HPVに対する特効薬は開発されていないので、治療はできてしまったイボを取り除くことです。イボの種類や発生部位が患者さんによって異なるので、液体窒素を用いた冷凍凝固療法、電気焼灼法、グルタルアルデヒド等の外用療法、ヨクイニン内服療法などの中から治療法が選択されます。しかし、イボの排除は簡単ではなく、選択した治療法で複数回の治療が必要になることも少なくありません。お話ししたように、通常のイボはウイルス感染によるものなので、自分自身で切除したり、頻繁にいじるなどした場合には、周辺に感染を拡げてイボの数を増やす可能性が高くなるので、皮膚科医とともに根気よく治療しましょう。

イボを防ぐには?

HPVの中でも、性感染症の一つでもある尖圭コンジローマと子宮頸がんに対するワクチンは、それぞれ開発されていますが(※1)、イボを作るタイプのHPVに対するワクチンは開発されていません。前述のように、HPVは小さな傷から皮膚の奥へ侵入して感染するので、健康な皮膚を保つことが何よりの予防となります。髭剃りあと、指先のさかむけ、擦過傷、手荒れ、足先の皮むけなどがあるとHPVだけでなくミズイボにも罹りやすいことが報告されています。乾燥肌や痒みを感じた時に引っかくようなことをせず、外傷を起こしやすい手足、肘や膝、髭剃りあとなどの肌荒れに対するスキンケアを心掛けることが、最大の予防法です。

 

※1 子宮頸がんの対策として開発されたワクチンですが、副作用が起きた場合に重症となるケースが報告され、現在は「積極的な接種勧奨の一時差し控え」となっています。

ドクターズプラザ2019年1月号掲載

記事一覧へ