2013

04/25

アルボウイルス

  • 感染症

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内藤 博敬
静岡県立大学環境科学研究所/大学院食品栄養環境科学研究院 助教。短期大学部看護学科 非常勤講師、静岡理工科大学 非常勤講師。専門は環境微生物学、病原微生物学、分子生物学、生化学。ウイルスや細菌の感染予防対策法とその効果について、幅広く研究を行っている。

ドクターズプラザ2013年4月号掲載

微生物・感染症講座(28)

植物の樹液を吸う節足動物は、ウイルスの“乗り物”となっている

はじめに

年頭から重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の報告が相次ぎ、前号では感染症を媒介する節足動物として「ダニ」を紹介しました。感染症を媒介する吸血性の節足動物には、ダニやノミ以外にも昆虫類の蚊、ツェツェバエやカメムシ(サシガメ)などがいます。これら節足動物の吸血活動によって脊椎動物に伝播する多くのウイルスをまとめて、「アルボウイルス」と呼んでいます。今回はこのアルボウイルスの中でも、特に重篤な症状を呈するフラビウイルス科とブニアウイルス科のウイルスに焦点を絞って紹介しましょう。

日本でも身近なアルボウイルス

「血を吸う虫」と言ったら、皆さんは何を連想されるでしょうか。恐らく、多くの方が“蚊”と答えるのではないかと思います。蚊の種類は数千種と言われていますが、日本に生息する蚊はおよそ100種類で、そのうちヒトや動物を刺す蚊は3分の1種程度です。昼間に吸血する「ヤブカ」と、夜間に吸血する「イエカ」や「ハマダラカ」など、皆さんも一度は刺されたことがあるのではないでしょうか。アルボウイルスは、ネズミやブタなどの動物に寄生していますが、蚊が吸血活動を行うことでこれらの動物から、ヒトにも伝播してしまうことがあるのです。蚊が媒介するウイルスの中には、名前に「日本」と付くウイルスがあります。コガタアカイエカが媒介する「日本脳炎ウイルス」です。感染症法で第四類感染症に分類されている日本脳炎にはワクチンがあり、現在は定期予防接種(*1)に指定されています。日本脳炎ウイルスは、フラビウイルス科フラビウイルス属に分類されるウイルスで、この属にはセントルイス脳炎ウイルス、マレーバレー脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルスなど、蚊が媒介して脳炎を起こすウイルスがいくつかあります。また、中央ヨーロッパダニ媒介性脳炎ウイルスやロシア春夏脳炎ウイルスなどの、マダニが媒介して脳炎を起こすウイルスもあります。さらに、ヤブカ属のネッタイシマカが媒介するデング熱ウイルスや黄熱ウイルスも、このフラビウイルス科のウイルスです。ネッタイシマカは日本には生息しませんが、デング熱ウイルスは日本にも生息するヒトズジシマカも媒介することが分かっており、交通網の発達や地球温暖化の影響でデング熱ウイルスが日本国内で蔓延しないよう、監視と対応を強化しなければなりません。

アルボウイルスの中で、フラビウイルス科と並んで重篤な症状を呈すことが知られているのが、ブニヤウイルス科です。ブニヤウイルス科には、感染症法で第一類に分類されているクリミア・コンゴ出血熱や、アルボウイルスではありませんが第四類に分類されているハンタウイルスなどがあります。クリミヤコンゴ出血熱ウイルスは、アフリカ大陸、ヨーロッパから南部アジアにかけて生息するマダニが媒介する疾患で、ハンタウイルスはネズミなどの小型の哺乳動物の糞便を介して伝播する致死率の高いウイルスです。また、国内での死亡例が立て続けに報告された新種のマダニ媒介性疾患「重症熱性血小板減少症候群(SFTS:severe feverwith thrombocytopenia syndrome)」の原因ウイルスも、このブニヤウイルス科のウイルスです。

節足動物を乗り物にする病原体

ウイルスではありませんが、犬を飼われている方は蚊がフィラリアという寄生虫を媒介することを御存知でしょう。吸血性の節足動物は、ヒトだけをターゲットにしているわけではなく、多くの哺乳類から吸血し、それによって病気を媒介しています。前述の日本脳炎ウイルスはブタから、クリミア・コンゴ出血熱ウイルスはウシやヒツジなどからヒトへと伝播します。ブタは日本脳炎ウイルスに感染しても、ウシやヒツジはクリミア・コンゴ出血熱ウイルスに感染しても、症状が出ません。しかし、ブニヤウイルス科のリフトバレー熱ウイルスでは、感染によってヒトだけでなくヒツジやヤギでも肝壊死や流産などの症状がみられます。これらのウイルスは感染症法だけでなく、家畜伝染病予防法でも規定されています。また、哺乳類との間で感染は起こりませんが、アザミウマという植物の樹液を吸う節足動物は、ブニヤウイルス科のトマト黄化壊疽ウイルスを、ナス科、キク科やマメ科などに伝播させることが知られており、様々な生物の間で節足動物がウイルスの“乗り物”となっているのです。

(*1)公衆衛生的視点から発生及びまん延を予防することを目的として予防接種を行う一類疾病と、個人の発病や重症化さらにはまん延の予防を目的とした二類疾病とがある。一類疾病には、ジフテリア、百日せき、急性灰白髄炎(ポリオ)、麻しん・風しん、日本脳炎、破傷風、結核があり、二類疾病はインフルエンザを対象として市区町村長の責任で接種することが定められています。