2015

03/16

アカントアメーバ

  • 感染症

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内藤 博敬
静岡県立大学食品栄養科学部環境生命科学科/大学院食品栄養環境科学研究院、助教。静岡理工科大学、非常勤講師。湘南看護専門学校、非常勤講師。

ドクターズプラザ2015年3月号掲載

微生物・感染症講座(45)

コンタクトレンズの普及と共に増えている角膜炎

はじめに

年度があらたまる春。気持ちも新たに、オシャレに磨きが掛かる季節ですね。進学や就職を機に、コンタクトレンズ・デビューされる方もいらっしゃるのではないでしょうか。視力の矯正用具として十九世紀の終わり頃から開発されてきたコンタクトレンズの利用者は、日本でも年々増加傾向にあります。また、近年ではオシャレ目的に色付コンタクトレンズを装着する方も増えてきました。コンタクトレンズは医療機器ですが、間違った使い方をすれば感染症の原因になりかねません。その中でも今回は、最も病状が重くなる可能性の高い「アカントアメーバ」を紹介しましょう。

コンタクトレンズやケースは水道水で洗わない!

アメーバとは、生物学上は我々と同じ真核細胞を持つ単細胞の寄生虫で、分裂、代謝、運動性など、動物としての特徴を持っている原生動物です。原生動物の中でもヒトに病原性を示すモノを「原虫」と呼び、形態学的特徴や運動性からアメーバは偽足(仮足)を使って運動する「根足虫類」に分類されています。アカントアメーバの「アカント」とは『棘(とげ)』のことで、偽足を自身の表面にたくさん持っていて棘のように見えることからその名が付きました。原虫には、環境が悪化するなどして生育が厳しくなると、抵抗力の強いシスト(嚢子)に形を変えて生き延びる能力があります。シストになっても感染性は消えないので、ヒトの体内に入って温度や栄養を得られるようになると、再び活動・増殖し始め、我々は病気になってしまいます。もちろんアカントアメーバもシストになるので、治療時に薬が効きにくく、重症化することがあるのです(注)。

通常、アメーバは流れの少ない淡水や土壌中に生息しており、微生物を捕食したり、土壌中の有機物を分解するなどしています。アカントアメーバも土壌や淡水中などの環境中に普遍的に存在しています。昔から身近に存在していますが、かつては人間生活を脅かすほどの脅威ではありませんでした。コンタクトレンズの普及と共に、アカントアメーバを原因とする角膜炎の報告も増えてきたのです。特に、レンズの手入れ不十分や、指定期間を越えての使用や使い捨てコンタクトレンズの再装着など、ルーズに使用している場合に多くみられます。また、洗浄液を使わずに水道水で洗浄することも、アカントアメーバ感染の確率を高めます。前述のように、アカントアメーバは淡水中に生息するので、家庭でも水回りに生息している可能性があります。水道水そのものがアカントアメーバに汚染されていなくとも、洗浄や装着の際に、レンズにアカントアメーバを付着させてしまう危険性があるのです。また、保存するタイプのレンズでは、保存液だけでなく、保存ケースも定期的に交換するなどして、衛生を保つようにしましょう。

コンタクトレンズの使用によって起こる角膜炎をはじめとした感染症は、アカントアメーバに限ったものではなく、細菌、真菌、ウイルスを原因として多々あります。コンタクトレンズの使用に際しては、医師の指導をきちんと守り、正しい使用法を心掛けましょう。

アカントアメーバ角膜炎はコンタクトレンズを使わなくても起こる!?

ここまでのお話で、コンタクトレンズを使わない方にはアカントアメーバなど恐れるに足りない微生物だと感じられたかと思いますが、油断は禁物です。アカントアメーバ角膜炎の報告は、コンタクトレンズ利用者だけではありません。水辺や土壌中に常在する微生物なので、コンタクトレンズの使用に関係なく、アカントアメーバ角膜炎は報告されています。また、非常にまれなケースではありますが、糖尿病、免疫不全やアルコール依存性などの患者では、アカントアメーバを原因とした肉芽腫性脳炎も報告されています。さらに、アカントアメーバは、自身の細胞内に様々な微生物の宿主となって保有することのできる特殊な性質を持っています。ヒトの病原体を保有していることも多く、肺炎の原因となるレジオネラなどの温床となっていることが報告されています。土に触れた時はもちろん、川や湖などで遊んだ後には、流水でしっかりと手を洗うなどの予防を心掛けましょう。

 

(注)アカントアメーバの治療には、ミコナゾール(点眼)やフルコナゾール(内服)が用いられますが、これらは静アメーバ作用はあるものの、殺アメーバ作用は極めて弱く、保険適用外です。投薬治療が困難な場合は、外科的な病巣掻爬が行われることもあります。

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