2016

01/16

それって病気?(4)

  • メンタルヘルス

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西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

ドクターズプラザ2016年1月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(35)

適応障害の診断と治療

新たな「うつ病」とは?

「新型うつ病」とか「現代型うつ病」という病名を聞いたことはありますか? 従来言われていたうつ病――毎日憂うつで全ての活動において興味や喜びが失われ、全身倦怠感がある――というのとは異なり、自尊心を傷つけるような事件をきっかけに、自分にとって好ましくない環境の中で全身倦怠感や疲労感、抑うつ感があり、休職などによってその現場から離れると改善するタイプのうつ病を指すことが多いようです。入社してやっと仕事に慣れた2、3年目に、少し大きな取引で失敗をするということは起こりがちです。

適応障害の診断と治療

1年目とは打って変わり、上司も烈火のごとく怒っています。「新人じゃないんだ。どうしてそんなミスをするんだ」と難じますし、取引先には「自分で謝りに行ってこい」と厳しい態度です。取引先でも一方的に責められるばかりで、立つ瀬はありません。Aさんの場合は、眠れない日々が続き、やっとの思いで職場に行っていましたが、叱責されて10日ほどすると朝起きても体が重く、とうてい通勤は無理な状態になりました。休んでいても休んだ心地がせず、1週間ほどたった頃に、職場から顔見知りの人事のスタッフが見舞いに来て、「一度メンタルヘルス科を受診したらどうだろう」と言いました。メンタルヘルス科を受診すると、医師は「うつですね。休んだ方がよいので、3カ月の診断書を書きましょう」と言いました。「3カ月も休むのか」と内心びっくりしましたが、同時にホッとした気持ちになりました。休むと決めて、上司と人事に連絡をし、診断書を送付すると、頭も心もすっかり軽くなったようでした。

1週間もすると重苦しい気分も消え失せ、朝の体の重さもなくなりました。何やらすっかり良くなった気がして、次の受診日には「先生、もう復職します」と伝えましたが、医師は心得た様子で「一応復職の診断書は来月1日付で書いておくけれど、復職の直前になるとまた症状がぶり返しちゃうんじゃないかなあ。もしそうなったら、本腰を入れて病気と取り組んでみよう」と言いました。その時はとても気分も体調も良かったので、「何を言っているんだろう」と聞き流しましたが、復職する予定日の5日前くらいから朝の重苦しい気分や全身のだるさがぶり返してきました。慌てて主治医に会いに行きました。「先生の言う通り、会社に行こうと思ったら、休んだ頃と同じ症状が出てきてしまいました。上司に怒鳴られた場面もずいぶん夢に出てこなかったのに、昨夜はその夢で目が覚めてしまいました」とすっかり落ち込んだ様子で訴えました。

ストレスを乗り越えるために

Aさんは負けず嫌いで真面目な性格できちんと仕事をする人でした。仕事には失敗もあり、合理的な叱責であれば喜んで受け入れてきました。上司からの叱責が「新人じゃないんだ」「たるんでいる」「気合が入っていない」などという、真面目に仕事に取り組んでいないかのような感情的な叱責だったことで、人格を否定されたような気分になりました。叱責された当座は上司によく似た人を見ても、頭が痛くなり、動悸がするようなありさまで、我慢して出社しているうちに、眠れなくなってしまいました。叱責の場面を夢に見るようになり、出社することが怖くなってしまいました。休んだ当時の症状がぶり返してきたようです。医師は「うつ病のような症状が出ているけれど、ストレスに反応して起こってきている症状だと思いませんか。Aさんの心の中には上司が実際よりもずっと大きいストレスになって居座っているようですよ。このままでは会社に行こうとすると、また同じ症状がぶり返すことになると思いませんか」と言いました。Aさんはストレスを乗り越える力をつけるために、認知療法を行うリワークに通うことにしました。

適応障害という診断でしたが、診断基準にあるように、3カ月したら自ずと軽快するタイプばかりではありません。Aさんのように、ストレスが実際以上に大きく捉えられ、悪夢を見たり、フラッシュバックが起こったりする場合は、認知療法など心理面の働きかけが必要になります。

 

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