2015

07/16

それって病気?(1)

  • メンタルヘルス

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西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

ドクターズプラザ2015年7月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(32)

月経前不快気分障害の診断と治療

生理前の身体症状が……。

女性ならば誰でも、生理の前に体がだるかったり、どんよりと気持ちが落ち込んだり、イライラすることは当たり前だと思っているかもしれません。今回、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)の診断基準によると、抑うつ症候群の中の独立した疾患として取り上げられたと聞くと、びっくりしますか?診断名は「月経前不快気分障害」です。今までは当たり前の、女性だったら誰もが感じる気分のいら立ちや落ち込みと思っていたものが、どうやら立派な病気のように扱われています。一生涯生理の前に不快な気分や落ち込み、常にはないイライラ、怒りっぽさを経験しないという女性はいないでしょう。職場や社会で女性がイライラしていると、「あの人、生理前だったっけ」などとこっそり陰口を言った経験のある人もいるでしょう。生理の前に多くの女性が心身の変化を経験するというのは、ごく当たり前のこととして受け入れられてきたのです。

それでは、一体どのような場合に「障害」となるのでしょうか。DSM-5の他の診断基準と同様に、日常生活に明らかな不都合、会社や学校、社会活動に参加できなくなったり、思ったように行動できなくなる時に障害とされます。ほとんどの人が経験する月経前の症状の延長線上にありますが、重篤で大きく社会的機能を障害するものです。

うつ病やパニック障害ではないのに、ひどく落ち込み絶望的な気分になり、突然悲しくなったり涙がこぼれてきたり、ひどくイライラして近しい人に当たり散らしたり、突然起こる強い不安や緊張、高ぶりに耐えられないほどになったりします。その結果、仕事や学校、趣味の活動に興味を失い、集中できなくなり、疲れやすく、気力もなくなります。他のうつ病と同じように、食欲や睡眠も障害されます。多くの人たちは過食であったり、過眠であったりする点が特徴的です。これらの唐突に湧いてくる不快な気分やいら立ち、落ち込みは、抗い難く圧倒される感覚を持っていて、自分ではどうにもできないと打ちのめされてしまいます。この時期はいつもの生活はギブアップです。生殖に関係する様々な身体症状を伴います。乳房の痛みや下腹部の疼痛、関節や筋肉の痛み、むくんでいるというのか、膨らんでいるような感覚、当たり前の生理の前の身体症状が顕著に現れます。DSM-5では、これらの症状が五つ以上認められることを月経前不快気分障害の診断条件としています。

「月経前不快気分障害」の治療

「こんなのだったら私もある」と思われる方もいらっしゃるでしょう。実際この障害の12カ月有病率は生理のある女性の1.8%から5.8%といわれています。最大で見積もると十数人に一人ということになるので、生理のある限り継続して症状を呈することを考えると、しばしば見かける障害とも言えるでしょう。よく経験されるように、ストレスがあると症状は重くなります。精神的なストレスはもちろんですが、季節の変化や天候の変化にも反応すると言われています。実は高血圧や糖尿病、がんのように遺伝的な要因が関与している可能性があります。つまり、お母さんがお産が重たいとお嬢さんもお産が重たいように、生理の前に寝込むお母さんのお嬢さんは、やはり寝込んでしまう確率が50%程度あると考えられています。

もしあなたが「月経前不快気分障害かな」と思ったら、今から2カ月間観察してください。2カ月間続けて診断基準に合う時は、診断を満たします。もしあなたが今まで一度も月経前不快気分を経験していなかったとしても、いつ発症してもおかしくはありません。初潮直後から出現する群と、閉経が近づいてから発症する群の大きく二つの山があります。もしあなたが更年期障害になってホルモン療法を行った場合は、さらに月経前不快気分になりやすくなります。

今まで女性であれば誰でもが耐えることのできる苦痛と考えられてきたことが、人生から有意義な時間を奪う病気として取り上げられるようになりました。月経前不快気分障害の治療は、他の抑うつ障害群と同様に薬物療法が推奨されています。太古から続いてきたこの苦痛は、お薬の力で消えていくのでしょうか。女性の皆さん、どうお考えになりますか?