2016

05/15

これって認知症? ―忍び寄る老齢化、誰もが抱える認知症のリスク―

  • メンタルヘルス

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西松 能子
『よしこ先生のメンタルヘルス』
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業。
公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職。
日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

ドクターズプラザ2016年5月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(37)

認知症の方を地域で支える

東京都下は現時点では比較的高齢化率は低いと言われていますが、すでに人口の23・1%を高齢者が占めています。おおよそ4人に1人は高齢者です。10年後には約1・25倍になります。東京都は、平成24年度の地域拠点型認知症疾患医療センター12病院指定に引き続き、地域連携型認知症疾患医療センター41医療機関を指定しました。その中には、皆さんのかかりつけの診療所も含まれているかもしれません。東京都は、認知症の人とその家族が入院施設や施設ではなく、地域で暮らしていくことを目指しています。

実は、「地域で暮らしていく=在宅での認知症ケア」には多くの困難を伴います。それらの困難を地域で支えていくための訪問支援や地域連携を進めていくために策定された施策ですが、何しろ初めての試みですから、大変です。平成24年の指定12病院が病院として地域に根ざしていくのもなかなかうまくはいきませんでした。新たに10診療所を含むセンターが指定されましたが、課題は多いかもしれません。

気付きのポイント、三つの「ふ」

認知症における困難さは、本人が徐々に忍び寄る認知の障害に気付きにくいことです。取り囲む家族も、本人との心理的距離によっては気付きにくいことがあります。身近で暮らしている家族のうち、初めに気が付くのは血縁関係のない家族、つまりお嫁さんであることがしばしば事態を混乱させます。息子は仕事で忙しく、なかなか親の認知症の進行には気付きません。遠くに住む娘さんは電話で話す時に、当然ですが今日の日付や年齢を尋ねることはありません。昨日と同じようにお嫁さんへの愚痴を聞かされても、その繰り返しをいぶかしく思うこともないかもしれません。

かかりつけの内科医も、高血圧や糖尿病で受診している患者さんの認知症について、かなり進行しないと気付かないことがあります。介護認定書類や成年後見人用主治医診断書を求められて、「あ、認知症だったのか!」と初めて気が付くこともしばしばあると言います。内科医の先生方に外来で気を付けていただきたいことについて、

①不規則な受診:外来スタッフが「今日○○さんがお出でで、ハッと気が付いた様子で『今日は受診日じゃなかった』とお帰りになられました」という報告が入る。

②頭髪などの乱れ:「どうもこのところ美容院には行っていないのかなあ」と思わせる。

③服装の乱れ:食べ物の汚れや着衣の乱れが目立ったりする。

という「不規則、不衛生、服装の乱れ」の三つの「ふ」を見過ごさないでください、と申し上げます。そんな漠然とした「あれ?」を感じたら、見当識や記銘力を尋ねてみてください、とお願いしています。
質問する時に検査されているという印象を持たず、自然体で答えていただく工夫があります。例えば、ご年齢を尋ねるのには、前振りに「お元気ですね。おいくつになりましたかね」とお尋ねし、「○○歳です」と答えていただいたら、「いやあ、若く見えますね」とまとめるのがコツです。書類を書きながら、医師の方が健忘を装い、「今日は何日でしたっけ?」と尋ねるのもいいでしょう。答えを頂戴したら、「ありがとうございます」と受けます。長期記憶を尋ねるには、「息子さんも大きくなりましたでしょう。何というお名前でしたっけ?」と尋ねます。短期記銘を尋ねる場合には、「これから血液検査をいたしますが、朝何時頃何を食べたか教えてください」などと聞きます。ある内科の先生が、こんな聞き方を外来でされたところ、65歳以上の受診者の4割以上が認知症と診断されたそうです。中等度の認知症でさえ、しばしばお鍋が焦げ付いたりはしますが、何とか自立して日常生活を送っていけるものです。気付きにくいことが、認知症の特徴です。

認知症になった時に備えて、今からできること

高齢化に伴い、誰もが認知症リスクを抱えています。「私だけはならない」ではなく、認知症になった場合を考え、準備していきましょう。ぜひ手すりで体を支えることができるように上半身の腕力を鍛え、車いすにならないように脚力を鍛えましょう。それでも介護が必要になった時に、介護者に迷惑を掛けないように標準体重を超えないようにしましょう。実際、認知症になってしまったら、家族の方は「今までどおりでない」お父さんやお母さんに注目するのではなく、「今までどおりである」点に注目してみましょう。「物忘れが本当にひどくなって困る」ではなく、洋服を自分で着られている、トイレもまだ一人で行ける、そんな残された機能に注目して、褒めたり声掛けをしたりしていきましょう。認知症を地域で支えるのは、制度やハードではなく、認知症を取り巻く人々の心だと思います。

誰もがかかる認知症を、皆で支える認知症にしていきましょう。