2014

07/21

お薬でコントロールできること

  • メンタルヘルス

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西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

ドクターズプラザ2014年7月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(26)

「落ち着きのない子」をインターネットで検索すると……。

落ち着きのない小学生の息子

現代日本では、働くお母さんは半数を超えました。一方では25歳から44歳の男性の5人に1人は週60時間以上働いています。お父さんもお母さんも忙しい家庭が日本中で増えています。子どもたちが小学校に上がり、手が離れてくると、再びパートタイムで働き始めるお母さんも増えています。子育てはどのようにしているのでしょうか。実は厚生労働省の委託リサーチでは、お母さんが働いている家庭でも働いていない家庭でも、家事に費やす時間こそ差がありますが、帰宅後の育児時間には大きな差がないのです。子育てには手が抜けないという事ですね。

Aさんは海外出張もこなすキャリアウーマンです。長男のB君は小学校入学前までは、夜間保育を継続して行っている公立の保育園に入園していました。小学校に入学後は、延長の学童が終わる6時過ぎには自宅に帰ってくるようになりました。何とか息子のためにAさんも夫も帰ろうとしていましたが、どうしても8時過ぎにはなってしまいます。帰ってくると家中散らかっていて、大騒ぎで片づけることになります。息子に口で「片づけなさい」と言ってAさんが慌ただしく夕食の用意を始めると、何かと手を出してきて危ない限りです。参観日には学校でも落ち着かないと先生から言われました。Aさんは、「男の子だから仕方がない」と夫と言い合い、慰めていました。

ある日、親戚の同い年の男の子が遊びに来ました。同じように「片づけなさい」と言うと、おとなしく片づけています。息子の方は、なかなか落ち着いて片づけられません。何となく「うちの息子は落ち着かないのかなあ」と思い始めました。忘れ物も多いし、よくけがをしてくるし、一人で登校した日には時々途中で遊んでしまって遅刻してしまいます。担任の先生からは「まだ3カ月しか経っていないのでわからないけれど、確かに忘れ物は多いかもしれません。そうですね、よくケンカをしているような気もします。けがも他の子に比べて多いかもしれません」と言われ、養護の先生は「B君はよくけがをします。保健室でも元気で、ベッドの上から飛び降りたり、ちっともじっとしていません」と言われました。Aさんはとても心配になり、1日休暇を取り、息子の様子を見に行くことにしました。

検査の結果、ADHDと診断

教室の息子の机の引き出しには、ごちゃごちゃとプリントが詰まっていました。「これ何?」と尋ねると、すっかり困った様子で「いつのかわからない」と。家庭への連絡のプリントも、宿題のプリントも、提出書類もぐちゃぐちゃになって入っています。どうやらこの様子だと2回に1回はプリントを忘れてしまっているようです。朝のホームルームが始まりました。シーンとした中で、がたがたと机が動いているのは息子の席です。落ち着かない気持ちになりましたが、見ているしかありません。1時間目は国語の授業でした。指されてクラスメイトが朗読をすると、即座に手を挙げて質問し始めました。先生が「ちょっと待ってね、B君」と言うと、一旦は黙るのですが、すぐにまた手を挙げてしまいます。冷や汗をかく思いでAさんは見ていましたが、2時間目の算数の授業は、もっと悲惨な状態でした。B君は授業の途中で教室を出ていってしまったのです。授業参観が終わり、Aさんは先生に「毎日こうですか」と愕然として尋ねました。先生は「今日はお母さんがいらしたので、いつもよりさらに元気でしたが、基本的に他の子より落ち着きがなく、じっと座っていられません」と答えました。

Aさんは帰宅すると、実家のお母さんに子どもの小学校での様子を伝えました。「あなたが働いているからそのせいじゃないの。十分生活もやっていけるのだから、もう仕事はやめて、子どもを見たら」と言われました。すっかり落ち込んで、帰宅した夫に話をすると、「あなたのお母さんは専業主婦だけど、ぼくの母親も働いていたよ。あなたが働いているせいで、あの子が落ち着きがないとは思えないよ」と言われました。夫と共に「落ち着きのない子」をインターネットで検索し、ADHDという病名にたどり着きました。さっそく児童精神科の外来に予約を取りました。児童精神科の先生は、認知機能をはじめ様々な検査をし、ADHDだと診断しました。先生は「お母さんが働いているせいではありません。まだ十分わかっていませんが、脳の病気です」と言いました。現在、日本では2種類の薬物に効果があると認められていますが、その一つを処方されました。1カ月経った今、忘れ物はずいぶんと少なくなりました。