2015

01/17

うつと寄り添う

  • メンタルヘルス

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西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

ドクターズプラザ2015年1月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(29)

春風のように振る舞い、ありのままを受け入れましょう

うつ病は、気分と行動の障害

約10年ぶりのDSMの大きな改訂の中でも、うつ病については期待されたような変更はなされませんでした。東京大学の川上憲人先生らの疫学調査によると、世界中のどの国においてもうつ病が最も頻度の高い疾患であり、もちろん日本でも高頻度の精神科障害です。世界中どこでも女性は男性よりもうつ病にかかりやすく、日本では1・98倍と約2倍に達しようとしています。このような背景もあり、精神科医にとってうつ病は統合失調症と並んで大きなテーマです。

精神科医たちは、一口にうつ病と言っても様々な病態があることを臨床の中で実感しており、今回は病態に従い、分類されるに違いないと期待していました。しかし案に相違して、うつ病において研究者は、はっきりした分類の根拠が見出せませんでした。我が国のうつ病の特徴は、世界の他の国々に比べると、高齢の方が多いということです。このことは、国全体の自殺率が世界第11位であるにもかかわらず、高齢女性の自殺率が世界第4位であることからもうかがわれます。

うつ病は気分と行動の障害であると言われ、憂うつな気分と何もやる気がなくなる、動けない感覚によって特徴づけられ、それ以外の精神科症状は実に多彩です。ある人はすっかり何もせず動かないかと思えば、イライラと落ち着かず歩き回る人もいます。またある人は「自分はもうじき警察に捕まる」「すっかりお金が無くなった」などと貧困妄想や罪業妄想を抱きます。30年以上前からうつ病に特有の生化学的な変化や指標があるに違いないとさまざまな提案が研究者によってなされ、昨年の春には光トポグラフィがうつ病の検査として保険で認められるようになりました。

しかし、てんかんにおける脳波と同様、うつ病においても光トポグラフィの結果はうつ病の人の約半分しかうつ病の波形を示しません。つまり、臨床的にうつ病と診断された人の半分の人しか光トポグラフィでは検出されないのです。治療において特効薬とされる抗うつ剤もうつ病の人の8割前後にしか効果がありません。このように病態も治療も異なるうつ病の人たちに、家族や友人はどのように接したらいいのでしょうか。

周囲の人が正しい知識を持つこと

親しいうつ病の人にどのような手を差し伸べられるでしょう? いま目の前にいるうつ病の人はどんなことが今「できること」でしょう? まず、その人が今「できること」を一緒に見つけましょう。うつ病にかかるとどんな病像のうつ病の人もエネルギーを失ってしまいます。それまでできていたことができなくなります。親しいあの人は「起きられる」でしょうか? 三食を一人で「食べられる」でしょうか? 食欲はありそうですか? 外に「出られる」でしょうか? まず「今できること」を見立て、次の一歩を一緒に考えましょう。やりたい気持ちになるように無理強いせずに見守りましょう。つらい気持ちや訴えを受けとめて、何より普段通りに接するようにしましょう。普段ではない状態の人に普段通りに接するのですから、工夫が必要です。大事な人を預かっていると思ってみましょう。そう思ってみると普段と違っていることがそんなに気にならず、普段とよく似た挨拶や応答ができるものです。

また、周囲の人がうつ病に対する正しい知識を持つことも大切です。正しい知識を持つことで、うつ病の人の話を聴きやすくなります。うつ病の人の話を聴く際に重要なのは、一呼吸おいて相手の状態を見極めることです。これらの知識は、具体的にアドバイスをする際に、役に立ちます。「ダラダラしているとダメだぞ」など、億劫がっていることに、怠け者扱いをしなくなります。うつ病になると億劫感が強く、動けないことが理解できます。ついつい「ちょっと頑張ってみたら?」と励ましたくなりますが、うつ病の人は懸命に頑張っている状態なので、逆効果になることも分かります。また会社の同僚などがうつになったら、「飲みに行けば気分も変わるよ」と誘いたくなりますが、気分転換に無理やり誘うのもよくありません。

周囲の人は、春風のように振る舞い、焦らず、こだわらず、ありのままを受け入れていきましょう。

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