2018

05/10

あなたの家族が認知症になったら

  • メンタルヘルス

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西松 能子
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業後、公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

ドクターズプラザ2018年5月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス (49)

 

7人に1人が認知症

最近、内科の先生から「長年通って来てくれていた患者さんが、うつになっちゃったと思っていたら、いつの間にか認知症が始まったような気がする。先生、認知症とうつ病って、似ているなあ」と言われました。実は、認知症とうつ病の症状は一見区別がつかないこともしばしばあります。うつ病の物覚えの悪さ(精神運動抑制)が、かつては「偽痴呆」と呼ばれていたこともありました。「何だかこの頃おばあちゃんが外に出なくなり、活動的ではなくなったなあ」と思っているうちに、本格的な認知症が始まることも珍しくありません。

日本は今や世界一の高齢大国で、65歳以上の高齢者のうち7人に1人が認知症です。7年後には、5人に1人が認知症と診断されると推計されています。アメリカなどでは日本より平均寿命も短く、65歳以上の高齢者の20人に1人しか認知症でないといわれています。いわば、日本の豊かな社会と医療資源が認知症を生み出しています。ところで、7人に1人が認知症というと、誰もが身近に認知症の家族がいたり、認知症の隣人がいたりするのではないでしょうか。認知症とは、いわば私たちのあらゆる活動のコントロールタワーの不調です。脳が上手に指令を出せなくなれば、身体活動も精神活動もスムーズにはいかなくなります。実は、私の母は98歳になりますが、90歳を過ぎた頃から認知症状が出現してきて、今では10分前のことはすっかり忘れてしまっている毎日です。幸い、認知症のことをよく心得ている家族に囲まれ、何とか日常生活を送っています。

物忘れ(健忘)が目立ち、日にちの度忘れ(失見当識)、電子レンジの使い方が分からなくなったり(構成失行)していますが、幸い服の着方や脱ぎ方(着衣失行)はまだできているので、家庭内で見守っています。精神科医である私たちよりも、長い時間を母と過ごしている息子は、全く母の言うことに逆らおうとしません。若い頃の隣人の話を何回繰り返しても、「ふんふん」と聞き流しています。昔から怖がりだった母は全く外に出ようとしなくなりました。認知症で問題となる徘徊は、そんなわけでありません。ただし、悪夢のようなもの(おそらくせん妄でしょう)を見ては、数分の間、家族に「お前は悪魔だ」「私の財産を盗んだだろう」と叫んでいますが、犬や猫が餌をねだってきて気分が変わると、怒鳴っていたことはすっかり忘れてしまいます。母に起こっていることは、記憶障害(物事を覚えられなくなったり、思い出せなくなること)、見当識障害(時間や場所、人との関係が分からなくなること)、思考障害(思考力がなくなり、家電やさまざまな道具が使えなくなること)、実行機能障害(段取りや計画を立てて行動できなくなること)です。これらを認知症の中核症状と言います。その上、母にはせん妄や、せん妄に伴う暴力行為という行動心理症状があります。今のところ、幻覚や妄想などの心理症状はありませんが、これからは出てくるかもしれません。

大切なのは話を聴き、想像する力

数年前に認知症状が母に現れた時、服薬を試みました。しかし、吐き気やめまいといった副作用のため、結局は中断してしまいました。お薬には、どんなお薬でも副作用があります。一旦は入ってもらったケアマネジャーも、母が嫌がり、中止しました。さまざまな講演で私は、「サポートを入れましょう」「皆で支えていきましょう」「家族だけで支えるのは難しいです」などと伝えていますが、実は認知症の人には、意思も経験も力もあり、しばしば拒否します。いやといったら何とも思うに任せません。

認知症には加齢に伴いよく起こるアルツハイマー型認知症のみならず、脳血管性認知症、レビー小体型認知症など、それぞれ臨床的な像が異なるものがあります。医者をはじめとする専門家の意見を聴くことはとても大事なことですが、まずは認知症の人に聞いてみる、認知症の人の反応を見る、どう思うか尋ねてみる、何が好きか相談してみる、家族の中で認知症への対応が最も上手なのは、専門家である私たちではなく、息子であることを考えると、認知症の人の話を聴く力、想像する力が認知症と共にあるためには大事だと思います。超高齢社会の日本の最も身近な病気、認知症には、スルーすることやユーモアが一番の特効薬かもしれません(とはいえ、暴力や不潔行為には勝てないかもしれませんが)。