2016

05/15

「賢い患者になりましょう」が合言葉

  • インタビュー

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「NPO法人ささえあい医療人権センターCOML(以下、コムル)」理事長の山口育子氏は、「『先生にお任せ』の時代ではない」という。患者にも患者としての役割があり、医療に積極的に参加しなければ、治療効果も上がらないからだ。患者が医療の現状や限界を正しく理解し、多くの人が”賢い患者‶になることを推進するために、電話相談やセミナーなどの活動を展開しているコムル。厚労省の委員会や講演などで全国を飛び回っている山口氏に、コムルの活動内容や現状の課題、患者や市民はどうあるべきなのかを聞いた。

ドクターズプラザ2016年5月号掲載

巻頭インタビュー/NPO法人ささえあい医療人権センターCOML

患者の役割を自覚し、医療と“協働”する治療を目指す

一人ひとりが「いのちの主人公」で「からだの責任者」

―NPO法人ささえあい医療人権センターCOMLとは、どのような趣旨で設立されたのですか。

山口 1990年9月に市民グループ「医療人権センターCOML(コムル)」としてスタートし、2002年にNPO法人となりました。スタート当時の医療は「先生にお任せ」が当たり前だった時代ですが、私たちの活動の目的は医療側に厳しい要求をすることや、対立することではありません。「賢い患者になりましょう」を合言葉に、一人ひとりが「いのちの主人公」であり、「からだの責任者」であることを自覚し、自分の問題として考えていこうというのが活動の趣旨です。

―「“協働”する医療の実現がコムルの願いです」と貴団体のホームページにありますが、“協働”とはどういうことでしょうか。

山口 “協働”には、同じ目標に向かって、立場の違う人同士がそれぞれの役割を果たし、協力し合うという意味があります。特に慢性疾患など、医師にお任せでは十分な治療効果が上がりませんから、患者側にも役割があり、積極的に参加しながら治療を受けていこうと言い続けているのです。そのために必要な、患者と医療者のコミュニケーションを円滑にする活動を通じて、“協働”する医療を目指しています。

―コムルでは、医療者向けと市民向けの活動をされているそうですが、市民向けの中心的な活動はどのような活動でしょうか。

山口 全国から届く「電話相談」をNPO設立時から続けています。これまでに約5万6000件の相談を受けています。平均対応時間は約40分で、中には1時間半以上かかる場合もあります。電話相談に対応するスタッフは医療者ではないので、もちろん診断をしたり、答えを出したり、方向づけはしません。相談者の気持ちに寄り添いながらご一緒に考えるため、じっくりお話を伺っています。忙しい医療現場は、時間をかけて患者と向き合うことが難しく、患者も診察を受けている時に疑問が生じるとは限りませんから、気軽に電話で不安や疑問を吐き出していただき、問題整理のお手伝いをしたうえで、情報提供やアドバイスをしています。

1999年を境に、医療に対する不信感が高まり、電話相談の件数も急増しました。ピークだった2003年は、年間4000件を超えています。「病院を訴えたい」「医療ミスがあった」などという相談が月に500件を超えたこともありました。訴訟関連の相談の減少とともに全体の相談件数も徐々に落ち着き、昨年は約1300件でした。

―情報提供やアドバイスというのは具体的にどのようなことをしているのでしょうか。

山口 医療費の明細を解説してほしい、差額ベッド料の請求ルールを教えてほしいといった医療費にまつわること、納得いかない結果になったときの解決方法など、具体的な情報提供やアドバイスをさせていただいています。

―電話相談のスタッフはどのような方が何名で行っているのでしょうか。また、相談スタッフには何か研修などを行っているのでしょうか。

山口 法人のスタッフ3名とボランティアスタッフ10名ほどが月曜日から土曜日(※1)まで対応しています。スタッフにはコムル独自の研修を受け、実際に対応するようになってからもスタッフ勉強会で情報の共有をし、ロールプレイで対応の検証をし続けています。

―困った相談等は、有りませんか。

山口 訴訟関係の相談は激減しましたが、インターネットで得た間違った情報を鵜呑みにして、無理な相談をしてこられる方が増えています。例えば、ネットで得た偏った情報が正しいと思い込んで、自分は間違っていないと主張を続ける方もいます。また、「代わりに苦情を言ってくれ」と要求され、それはできない旨をお伝えすると、「何のための相談か」と怒鳴る方もいます。また、無理難題を持ちかける方、何を提案しても受けいれず、最後には「では、泣き寝入りか」と怒り出す方もいます。このような場合は、私が最終責任者として対応しています。情報化の時代になったことで、逆に必要な情報を多くの人に届けることが難しくなっているのはジレンマです。インターネットは、その人が関心のある情報を選んで深掘りするという方法です。新聞を読まない、テレビを見ない人が増えたことによって、今関心のない人にも最低限知って欲しいことを伝達する手立てがなくなってきています。それが現在の一番の課題です。

セミナー開催や冊子の発行等で賢い患者に

―“賢い患者”になるために「患者塾」というセミナーの開催や「冊子」の発行も行っているそうですね。

山口 「患者塾」は活動に参加する方の声の中から、さまざまな知恵や工夫をみんなでシェアして考える場として、1991年に始めました。毎回テーマを決め、その実践者や体験者が話題を提供し、参加者がグループディスカッションをします。自分の問題として考える患者塾は、「賢い患者になりましょう」という、活動の原点を最も担っている活動でもあります。また、「医者にかかる10箇条」という冊子は、患者が主人公になって医療に参加するための心構えが盛り込まれている小冊子です。最初は1998年、当時の厚生省の「患者から医師への質問内容・方法に関する研究」研究班から発表されました。コムルは研究班の一員として、1997年から素案作りを手がけました。初版4万冊は無料配布され、3カ月間でなくなりましたが、その後も要望が高かったため、今度はコムルが改訂版「新・医者にかかる10箇条」を発行し、1冊100円(送料別)で販売しています。これまでに配布したのは、初版も含めて21万冊になります。

―冊子の具体的な内容を教えて頂けますか。

山口 インフォームドコンセントに患者が主体的にかかわるために、受診の際の心構えを10項目にまとめたものです。例えば「伝えたいことはメモして準備」「対話の始まりはあいさつから」といった基本から、「医療にも不確実なことや限界がある」「治療方法を決めるのはあなたです」など、患者にも医療の現実としっかり向き合う内容も含めていますが、イラストで分かりやすく紹介しています。巻末には実践編として、検査、治療、くすり、入院など具体的な質問も掲載しています。

―山口さんが考える”賢い患者‶というのは、どのような患者でしょうか?

山口 「いのちの主人公」「からだの責任者」であるという自覚を持ち、自立、成熟して主体的に医療に参加することがまず基本です。その上で、五つの定義をご紹介しています。それは、

①病気は自分の持ち物であると自覚する

②自分がどのような医療を受けるか考える

③考えた結果は言語化して医療者に伝える

④治療を受けると決めたら医療者とコミュニケーションを取りながら治療に参加する

⑤一人で悩まない

です。ただ、多くの相談を聞いてきた私の実感として、“賢い患者”になるには、子どもの頃から命と体は自分で守るという意識を芽生えさせる必要があると思っています。小学生ならば最低限、自覚症状を説明するのは役割だと思うのです。そこで2014年にプロジェクトを立ち上げ、子どもの「いのちとからだの10か条」を作りました。多くの方から寄付をいただいたおかげで、現在3万部の無料配布を行っています。また、これを使ったワークショップも開催しています。現在、2万5000冊の無料配布を終え、残りの5000冊の配布が終われたら、1部100円で販売する予定です。

 

賢い患者になるためには医療の現状を知り、限界も知ること

―山口さんは、なぜこの活動に携わるようになったのですか。

山口 コムルがスタートした1990年、私は25歳を目前にして卵巣がんを発症しました。その時点で3年生きられる確率は2割ないという診断でしたし、8カ月後には再発したので、30歳まで生きられないと思っていました。入院している中で、医療現場が閉鎖的であることや、コミュニケーションが成立しにくいことなどを経験しました。特に盲点だったのは、医療者が患者の言動で悩んだり傷ついたりしていることでした。コミュニケーションの重要性を実感していたところ、「コムル発足1年」の新聞記事を目にし、創設者の辻本好子のコメントに共感して手紙を書いたのがきっかけです。「治療が一段落したら、コムルで一緒に活動しないか」と辻本が誘ってくれ、私も「この人となら真剣に生きられる」と直感して飛び込みました。私自身の1年半の患者経験は、研修期間だったのかなと思います。

2010年に20周年を迎え、そのお祝いをした3週間後、辻本に胃がんが見つかり、余命1年という宣告でした。深い信頼関係で結ばれ、20年間ずっと二人三脚でやってきましたから、とても不安でした。でも2011年に62歳で亡くなった辻本は「コムルの火を消さないで。継続は当たり前。コムルを発展させて欲しい」と言い残したので、もうやるしかありません。1年間は無我夢中でしたね。

―コムルの活動に加え、厚労省の委員会の委員や講演会など非常にお忙しそうですね。

山口 忙しいですが、やりがいを感じていますからストレスはありませんし、疲れも感じません。今のところ死ぬ気配もなく、これだけ役割を与えていただいて、おまけの人生を生きているので、使命感のほうが強いですね(笑)。いろいろな分野の委員会に横断的に加わらせていただき、前向きに議論できる人たちと出会えることは刺激的です。常に最先端の情報が得られる贅沢な立場にいられて、本当に有り難いと思いますし、いろいろな方々とゆるやかにコラボレーションする事業もしたいと思っています。

―今後はどのようなことに取り組みたいですか。

山口 “賢い患者”になるということは、医療の現状を知り、限界も知ることです。現状を理解していないと、まるで修理工場のように治せると考えてしまい、うまくいかないと今度は不信感に陥る。きちんと医療の現場を理解すれば、過度な期待や不信感を抱くことはありません。冷静な患者や市民は、患者側、医療側という垣根を超えて、とても大切な社会資源です。これからもいろいろな活動を通して、少しでも冷静で“賢い患者”や市民を増やす活動を続けたいですね。1割になれば大流行ですが、私はまず1%を目指したいと思っています。

―最後に読者に“賢い患者”になるためのアドバイスをお願いします。

山口 残念ながら、病気になると誰に代わってもらうことも、代わってあげることもできません。だからこそ、自分の問題としてしっかり向き合うことが大切なのです。しかし、急に賢くなることも難しいと思います。できれば元気なうちから医療に関心を持って、日頃から家族などと自分の考えを伝え合っておくことが大切な準備になると思います。

 

※1;電話相談/TEL 06-6314-1652 月~金曜日;9:00~12:00、13:00~17:00、土曜日;9:00~12:00