2017

11/15

「病気を診る」のではなく「1人の人間として患者さんを看る」

  • 僻地・離島医療

  • 香川県

岡山県と香川県に挟まれた瀬戸内海に浮かぶ小豆島。他の離島と同様に近年は人口減少が進み、2016年の人口は2万8764人となり、国土交通省より離島振興法の指定を受けている。一方、本州や四国からの交通の便が整備されていることもあって観光客が多く訪れ、シーズン中は島内に活気があふれる。2016年4月、島内に2カ所あった公立病院が統合され、小豆島中央病院として新たに開設された。地域包括ケアシステムの中核施設としても期待される、この新病院について、院長の山口真弘氏に話を伺った。

ドクターズプラザ2017年11月号掲載

僻地・医療医療(10)香川県・小豆島中央病院

2病院を一つに統合して生まれた新病院、地域包括ケアシステムの中核を担う

2病院を統合することによって医療体制の立て直しを図る

―2病院が統合して小豆島中央病院が誕生した経緯について教えてください。

山口 小豆島は土庄町と小豆島町という二つの町に区分されており、以前はそれぞれの町内に1カ所ずつ、土庄中央病院と内海病院という二つの公立病院があって、365日24時間体制で島民に対して医療を提供していました。

ところが、人材不足などいくつかの要素が重なり、二つの病院を維持することが徐々に困難になっていきました。特に救急対応や当直業務をする人材が慢性的に不足し、一人一人の医師が抱える負担が増大することで、疲弊した医師が辞めていってしまうという負の連鎖が続き、2病院が共倒れになってしまうのではないかという強烈な危機感がありました。こうした状況を打開するために、統合という道を選びました。

―統合に関して、島民からの反対はなかったのですか。

山口 当初は新病院を建設するのではなく、建物が新しくて規模も大きな内海病院をそのまま使用する案もありましたが、それまで土庄中央病院を利用していた土庄町の住民から反対の声が上がりました。特に島民の大半を占める高齢者の中には、病院が遠くなって通いづらくなると訴える人も多く、そこで、2町のちょうど中間くらいの位置に、新たに病院を建設することになりました。2病院を一つに統合することによって、香川大学医学部からの協力も得やすくなり、救急体制も含めてしっかりとした医療体制が整えられるようになっています。

とはいえ、例えば救急患者などは全て当病院に運び込まれることになり、2病院時代のように「今はどうしても難しいから、あっちの病院に回して」などと断ることができませんから、当直する医師の責任は重くなります。また、自分の専門か専門外かにかかわらず、さまざまな判断を下さなければなりません。この病院に留まって治療した方がいいのか、島外の大きな病院に搬送した方がいいのか。シビアな判断力が求められます。

―島外の病院に搬送するケースも多いのですか。

山口 そうですね。実際、2016年4月から2017年3月まで1年間で、島外搬送した件数は合計193件でした。そのうち防災ヘリの利用が全体の半数近い92件、ついでフェリー利用64件、救急艇利用33件となっています。小豆島町の池田港近くにヘリの発着所があるので、そこから香川大学医学部附属病院や香川県立中央病院などに搬送するケースが多いですね。理想を言えば、島内で全て完結できる医療を提供するのが一番いいのですが、各専門家の医師を24時間体制で揃えるのは、現実的には難しく、どこかで割り切らなければいけません。完璧な医療体制を目指せばキリがないですが、先ほども言ったように香川大学からの協力も得ているので、かなり環境は整ってきています。

しかし、一方で看護師や薬剤師は材不足の状態が続いています。島内には准看護師の資格を取得できる学校はあるのですが、正看護師になるためには島外の学校に通わなければいけません。薬剤師も島外の大学で6年間勉強する必要があります。小豆島で生まれ育った若者も、一度島の外へ出てしまうと、なかなか戻って来ません。自然と若年人口が減り、高齢化が進むことになります。これは医療の現場に限った話ではなく、島内にあるあらゆる職種で若い人材の確保が難しくなっています。若い働き手をいかにして確保するか。そのためには島の魅力をもっと広くアピールしていくことも必要です。島内のどの産業においても等しく抱える課題です。

かかりつけ医の役割や予防医療。限られた人材で多くを担う

―医師としての立場からみた島民の高齢化についてはどうお考えですか。

山口 小豆島の住民の高齢化率は現在40%ほどになっており、その中では老老介護なども増えてきます。認知機能に障害がある高齢者でも、日常生活が送れるようであれば自宅で生活をしていますし、高齢夫婦が両者とも認知症というケースもあります。そうした高齢者を、島全体でいかにして支えていくかが大きな課題です。

先ほども話に出ましたが、高齢者は病院に通うのもひと苦労です。お子さんなどの若い身内が島内にいないケースも多いので、仮に入院となった場合などでも、どういう治療プランを立てるか、退院後のケアをどうするか、再発防止のサポートなど、話ができる家族がいないのです。  もちろん、ご近所同士が助け合って……というサポートの仕方もありますが、昨今は個人情報などの問題もありますから難しい面もあります。

そんな中、当病院が中心となって昨年度より地域包括ケア連絡会を立ち上げました。地域の行政や医師会、地域包括センターや介護施設の方々が集まって、話し合いを行っています。そうした活動の中から、昨年度は島内の医療施設や介護施設がひと目で分かる「医療介護資源マップ」を、行政や医療機関向けに作成しました。今年度はそのマップを、住民向けに分かりやすいものとできるよう、話し合いを進めています。

―小豆島内には、いくつの医療機関があるのですか。

山口 当病院以外に民間の病院が2カ所、クリニック・診療所が11カ所あります。ただ、島全体で見ると、島民数に対する医師の数は明らかに不足しています。若い医師などによる新規の開業がなく、既存の医師の高齢化が進んでいるのが現状です。そうした状況にあって当病院は、公立病院としての機能の他に、島民の“かかりつけ医”としての役割も担っていくことになります。このまま新たな医院の開業がなく、既存の医師が高齢で退職していくとすれば、将来的に当病院にかかる比重はさらに大きくなるでしょう。

また、病気や怪我の治療だけでなく、予防医療や健康診断といった分野も担っていかなければいけません。実際、糖尿病予防に関して腎臓専門の医師が、島民を対象とした健康教室を定期的に開催するなど、生活習慣・食事指導に関する啓発活動も積極的に行っています。毎年11月14日は世界保健機構(WHO)によって「世界糖尿病デー」に定められており、今年はそれに合わせて専門家を招いた講演も行う予定です。

―それら全てを、限られた人材の中で行うのは大変そうですね。

山口 実際、開院してまだ1年半ほどですので、手が回りきらないこともあります。ただ、二つの病院が一つに統合されたことで、小豆島全体の医療も一つにまとまっていかなければいけません。外部の力を借りながらではありますが、徐々にその体制は整えていきたいと考えています。

―高齢者以外の、例えば若い人たちが島内で子どもを産み育てられる医療環境についてはいかがでしょうか。

山口 当病院には産婦人科医が1人いるので、島内で出産できる環境は整っています。小児科医も3人、香川大学から来ていただいており、小児医療に関しても注力しています。子育て世代の若い人たちが安心して出産・子育てできる環境をもっとアピールできれば、若い移住者も増えてきて、島の活性化につながりますよね。そして、小さい子供が周りにいれば、高齢者だって元気になります。逆に、島内にある小学校が閉校になったりすると、周囲の高齢者が一番がっかりするんです。登下校の時間帯にあれほど賑やかだったのに、シンと静まり返ったようになって、高齢者も元気がなくなるのです。 幸い小豆島は、まだまだ若い世代も残っていますし、観光で若い人たちもたくさんやってきますから、他の離島と比べると恵まれているかもしれませんね。

増え続ける観光客に対する医療体制の強化が課題

―小豆島を訪れる観光客はどれくらいいるのですか。

山口 年間100万人以上といわれています。国内だけでなく、海外からの観光客も増えています。小豆島は、島民人口が少ない割に元気で活発なイメージがあるといわれますが、観光客が多いこともそうしたイメージづくりに役立っているのかもしれませんね。特に、瀬戸内海の島々を舞台とした現代美術の国際芸術祭として2016年に第3回が開催された「瀬戸内国際芸術祭」では、多くの外国人が訪れました。

地中海性気候の小豆島ではオリーブの栽培が盛んに行われている(写真提供;小豆島観光協会)

―そうした観光客に対する医療も、重要になってきますね。

山口 おっしゃるとおりです。旅行会社のツアーなどで来島した観光客が病気になり入院が必要となった場合、当病院に留まるべきか、患者さんの地元に移すべきか、そのマネジメントは結構難しいのです。地元の病院と連絡を取り合って段取りをするケースもあります。また、外国人観光客は中国系が多く、中には中国語以外ほとんど話せない人もいます。こちらは片言の英語なら話せても、さすがに中国語を話せる医師を常駐させるのは困難です。ただ、観光産業が盛んな島で医療を展開する以上、できる限りの対応はしなければいけないと考えています。

―今年の8月には台風の上陸があり、香川県でも避難勧告が出たようですが、そうした自然災害による怪我人などへの対応も求められるのでは。

山口 小豆島は沿岸部から少し内陸に行くとすぐ山になるので、昔から土砂災害が多く発生する地域でした。ただ、私が赴任するかなり前に、土砂災害防止のための砂防工事などが進んだおかげで、近年ではかなり土砂災害が減少したと聞いています。一方で、今年8月の台風の時も満潮の時間帯と台風が重なって、普段と比べて1m以上潮位が上がるなど、浸水の危険性はありました。当病院には、DMAT(ディーマット=災害急性期に活動できる機動性を持った、トレーニングを受けた医療チーム)がおり、彼らとともに、台風が上陸する当日は夜中の11時くらいまで病院内の会議室で待機していました。

―結果的に、人的被害はなかったようですね。

山口 島民に高齢者が多いので心配だったのですが、何もなくてホッとしました。ただ、こうした自然災害時には観光客も足止めをくらいますし、怪我の手当てなども含めて全て当病院が対応しなければいけません。悪天候ではヘリもフェリーも動かせないので、島外の病院に搬送することもできなくなるでしょう。怪我人が多く出たら外科系の医師の数も足りなくなるかもしれません。そうした事態に対応できる体制づくりも、今後の課題の一つです。

「小豆島に求められるのは医療」そう考えて医師を志す

―山口先生が医師の道を志したきっかけは。

山口 私は小豆島の土庄町で生まれ、小学校、中学校と島内の学校に通った後に、島外の高松市にある高校に通いました。特に勉強が好きというわけでもない普通の高校生でしたが(笑)、自分の将来については、何か資格を取得した上で小豆島に戻って仕事がしたいと考えていました。では何の資格がいいか、どんな職業が小豆島に求められているかを考えた時に、「医師」という選択肢が思い浮かんだのです。

―家族や身近に医師がいたのですか。

山口 いえ、家族にも親戚にも医師は1人もいません。では、なぜ医師を思い浮かべたのかというと、おそらく自分の中で“将来就きたい職業”のバリエーションが少なかったからでしょうね(笑)。そんなわけで、今後の進路を決める高校3年の時、医師になりたいという希望を家族に相談したのですが、最初のうちは父親以外あまり賛同してくれませんでした。何しろ6年間も大学に通うとなると、学費もバカになりませんからね。しかし、他の家族ともじっくり話をして、「確かに小豆島にとって医師は必要な存在だ」と理解してもらい、香川医科大学(現在の香川大学医学部)を受験、無事合格することができました。

―内科医を選んだのはなぜですか。

山口 大学で勉強する中で、自分がイメージできる将来の医師像が、内科医か小児科医だったのです。怪我の治療や手術を行う外科医は、自分の性格には合わないだろうと思いました。まず問診をして、自分で見て聞いて、必要なことを調べて、診断するという内科医のプロセスが、自分には合っているような気がして、内科医を選びました。自分はもともと、自ら明確な目標を立ててそこに集中していくタイプではなく、今しなければならないことを、責任を持ってやっていく、できなければできるようにスキルアップしていくことを目標としてきました。

大学院修了後、とある病院で呼吸器内科診療をしなければならず、内科医としてのキャリアはそこから始まりました。肺がんの治療など、いろいろと貴重な経験をさせていただきました。その後、高松の病院に移り、結核患者を診るようになりました。

そうしたキャリアを経て、小豆島中央病院に赴任することになったのですね。

山口 正直、ここの病院に来てからは、今まで身に付けてきたスキルとのギャップに戸惑う部分もありました。というのも、私はこれまで呼吸器内科で18年、うち10年は結核診療を中心に勤務してきました。つまり専門性の高い医療ばかり経験してきたわけです。ところが離島などの地域医療で求められるのは、専門医療よりもむしろ総合内科医としてのスキルなのですから、赴任当初は本当に戸惑いました。現在は、総合診療のスキルを持った先生方と協力して、先生方が仕事をしやすい体制を築き上げるのが私の役割だと考えています。

医療・介護及び福祉を包括する地域包括ケアシステムの中核を目指す

―逆に、離島医療でやりがいを感じることは。

山口 都市部の病院などでは、患者さんが病院にやってきて、医師がそれを診ていますよね。でも離島医療では、医師が病院内だけではなく、外にも飛び出して、地域に溶け込んで医療を展開する。そこに魅力を感じます。

例えば私が子供のころに生まれ育った大部エリアは無医村地区であり、当病院の医師が巡回診療という形で、曜日を決めて毎週定期的に診療に回っています。文字通り島民の「かかりつけ医」として、急性期から慢性期の患者、在宅医療も含めて網羅していく。そこにあるのは「病気を診る」というよりも「一人の人間として患者さんを看る」という姿勢です。これは離島医療でしか体験できない魅力かもしれません。

―将来的には、この新しい病院でどのような医療を目指したいですか。

山口 やはり「きちんとした医療を365日24時間、島民に提供する」という、2病院統合、新病院開設の狙いを、具現化していきたいですね。そのためにはまず何よりも人材確保。そして来ていただいた医師やスタッフが、高いモチベーションを持って医療に取り組める環境を整えていきたいと思っています。

また医療の提供だけでなく、島内の行政や、介護事業との連携も含めた地域包括ケアシステムの中心としての役割を果たすために、各機関とも積極的に連携を深めていきます。先ほど言ったことの繰り返しになりますが、単に病気や怪我を診るだけではなく、島民の生活にまで範囲を広げて見守っていける体制を整備したいと考えています。

これまで土庄中央病院と内海病院という二つの病院が培ってきた、保健、福祉、介護といった関係部署や施設との連携をさらに強化し、地域包括ケアの中心として、島民の健康や安全、安心な暮らしを実現する役割を果たし、全国に先駆けた先進モデルを目指していきます。

小豆島中央病院外観(写真提供;小豆島中央病院)

●名   称/小豆島中央病院
●所 在 地/〒761-4301
香川県小豆郡小豆島町池田2060番地1
●施   設/地上6階建て
●延床面積/18,051.27㎡
●診療科目/内科、小児科、外科、整形外科、脳神経外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、人工透析内科、放射線科、リハビリテーション科
●病 床 数/234床 (一般185床、療養40床、結核5床、感染症4床)
●開設年月日/2016年4月
●職 員 数/350人(常勤医師24人)