2017

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「それって適応障害?」

  • メンタルヘルス

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西松 能子
『よしこ先生のメンタルヘルス』
立正大学心理学部教授・博士(医学)、大阪医科大学医学部卒業。
公徳会佐藤病院精神科医長、日本医科大学附属千葉北総病院神経科部長、コーネル大学医学部ウェストチェスター部門客員教授を経て現職。
日本総合病院精神科医学会評議員、日本サイコセラピー学会理事、日本カウンセリング学会理事、現在あいクリニック神田にて臨床を行う。

ドクターズプラザ2017年11月号掲載

よしこ先生のメンタルヘルス(46)

「不適応の原因とは」

前回適応障害についてお伝えしました。つらい体験があり、その結果心身の不調が認められるようになり、日常生活への適応が困難になった場合を、「適応障害」と診断するとお伝えしました。それでは、ストレスとなるようなつらい体験が明らかに認められないまま、日常生活に適応しにくくなった場合は、何と言うのでしょうか。

先日、ちょっとびっくりしたことがありました。朝、学校に行こうとすると、お腹が痛くなったり、吐き気がしたりする、時には微熱が出る少年が小児科の先生から紹介されてきました。その小児科の先生の紹介状には、近くのメンタルクリニックに紹介したところ、「適応障害」と診断されているが、「適応障害」であれば、何カ月かたったら改善するはずなのに、ちっとも良くならないので、少し遠いけれども当院に紹介すると書いてありました。「適応障害」という病名が、小児科の先生になじみの病名になっていることにびっくりしましたが、その上、何か原因があってその結果心身の不調が起こり、一定の期間の後に改善する疾患と認知されていることに、さらにびっくりしました。つまり、この小児科の先生は、何カ月たっても治らないから、適応障害ではないかも、と思って、紹介されたのです。

実は、この小学校4年生の少年は適応障害ではありませんでした。両親共に教育熱心で、小学校低学年のうちは、学校の成績も上々でしたが、3年生の後半ごろから徐々に成績が下がっていました。そのことについて、特に両親は責めることもなく、様子を見ていましたが、次第に学校が面白くなくなってきたようでした。家でも学校でも、いじめなどこれといった事件はありませんでした。勉強も以前と変わらず、塾に通い、お母さんとも熱心に勉強していました。お母さんは、二つ上の姉よりも飲み込みが悪いような気がしていましたが、男の子と女の子の違いだろうと考えていました。腹痛や頭痛、発熱があって、学校に行けなくなってきたことについても、何か体に不調があるのだろうと小児科を受診させました。

小児科の先生から「どこも悪くないけれども、症状が改善しないなら、子どもを診てくれるメンタルクリニックに受診するように」と勧められました。お母さんは「メンタルクリニック?」とちょっと意外な気がしました。おとなしいけれども、ハキハキと物を言う少年で、悩んでいる様子は見られなかったからです。

児童精神科のあるメンタルクリニックに受診すると、先生とゲームのことや学校のこと、友達のことについて小一時間話した後に、お母さんが呼ばれ、「お子さんは学校に行っても面白くない、友達とは遊べるけど国語や算数になってから少し自分には難しいように感じる、と言っていましたが、お母さんから見ていかがですか」と聞かれました。「休みがちにはなっていますが、腹痛や頭痛のない日には、登校しますし、休んだ日も友達が来ると元気になって遊んでいます」と答えました。先生は、「少し詳しい検査をしてみましょう」と、WISCという検査をしました。検査の結果、ごく軽度の精神発達遅滞があることが分かりました。先生は、少年とお母さんに「特別支援学級にクラスを移動することはどうだろうか」と提案しましたが、「友達もたくさんいるので、同じクラスでしばらく勉強したい」という結論になりました。

 

専門医を受診し、適切な対処を

このように腹痛や頭痛などの身体化症状、不登校という不適応の背景に、発達上の問題がある場合は、日常生活の不適応があったとしても、適応障害という病名にはなりません。小児科の先生が診立てたように、この少年の不適応は、適応障害によるものではなく、軽度精神発達遅滞によるものであったと考えられます。心の傷になるような出来事がないまま、ある時期から不適応を起こすことは決して珍しくありません。

うつ病や統合失調症などの精神疾患が原因で不適応を起こすこともありますが、成長に伴う環境の変化で発達上の問題が露呈してくる場合もあります。適応障害という病名は、「環境に適応していないこと」を意味するのではなく、「心の傷になる出来事によって心身の変化が起こり、日常生活に障害が出てきたこと」を意味します。正しい診立てが適切な対処に結び付いていきます。ぜひ勇気を出して、専門医を受診してみましょう。