特別企画/病院職員の安心・安全 「ソフトとハードの両面で安心・安全を!」インタビュー1

院内暴力が起きたら毅然とした対策が必要

病院職員の二人に一人が暴力被害の経験あり

安心して働ける環境づくりで離職する職員を減らす

 

2011年に「私立大学病院医療安全推進連絡会議」が都内私立大学附属病院本院に勤務する全職員2万9千65名を対象に行ったアンケート調査(回収率は78・6%)によると、過去1年以内に院内暴力を受けた人は44・3%、二人に一人が「暴言」「身体的暴力」「セクハラ」「ストーカー」といった何らかの暴力行為を受けているという結果となった。

本号では筑波大学医学医療系保健医療学域准教授の三木明子氏に院内暴力の現状や対策等を伺った。

 

三木先生_トリミング

三木 明子 氏

筑波大学医学医療系保健医療学域准教授。日本産業精神保健学会理事、日本産業看護学会理事。博士(保健学)。

1999年東京大学院医学系研究科精神保健・看護学分野博士課程修了。

研究分野は、産業精神保健学。

著書に『医療機関における暴力対策ハンドブック』(中外医学社)、『患者トラブル解決マニュアル』(日経BP社)等がある。

 

職員の約半数が
何らかの暴力を受けている

 

―時々、病院内での凶悪事件の報道を見聞きすることはありますが、院内で患者さんから職員が暴力を受けたという話は聞きません。あまりないのでしょうか。

三木 2011年に「私立大学病院医療安全推進連絡会議」が都内私立大学附属病院本院に勤務する全職員2万9千65名を対象にアンケート調査(回収率は78・6%)を行ったところ、過去1年以内に院内暴力を受けた人は44・3%いました。

 

―具体的な暴力の内容はどのようなものですか?

三木 一番多いのは精神的暴力です。「バカ、アホ、ふざけるな、土下座しろ」等の暴言を受けた人は全体の25・9%を占めます。精神的暴力の中には、暴言のほか、「鋭い目つきでにらまれた」「威嚇された」「脅迫された」「嫌がらせを受けた」等も含まれます。もちろん、身体的な暴力も14・8%あります。「叩かれた」、「蹴られた」、「殴られた」、「物を投げつけられた」等です。暴力行為を行う人は男性の患者さん(暴言:49・6%、身体的暴力:61・2%)の方が女性の患者さん(暴言:19・6%、身体的暴力:32・4%)に比べて多いです。

 

セクハラを受けたことがあると回答した人も14・1%いました。そのうち「体を触れるなどの身体的行為」が40・6%と最も多いです。セクハラの中には、体型や顔について指摘されたり(17・1%)、「女のくせに」などの性差別発言をされたりすること(12・3%)も含みます。他の暴力行為に比べて、セクハラを行う人は男性の患者さんが77・9%と多いです。

 

また、2008年に私共が行った1病院の全職員1472名(回収率50・7%)の暴力の実態調査(グラフ1参照)によると、患者さんからの暴力の被害経験がある職員は56・4%で、職種別にみると看護職が最も多く、「身体的」「精神的」「性的」暴力の全ての経験が多いことが分かりました。

 

ほかにも調査報告がありますが、だいたい1年間で二人に一人の職員は何らかの暴力を受けていると考えて良いと思います。

 

グラフ1:暴力の実態調査

グラフ1:暴力の実態調査

 

 

―そんなに多いとは思いませんでした。

三木 このような調査は、あまり公開されないこと、メディアなどで取り挙げられることはないので一般の方は、院内での暴力がこれほどあることを知らないと思います。今、話したほかに件数はさほど多くはないのですが、ストーカー被害もあります。職員は名札を付けているので名前が特定されやすく、職員を待ち伏せすれば住んでいる場所や看護師寮にいるのか、分かります。また、稀に女性医師へのストーキングもあります。どの病院でも診察する医師の名前は公表されていますし、外来では診察日(曜日)も分かります。その病院を辞めて別の病院に異動しても、ストーカーは調べて、患者としてまた来てしまいます。

 

それと、実は多くの看護学生が被害を受けています。看護師の場合は1年間で約3割、最終学年の看護学生では約6割が被害に遭っています。看護学生は、1年中実習に出ているわけではなく、年間、数週間だけしか実習に出ていませんから、看護師よりも被害が多いと言えます。看護学生や研修医は若くて立場が弱く、技術が未熟なので患者さんからすれば暴言を言いやすく、セクハラも受けやすいのです。学生は、自分の決められた実習をクリアし、単位を取得しなければならないので我慢することがあり、対応方法がうまくいかず悩んでいる学生もいます。

 

―学生時代に嫌な経験をすると、看護師を辞めたいという人もいるでしょうね。

三木 それで進路を変えた人もいます。治療やケアは患者さんとの関係性が大事なのですが、その関係を患者さんから一方的に壊されてしまうと、「自分が悪かった」と自分を責める傾向があります。また、自分だけが暴力を振るわれたことが分かると、それはそれでとても傷つきます。

 

―看護師の場合、夜勤の際の安全ということはどうなのでしょうか。

三木 病院は、24時間365日、夜間も治療・ケアが継続する特殊な環境ですよね。しかも、看護師の9割は女性なので、加害者が男性で被害者が女性という構図になりやすいのです。さらに、夜間は人員も手薄で応援体制が取りにくく、暴力の発生頻度が高いところでは、男性看護師を多く配置する場合がありますが、十分ではありません。

 

院内暴力の原因とは

 

―院内暴力の数は増える傾向にあるのでしょうか?

三木 それは比較対象となるデータがないので何とも言えません。医療事故なら、届け出をしなければいけないので、そこからなぜ事故が起こったのか、原因を分析して皆さんに還元することができるのですが、院内暴力に関してはどの病院でも毎年データを取っているわけではないですし、公表もしていないのです。ただ、以前は患者さんの権利主張が強い場合に病院側は何も言えない傾向でしたが、今は医療者側も無理難題を言ってくる患者さんに”NO‶が言えるようになってきました。また、警察OBを採用する病院も増え、「警察に通報してもいい」ラインがはっきりしてきたので、暴力の報告件数は増えてきていると思います。

―暴力を振るう人の特徴などありますか。

三木 もともと地域社会でも粗暴な人が、病院内で暴力を振るうことがあります。病気だけが理由で、職員に向かって1時間も2時間も暴言を吐き続ける人はいないと思います。

 

あとは、全員とは言えませんが経済的に苦しい人たちが多いようです。仕事がなくてお金もない、でも時間はあるという人です。社会的弱者と言われている人たちは、職員が何か十分なことをしているつもりであっても「馬鹿にするな」とか「低く見るな」と言ってくることがあります。

―院内暴力は何らかの病気が原因ということもあるのですか?

三木 そういう場合もあります。例えば、せん妄や認知機能が下がっている方などは、病気の症状の中で、思考が混乱して暴力が発生します。医師や看護師は、患者さんとどうしても近い距離で治療やケアをするので、身体的暴力を受けやすいのです。患者さんにしてれば、痛みや苦痛を感じているのに、うまく表現できないのでフラストレーションがたまるというのもあります。入院中は点滴などの管がたくさんあるので抜きたくなるものです。でも、それは危ないことなので、患者さんが抜こうとすれば職員は制止や命令をします。すると、中には身体的暴力に発展することもあるのです。

 

―病気なのかそうではないのか、判断するのは大変ですね。

三木 1回目の暴力では病気かどうかを特定することはできませんが、2回目以降であれば発生状況を分析して、判断することが可能です。ただ、暴力の原因が病気なのかどうかという判断をするよりも、暴力を発生させない環境づくりや、発生しても対応できる職員を育成することの方が重要です。

 

職員への教育による対策

 

―安全に働けない職場だと辞める人も増えるのではないでしょうか。

三木 暴力を受けた職員は退職してしまいますよね。しかも、その退職理由というのは、患者さんの暴言や暴力というよりは、それに対応してくれない病院への失望なのです。勇気を持って患者さんからの暴力を報告しても、「まあ患者さんだからね」「むしろあなたの方に問題があったのでは?」などと言われると、失望や無力感でいっぱいになります。患者さんではなく、病院側にそれらの不満が向くのです。

 

―守ってくれない職場にいようとは思わないですね。

三木 その通りです。暴力に対して及び腰で、きちんと対処しないような病院側の姿勢が見えると、職員の不満が一気に爆発します。「こんなに忙しく働いて、これだけ病院のためにやったのに、いざというときには守ってくれない」と思うわけです。

 

多くの患者さんは善良な市民なのですが、一人の暴力行為によって、職員が後遺症を残したり労災適用になったりする話も出てきています。ですから、暴力に対しては毅然とした対応をしなければいけません。院内暴力をなくしていくためには、初期の段階で芽を摘まなければいけないのですが、一人一人が我慢してしまうとなかなか声が上がってきません。だから、職員のその意識を変えていこうと活動をしています。

 

―具体的にどのような活動をしているのでしょうか。

三木 管理職や職員への教育を精力的に行っています。包括的な暴力防止対策(※1)についての講義や、対応力を向上するためのスキルトレーニングを行っています。

 

―どのような研修を行っているのでしょうか?

三木 研修では、事例を共有し、こういうことがあったら一人の場合はどう対応し、二人だったらどう対応するかという、段階的そして状況的ロールプレイを行います。実際に暴力が発生した場面集を教材に、必要な場面の対応をトレーニングします(※2)。警察を呼ぶのか、病院内で応援を呼ぶ体制があるのかなど、それを病院の中でトレーニングしないと、対応力が身に付きません。

 

院内暴力防止のポイント

 

―院内暴力が起きた場合はどうすれば良いのでしょうか。

三木 まず、危ない状況では、近づかないことです。興奮している人を刺激してはいけません。そして、「ダメなものはダメ」と毅然と言うことです。話し合っても無理な場合は、病院内の対応マニュアル通り、手順を踏まえて、必要時、警察を呼ぶこともあるでしょう。最近は、警察OBを採用する病院も増えているので、警察への対応も早くなりました。病院によっては実際の通報件数を示すこともあります。こういうことは、院内暴力の抑止力になりますね。

 

―通報件数が院内暴力の抑止力になるのですか?

三木 実際に通報して、警察が来た例では、多くの患者さんや職員が目撃することになります。警察に通報されてまで、暴力行為をする患者さんはそれほど多くはありません。患者同士の口コミもあり、案件が減ります。

 

―病院は暴力防止のためにどのようなことをしたら良いのでしょうか。

三木 私の講演では、包括的な暴力防止のポイントとして「組織の安全文化・風土づくり」「警備体制の強化」「トップの暴力防止に向けた明確な方針の提示」「対応マニュアル・ガイドラインの改訂」「職員の研修・訓練の実施」の五つの話をしています。

 

一番簡単にできることは、「トップの暴力防止に向けた明確な方針の提示」です。暴力防止の啓発ポスター(※2)を貼ることで、病院の方針が明確になります。空きスペースに病院側で自由に情報を書き込めるようにしています。ポスターが貼ってあれば、患者さんは「暴力防止」というメッセージを受け取るので、ある程度抑止力になっていると思います。

 

―防犯カメラは役に立たないのでしょうか?

三木 防犯カメラは、証拠能力が高いので、有効です。ただ、死角があるので、職員が対応する場合には、カメラが設置しているところで、証拠を残す必要があります。

 

―今後はソフト(人)とハード(設備)の両面で対策していく必要がありそうですね。本誌の読者は医療者と患者さんの両方います。一言、メッセージをお願いします。

三木 今回は患者さんから医療者への暴力について、お話ししました。実際には、医療者から患者さんへの暴力も存在します。病院が、患者さんにとっても医療者にとっても、安心で安全な場所となるよう、いかなる暴力も発生させないことが大切です。

 

患者から看護師への暴力事例

※1:YouTubeにて配信中。

※2:暴力のKYT場面集と10種類のポスターは、コチラからダウンロード可。

 

 

 

(隔月刊ドクターズプラザ2017年1月号掲載原稿)

 

 

DRP_2017.1月号表紙
リスト
  • 1. 巻頭インタビュー
  • 2. ドクターヘリ
  • 3. よしこ先生のメンタルヘルス
  • 4. 海外で活躍する医師たち
  • 5. 企業最前線
  • 6. 健康インタビュー
  • 7. 健康サポーターえむぞぅくん
  • 8. リレーインタビュー
  • 9. 医療系学生インタビュー
  • 10. 地域医療・北海道
  • 11. 町医者日記・沖縄より
  • 12. 小黒先生の薬の話 Q&A
  • 13. 微生物・感染症講座
  • 14. 川柳漫語
  • 15. 女子大生が考えた一品料理レシピ
  • 16. 元気わくわく病院ライブレポート
  • 17. 病院食探訪
  • 18. 魅地探索
  • 19. 僻地・離島医療
  • 20. 新製品情報
  • 21. クロスワード・読者プレゼント
リスト
  • 1. 西松 能子
  • 2. 横山 和之
  • 3. 天願 勇
  • 4. 小黒 佳代子
  • 5. 内藤 博敬
  • 6. 江畑 哲男
  • 7. 東京家政大学ヒューマンライフ支援センター