2026年8月

生きることを励ます川柳10

江畑 哲男 さん

(一社)全日本川柳協会副理事長、麗澤大学オープンカレッジ講師


縁あって、大学生の卒業論文にアドバイスをさせていただいた。その学生は、関西地区の某有名私立大学文学部日本文学専攻の四年生(当時)S・A子さんである。卒論のテーマは「川柳の文学的価値と授業展開の可能性」であった。

いやぁ、うれしくなった。現役時代、小生がずっとずっと研究してきたテーマだし、実践してきた課題でもあるからだ。

その卒論では、小生の論文から以下の部分を引用してくれている。

《川柳は俳句と同じく五七五の17音の短詩型文芸であるにもかかわらず、学校教育においては俳句に比べて軽んじられており、また教材化されていないという実態がある。》

S・A子さんは小生の一節に付け加えて、自身の問題意識をさらにこう展開する。

《現在、日本の国語教育は「言葉による自己表現の不足」という深刻な課題を抱えており、全国学力・学習状況においても、自分の考えを言葉にして表現する力が十分に育っていないことが指摘されている。》

すばらしい! まさしく、その通りだ。 じつは文部科学省も、児童・生徒の言語能力には以前から強い懸念を抱いていた。今から四半世紀前の学習指導要領改定時、「言語活動の充実」を最重要課題に位置付けたほどであった。

言葉と感性は表裏一体のものであろう。令和の子どもたちが、川柳という表現手段を手に入れて、心豊かに成長してくれることを心から願っている。彼女の論文が言語教育の充実につながることを望んでいる。その意味で、この女子学生の論文と実践を今後も応援してまいりたい。

居酒屋のオヤジがくれた胃腸薬 (多川義一)

好物は体に悪い物ばかり (晴歩雨読)

一万歩歩いて膝が痛くなり (しばくろ)

「若年性ですね」で、嬉々として治療 (しむらむし)

二日酔いさめた頃には吞んでいる (サブロー)

談話室マウント取り合う手術痕 (ごん太)

おはようのトーンで測るコンディション (夏蜜柑)

筋トレでマッチョな夫ビジュいいじゃん (やんちゃん)

腹八分二分は薬に空けている (カラスの行水)

健脚を生んだ天職立ち仕事 (イーリー)

AIがホームドクターになる令和 (有賀糖)

働いて働いて働いて病み (ふわりねこ)

健康でなければ老後は意味がない (スピード)

健康に悪いと知っても減らぬ酒 (味知龍)

還暦の達者な足が上る坂 (だんでらいおん)

よく歩きよく笑うからよく食べる (春爺)

主治医さん信頼できたらいなくなり (テツ)

睡眠時朝まで無事に有呼吸 (健康コツ)

四季巡り健康川柳詠む散歩 (もふもふ)

では、お待ちかね、ベスト3作品。佳作よりも一段上の表現力を味わってください。

◎百歳を目指す夫婦のジム通い (たちあおい)

「人生百年時代」が夢ではなくなりました。夫婦揃って百歳を目指す、なんてことも普通になってきました。結構です。そんなこの句に、迷わず◎印を付けたのです。

〇健脚でモテ期到来高齢者  (みさご)

足腰がしっかりしていると、高齢者仲間に持てるようです。何かと頼りにされるからでしょうか。「モテ期」という流行語を駆使して、まだまだ若い作者です。

〇ファスナーの登頂阻む腹の肉 (たまよ)

「ファスナーの登頂」という表現がじつにユニークでした。長い選者生活でも、この種の比喩にはお目にかかっておりません。「登頂」ねぇ、たしかにそう見えるのかも知れませんね。お見事デシタ!

今回川柳
ベスト作品

  • ◎トップ賞
    百歳を
    目指す夫婦の
    ジム通い

    たちあおい

  • 健脚で
    モテ期到来
    高齢者

    みさご

  • ファスナーの
    登頂阻む
    腹の肉

    たまよ

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