2026
04/10
原発のお膝元の地方病院で起きていること(3)
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地域医療
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北海道
北海道社会事業協会 岩内病院 院長
地域医療・北海道(60)
以前、2回にわたって、北海道の泊原子力発電所のお膝元である岩内町の医療体制の現実や問題点を書きました。原子力災害医療の担い手の一つである岩内病院は、発電所から最も近い一次二次救急を担っている「原子力災害医療協力機関」となっていますが、現在も通常診療で、整形疾患を含めた外傷を十分に診療できる体制ではありません。現在の岩内病院の通常診療は外科医1人と内科医2人。そして、小児科医1人の合計4人の常勤医師で行っています。
今回は、前述のような体制の中で当院が行っている「原子力災害医療」の取り組みや課題などについて書きたいと思います。
人材の育成
当院では、原子力災害医療を担う人材が育成されていなっかたため、まずは令和4年に私自ら弘前大学原子力災害医療基礎研修と弘前大学原子力災害医療中核人材研修を受講しました。令和5年からはさらに毎年、当院の医師、看護師、放射線技師を複数人ずつ、弘前大学放射線安全総合支援センター主催の研修に行ってもらい、人材を育成し、増やしています。
行政と協働した原子力災害訓練
原子力災害医療を担う人材が育成される前までは、行政(北海道)の用意したシナリオに基づいて、北海道電力株式会社(以下、北電)の災害医療の担当者の言う通りに行い、意味も分からず訓練をこなすだけでした。しかし、現在は、研修に送り込んだ当院の医療従事者たちが、災害医療を分かった上で、シナリオを理解し、自ら考え行動できるようになりました。すなわち、やらされていた訓練から、行政とともに協働して行う訓練となりました。
令和7年の多傷病者受け入れ訓練
訓練を協働で行うようになって、現場からは、「もっと実地に近い形のシナリオで訓練を行えないだろうか」「毎回、軽症の傷病者1人っていうのもね」「けが人が複数出たらどうするの」「考えられる、いろいろな状況を想定して訓練したい」などの意見が、訓練終了後の会議(北海道、北電、岩内寿都救急隊、関係町村、北海道大学、札幌医科大学、岩内病院が参加)で話されるようになりました。
そして、ついに令和7年の原子力災害医療訓練では、シナリオが初めて大きく変更され、多傷病者搬送訓練の実施が決定しました。訓練は、重症者1人と軽傷者2人が同時に搬送されるシナリオで行われました。救急車も岩内寿都救急隊1台に加えて、北後志消防組合1台と羊蹄山麓消防組合1台の計3台が救急搬送に参加しました。訓練当日は、近隣の余市病院、倶知安厚生病院から看護師、医師、放射線技師を派遣していただき、シナリオ上は岩内病院の職員として、複数人の傷病者を受け入れる体制を構築しておいてから行われました。前年までは、1人の軽傷者のみの受け入れでしたが、3人の同時受け入れを行うには、今まで使用していた救急外来では手狭なため、玄関ホールの半分近くの区域を仮の診察場所としました。訓練中であっても当院の通常の診療は継続したままでした。これは、実際に災害が起きた時には、災害医療と通常医療は並行して行わなければならないと考えたからです。
これからの課題
以前から気付いていたことではありますが、多傷病者にしたことでさらにはっきりと問題点が浮かび上がりました。まず救急車は3台参加していますが、訓練のために、他の消防組合から2台参加してもらいました。泊発電所を管轄する岩内寿都消防組合には岩内町の2台しかありません。また、発電所のある泊村には救急隊はいませんし、救急車は隣の隣にある岩内町から現場に行きます。現実問題、救急車も救急隊も足りません。
初期診療を行った岩内病院では、訓練のために、別の救急医療圏にある他の病院の職員に協力していただき、岩内病院の職員として参加していただきました。それでも、今回の訓練に視察に来ていた弘前大学の先生からは、人数はまだまだ足りていないとの指摘を受けています。つまり、原子力災害医療には想像以上の人数が必要であり、全く医療職の人数が不足しています。
課題を解決するのは誰の責務?
令和7年の訓練を多傷病者にすることで、原子力災害医療に十分な備えができていないことがさらに分かりました。東日本大震災の時には、初めて起きた大規模原子力災害であり、医療面でも想定外のことが多数起きたと思います。しかし、次に起きるかもしれない原子力災害では、あの経験から多くのことが想定外ではないはずです。想定内である原子力災害医療の備え(救急体制、医療体制、特に救急や医療従事者の人数確保)を十分に行うのは、原発が立地する行政の責務であると考えています。
少しでも、原子力発電所のお膝元から医療体制などを発信できればと考えています。