2026
02/02
家族の施設入所で直面する2つの課題
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介護
NPO法人となりのかいご・代表理事
隣(となり)の介護(41)
介護が必要な家族の施設入所で、新たな課題に直面する方も少なくありません。今回は、介護相談でも多くの相談が寄せられる、施設入所に関する2つの課題について考えていきます。
【1つ目の課題/施設職員による虐待】
施設内虐待の現状
1つ目の課題は、施設職員による虐待の問題です。介護施設での虐待事件が発生するたびに、「親を施設に預けて大丈夫なのか?」という相談が急増します。
国が行っている高齢者虐待に関する調査(※1,2;令和5年度「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果(厚生労働省)」)によれば、令和5年度の施設職員による虐待件数は1,123件となっています(参考:同調査の家族・親族による虐待件数は17,100件)。
【介護職員による虐待の種類(複数該当)※1】
・「暴力的行為や身体拘束などの身体的虐待」 51.3%
・「威嚇的・侮辱的な発言や態度などの心理的虐待」 24.3%
・「介護放棄」 22.3%
虐待が起きる要因
【介護職員による虐待の発生要因(複数該当)※2】
・「職員の虐待や権利擁護、身体拘束に関する知識・意識の不足」 77.2%
・「職員のストレス・感情コントロール」 67.9%
・「職員の倫理観・理念の欠如 」 66.8%
・「職員の性格や資質の問題」 66.7%
私も介護施設の勤務時に、虐待の加害者になるリスクを感じる瞬間がありました。認知症による不安症状から、攻撃的な発言や行動を浴びせられると、自身の感情が荒立つこともあります。それでも、事前に学んでいた知識や対応策により防ぐことが十二分に可能でした。
一方で介護施設によっては、人材不足の常態化などで自身が虐待加害者になる可能性や感情が高まったときの対応策について学ぶ機会が得られず、加害者になってしまうケースがあるのです。
虐待防止の施策について
介護施設には、必ず虐待防止マニュアルを備えておかなければなりません。しかし、マニュアルがあっても活用されていないことが課題となっていました。令和6年からは介護施設に求められる虐待防止に関する義務が強化され、虐待防止委員会の定期開催、年2回の虐待防止研修の実施、虐待防止の担当者の専任などの取り組みが要件に加えられました。
さらに私としては虐待防止マニュアルの冊子を読み合わせるだけでなく、外部講師による研修、業務中に抱えたストレスを打ち明け合う場づくり、ストレスがかかりやすい業務の洗い出しと改善などの対策を繰り返し、虐待防止や職員同士の信頼関係づくり、介護職の離職防止といった取り組みが必要だと考えています。
虐待防止のために私たちができること
虐待防止に熱心な施設を選び出すには、普段から家族の介護に余裕を持った関わりをすることが必要です。施設職員による虐待のニュースを目にして「介護施設は信用できないから、家族だけで介護しなければ」と抱え込んだ結果、「もう限界だ……」となってしまい、「すぐ入れるキレイで新しい施設」などと、施設の質を精査することなく選んでしまうことだけは避けてください。
「キレイで新しい施設」でも虐待は起こり得ます。当法人が発信している「よりよい老人ホームの選び方5か条」に、もう1つ「虐待防止の取り組みについて独自に工夫されていることはありますか?」と質問を加えてください。この質問にしっかり答えてくれる施設を選ぶことで、虐待を受けるリスクをかなり低減することができます。
【2つ目の課題/施設入所している家族とのコミュニケーション】
施設入所している家族とのコミュニケーションの取り方
2つ目の課題は、施設入所している家族とのコミュニケーションです。親が施設に入所した場合、面会や電話で近況を伝え合うことになります。そこで「どんな風に過ごしているのか」「元気でいるのか」といった、いつも同じような会話になることを悩まれる方がいます。
心地よく関われるペースを大切にする
親を施設へ入所させることに後ろめたさを感じて、何かしてあげたいと、面会や電話の回数を増やすなど、過剰に頑張ってしまう方がいます。
たとえ親から「寂しいから頻繁に来てほしい」と言われても、優先するべきは自身の生活です。要望に応えすぎて無理をした結果、施設から足が遠のいてしまうくらいならば、気持ち良く無理のないペースで接することをお勧めします。遠方の施設に入所している場合は電話での会話が中心となるかもしれませんが、電話も自分自身が、気持ち良く話せるペースを心掛けましょう。
認知症の短期記憶障害は、数分前に起きたことなど直近の記憶を忘れてしまいます。逆に、昔の記憶は鮮明に覚えていることがあります。今まで親からされてうれしかったことや感謝の気持ちなど、家族にしかできない話題を考えてみてください。
そもそも、家族の会話に特別な意味や目的を持たせる必要はないと考えています。その時、お互いが言いたいことを伝えられたらそれで十分です。また、施設の生活に心配があれば、直接、親から聞かなくても職員に介護記録を見せてもらえば良いのです。
親との会話に悩むという事自体が、親のことを考えられる余裕があるという証拠です。離れて暮らす親を心配に思う気持ちがあるだけで十分に親に対して真摯に向き合っているといえます。
親と施設職員の関係を深めるきっかけづくりで虐待防止
面会や電話で繰り返し話題になる昔話に関連した思い出の品や昔の写真を、部屋の中に飾ることをお勧めします。
「この写真、〇〇さんですか?」と親と施設スタッフの会話が弾むことで、個々の関係性が深まるきっかけにもなります。私も施設職員の時は、野球の往年の名選手の話で盛り上がったり、着物の着付けの仕方を教わったりすることもありました。こういった会話から施設職員との関係性が深まり慣れ親しんだ関係となることは、施設職員による虐待防止にもなり、日々のケアの質を高めることにもつながります。