2025

10/07

在宅医療と施設

  • 在宅医療

四街道まごころクリニック
院長
梅野 福太郎

在宅医療(10)

◆ Aさん(92歳・女性)のケース

訪問サービスを利用しながら1人暮らしで生活しており、時々散歩に出かけることもありました。キーパーソンである息子さんは他県在住で、必要な時には時間をかけて来訪してくれています。 ある日、散歩中に転倒して救急搬送となり、腰椎圧迫骨折と診断されました。安静により骨折は治癒しましたが、日常生活動作(Activities of Daily Living:以下、ADL)が低下し、自宅での生活が困難になりました。 家族や本人の希望で介護付き有料老人ホームへの入所を決断しました。

施設入所を考える時代の到来!?

国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、75歳以上で一人暮らしの割合は2020年で全国平均22.4%、2050年には28.9%に上昇すると予測されています。在宅医療や介護サービスは以前に比べて格段に充実してきましたが、加齢やADL低下によって在宅生活の継続が難しくなる場面もあります。その際には、施設入所という選択が必要になる場合があるでしょう。では、どの施設を選ぶのが良いのか。在宅医の視点から、主な施設の特徴をまとめます。

〇特別養護老人ホーム(特養):介護3以上の方が対象で、日常的な介護が必要。看護師が常駐し(日中のみの施設もあり)、点滴など一定の医療処置も可能。利用料は比較的安いが、入所待ちが多いのが現状です。寝たきりで尿道カテーテル留置など医療処置が必要な方などが対象。

〇介護老人保健施設(老健):在宅復帰を目的とする中期入所施設。医師・看護師・リハビリ職が常駐し、医療処置も対応可。入所期間は3~6カ月が目安で、リハビリによりADL改善を目指します。脳卒中で今は麻痺が残り自宅療養困難だが、一定期間のリハビリでADLが改善すれば自宅療養可能な方などが対象。

〇住宅型有料老人ホーム:居住が主体で、介護は外部サービスを契約して利用。ADLが自立している方から寝たきりまで幅広く対応。最近は医療ケア特化型の施設が増えており、看護師、ヘルパーが実質常駐することで点滴や経管栄養(胃瘻など)などを必要とするがん末期や難病の方も受け入れている。

〇サービス付き高齢者向け住宅(サ高住):バリアフリーの賃貸住宅に安否確認と生活相談サービスが付いた形態。介護サービスは外部契約で利用し、比較的自立〜要支援レベルの方向けです。

*サ高住は一般的な賃貸住宅と同じ「賃貸借契約」なのに対し、住宅型は終身利用権を得る「利用権方式」

〇介護付き有料老人ホーム:施設内スタッフが介護サービスを提供し、24時間常駐。看護師も常駐(一部日中のみのところも)するなど、医療処置も可能で提供サービスは特養に近い。特養より入所しやすいが費用は高め。

〇グループホーム(認知症対応型共同生活介護):認知症の方が対象。9人1ユニットの小規模単位で共同生活し、職員との距離も近くアットホームな雰囲気。外部からの介護サービス導入は基本不可だが、訪問診療、訪問歯科、訪問マッサージなど医療系訪問は利用可能です。

〇看護小規模多機能型居宅介護(看多機):「通い」「泊まり」「訪問介護」「訪問看護」を一体的に提供。通い・泊りのスタッフが訪問するため関係が構築しやすい。看多機所属のケアマネジャーがプランを作成するので、それまでのケアマネジャーから変更する必要がある。利用料金は1カ月ごとの包括費用(定額)。

〇養護老人ホーム・軽費老人ホーム(ケアハウスなど):生活困窮や住居の支援を目的とした比較的低料金の公的施設。介護度が進むと対応が難しい場合がある。

〇介護医療院:従来の介護療養型医療施設の役割を引き継いで2018年より開始している。医療的ケアと介護の両方が必要で、長期療養を要する人が対象。

施設選びのポイント

施設選びでは、以下の点を見学時に確認することをおすすめします。

●入居者の表情や生活の雰囲気、活動プログラムの有無
●夜間、休日の職員体制、看護師常駐の有無
●医師との連携状況(どの訪問診療クリニックが介入するか?)、対応可能な医療処置
●入居費用や生活費の具体的な見積もり
●契約書の退去条件や解約金、医療費負担の扱い
●感染対策、排泄ケア、緊急時の対応方法

費用やサービスは地域や介護度、所得によって大きく異なります。また同じ形態の施設でも施設間での特徴の違いがあります。何より本人の希望や食事など生活習慣に合った施設を選ぶためにも、早めの情報収集が大切だと思います。

急な入院からの施設入所では、十分な比較検討が難しくなることもあります。お時間がある時から、見学やお試し宿泊を活用し、納得のいく選択ができるように準備してはいかがでしょうか。

冒頭のケースですと、訪問サービスを利用して一人暮らしされているだけあって、やっぱり自宅療養を継続したかったという思いは一部あるようです。一方でご本人の生活を維持するために、また家族も遠方から安心して見守れるように、施設で頼りながら過ごしたいと納得するタイミングはあるのだと思います。本人も家族も「これまで一人で良く頑張ったね」と言ってもらえるように、周囲は支援していくことが大切だと思います。

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