2025

08/08

在宅医療と便秘

  • 在宅医療

四街道まごころクリニック
院長
梅野 福太郎

在宅医療(9)

◆ Aさん(85歳・男性)のケース

定期的に訪問診療をしており、排便状況を聞くと便秘とのこと。そこで担当医は便秘薬を追加で処方することにしました。その2週間後に訪問診療で確認すると、薬を飲み始めたら下痢になったので自己中断し飲むのをやめたため、相変わらず便秘は続いていた。

このようなケースは特に外来診療ではしばしば見られるようです。最初の便秘の薬自体、もしくはその量が合っていなくて、自己判断で効かないと中止したり、効き過ぎてやめたりといったことが起こります。今回は在宅医療と便秘について考えたいと思います。

便秘とは?

便秘は誰にでも起こる可能性がある身近な症状です。特に高齢になるほど便秘の訴えは増え、60歳を超えると有訴者率が上がります。また女性では20代など若い時期から起こりやすい傾向もあります。

日本消化器病学会や日本内科学会の定義によると、便秘とは「1週間に3日以上排便がない状態」。あるいは「毎日排便があっても残便感がある状態」、「本来体外に排出すべき便を、十分かつ快適に排出できない状態」とされています。ですので、毎日排便がある習慣があればそれに越したことはないですが、必ずしも毎日の必要はないといえます。

またその性状はブリストルスケールで評価し、便の形状と硬さを7段階で分類し、1はコロコロ便で7は水様便とした時に、4のバナナ便が望ましいとされます。

便秘の治療

主に次の3つに分けられます。

・便の量を増やす
・便を柔らかくする
・腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)を促進する

具体的な治療法としては以下のことが挙げられます。

・生活習慣の改善
・バイオフィードバック療法(機能性便排出障害に対して)
・内服薬、外用薬による治療
・摘便
・浣腸(逆行性洗腸法も含む)など

生活習慣を改善するには

起床後1時間以内の軽い散歩やジョギング、こまめな水分摂取、朝食をしっかり取ることが勧められます。また便意がなくても、毎朝決まった時間にトイレに行く習慣をつけることが有効です。

さらに排便時の姿勢も重要で、前傾35度の姿勢が直腸と肛門の角度を最適にし、排便しやすくなるとされています。足元に台を置くと骨盤の可動性が高まり、腸への圧力がかかって蠕動運動を補助する効果もあります。まるで“ロダンの考える人”のように、深く静かに座ってリズムを整えるような意識が大切です。

便秘薬の種類と使用方法について

生活習慣を整えた上で改善しない場合は、便秘薬を活用します。

便秘薬には大きく分けて、便を柔らかくする薬と腸を刺激する薬があります。以前から酸化マグネシウムが広く使われていますが、2012年以降、新薬が続々登場し、特に高齢者の便秘治療が飛躍的に改善されています。

しかし、薬は「出されたから飲む」だけではうまくいかないこともあります。ある調査では、処方薬が「効かない」「効きすぎて下痢になった」などの理由で通院をやめ、市販薬で自己対応している人が6割近くいるという結果も出ています。

薬は「量」や「種類」を適切に調整することが極めて大切です。例えば夏場は水分摂取が減り、コロコロ便になる傾向があるので緩下剤(柔らかくする)を増やすなど、時期により調整することもあります。また日々体調も変わることも想定し、処方した薬を、例えば「朝昼夕食後内服として処方しましたが、便が緩ければ昼を抜いても構いません」など、具体的に薬の量の調整をあらかじめ指示しておき、次の診察でその効果をフィードバックしてもらい、また新たな薬の調整のルールを設けるなど、きめ細やかな設定が大切になります。

このように、便秘と上手に付き合うには、自己判断ではなく医師と使用方法について相談するのが望ましいでしょう。

高齢者の便秘との向き合い方

高齢者の場合、生活習慣の改善が難しいことも多いため、処方薬を適切に取り入れながら、「ちょうどよい加減」での対応が大切です。そして、好きなものをおいしく食べて、体力を維持することも、健康的な排便には欠かせません。

また、毎日排便がないと「便秘」と感じてしまう人もいますが、冒頭でも述べたように必ずしも毎日、出ることにこだわる必要はありません。高齢者では食事量自体が減るため、週に3~4回でも正常範囲と考えることも可能です。中には週に1回でも体調に問題ない! という方もいました。

市販薬の注意点

市販の便秘薬は即効性があり一見便利ですが、特に刺激性下剤が中心であるため、使い続けることで耐性がつきやすく、効きづらくなったり薬の量が増えたりする「悪循環」に陥りやすいという問題があります。 例えば「ピコスルファートナトリウム液」という薬は、通常5~10滴で効果が出るのに、乱用を続けた結果、1本(150滴)飲まないと効果が出ないという方もいました。適切な知識をもとに活用したいところです。

最後に

便秘は生活の質に大きく影響するものですが、適切な知識と対処法を身に付ければ、恐れる必要はありません。排便の頻度や薬の調整については、ぜひかかりつけ医とよく相談し、自分に合った方法で、無理なく快適な生活を送っていきましょう。

ちなみに冒頭のAさんは、薬の調整にも慣れて現在ではすっかり便秘も解消され、毎日、元気に過ごしています。

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