2025

07/15

学校の性教育の今

  • 保健

高橋 佐和子
神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部看護学科

保健室ってどんな場所(6)

デジタルネイティブの新たな性の課題

現在の小中学生は、生まれた時からスマートフォンをはじめとするデジタル機器が身近にあった世代であり、デジタルネイティブといえます。実際、令和5年の調査では、子ども専用スマートフォンを持っている割合は、小学生(10歳以上)70.4%、中学生93.0%であり(こども家庭庁,2025)、子どもが自由にインターネットの世界とつながることができる状況にあることが分かります。この世代での性の課題は、SNS(Social Networking Service)などのインターネットを介した性犯罪です。自分が撮った写真が拡散するなどの被害はその代表的なもので、児童ポルノ事犯の4割近くを占めています(警察庁,2024)。

SNSに起因する事犯の近年の傾向としては、低年齢化と児童ポルノや児童買春に減少傾向があるのに反し、重要犯罪(殺人・強盗・不同意わいせつ・不同意性交・略取誘拐)が少しずつ増加していることです。令和4年度まで高校生が被害児童の最多であったのですが減少傾向にあり、令和5年度から中学生が最多となりました。そして、小学生の被害者も5年前の3倍近くへと急増し続けています。

しかし、多くの危険があるインターネット上のコミュニケーションであっても、これからの時代を生きていくためには、それを避けて通ることはできません。使いこなしていく力が子どもたちには求められています。

これからの時代のコミュニケーション力とは⁉

「近ごろの若者はコミュニケーション力が低い」とよくいわれますが、本当でしょうか? 炎上や誹謗中傷が飛び交うSNS上で自分らしさいっぱいの投稿をしたり、身体的には男性と思しきスカートを履いた友達と真剣なディスカッションをしたりしている若者を目にするたび、そのコミュニケーション力は低いどころかむしろ高いように私には見えます。これからの時代に必要とされるコミュニケーション力は、変化してきたのではないでしょうか。

近年「性的同意」という言葉が注目されましたが、それもこの流れの代表的なものではないでしょうか。性的同意とは、性的な行為をする前にお互いがその行為を望んでいるかの確認を取ることです。同意がないまま行為に至ることは、犯罪です。「性的な行為の承諾はあうんの呼吸」という時代は終わりました。刑法及び刑事訴訟法も改正され、不同意によるわいせつ行為などの性犯罪対策が強化されました。これにより、性交同意年齢(性行為に同意する能力があるとみなされる年齢)は13歳から16歳に引き上げられ、性犯罪の時効も延長されました。

性的行為の前にお互いの意思を確認することはとても良いことだと思いますが、性的同意には、多くの壁が存在します。まず、同意するかしないか、自分の気持ちを決めなければいけません。その上で、状況に合わせた適切な方法でそれを相手に表明する必要があります。そもそも日本人は、 NOを言うのが苦手といわれており、自己表現が苦手という特徴があります。性的な行為には、妊娠や性感染症など、将来に影響する危険もありますが、とっさの場面で、先のことを考える余裕があるでしょうか。

実際、若者(16~24歳)のうち、4人に1人以上(26.4%)が何らかの性暴力被害に遭っているというデータがあります。そしてその加害者の多くを占めたのは、「交際相手・元交際相手」「通っていた学校の関係者(教員など)」「SNSなどで知り合った人」でした。性的同意を表明する難しさ、それを受け入れさせる難しさを克服し、自分の気持ちを表明できる力を育むことも性教育の課題です。

これからの性教育

日本の性教育は、第二次性徴・月経・射精など、身体的な成長を中心とした指導となっており、「性器教育」と揶揄されることもありました。しかし近年、「包括的性教育」の考え方を学校の性教育に取り込もうとする動きが始まっています。包括的性教育とは、ユネスコが提唱した性教育の在り方であり、人権やコミュニケーションについての学習が基盤となっています。学校が変わっていくには時間を要しますが、この動きは少しずつ加速していることを実感しています。この動きを後押ししたいと考え、私たちは「おもしろ健康教育研究所」を立ち上げ、各地で性教育をはじめとする健康教育に取り組んでいます。

性教育は生き方に関わる教育です。学校だけでできることではありません。家庭での性教育も非常に大切です。友達と仲良くすること、家族を大切にすることも性教育です。構える必要はありません。子どもの考えを聞く、自分の考えを伝える、対話から初めてはいかがでしょうか。学校・家庭・地域・専門職がともに手を取り合い、子どもたちの健康で幸せな未来を守るために性教育に取り組んでいきましょう!

 

警察庁,2024. 「児童買春事犯等 検挙件数の推移 子供の性被害」

https://www.npa.go.jp/policy_area/no_cp/uploads/R5kodomo.pdf

こども家庭庁,2024. 「令和5年度青少年のインターネット利用環境実態調査結果」

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/9a55b57d-cd9d-4cf6-8ed4-3da8efa12d63/fc117374/20240226_policies_youth-kankyou_internet_research_results-etc_09.pdf

内閣府,2023「こども・若者の性被害に関する 状況等について」

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/2ff7a807-a6a8-4d4b-87f6-3b136407e7c6/fefea869/20230401_councils_child-safety-conference_2ff7a807_07.pdf

おもしろ健康教育研究所

https://www.omoken-works.com/

 

スキルラダー研究会の概要

ウェブサイト https://skill-ladder.com/

・団体名:SLIPER(すりっぱ)
Skill Ladder for Improvement and Evaluation Running of School Health Nursing

・理念:養護教諭の能力育成を追及すると同時に、子どもやその家族、さらにその地域で暮らす人々の健康に貢献すること

・メンバー:
荒木田美香子 [ 川崎市立看護大学 ]
内山 有子 [ 東洋大学]
加藤 恵美 [ 静岡県静岡市立清水庵原小学校 ]
齋藤 朱美 [ 東京都立紅葉川高等学校 ]
芝 裕介 [ 宮崎県立延岡しろやま支援学校 高千穂校 ]
高橋 佐和子 [ 神奈川県立保健福祉大学 ]
中村 富美子 [ 静岡県沼津市立大岡中学校 ]

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