2025
04/17
漢方薬の選び方③
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薬
株式会社ファーマ・プラス 専務取締役、株式会社メディカル・プロフィックス 取締役
一般社団法人 保険薬局経営者連合会 副会長
新・薬の話(4)
花粉症と漢方薬
花粉症の季節となりました。くしゃみや鼻水に悩まされ、集中力も低下して勉強や仕事に身が入らない方も多くいらっしゃるでしょう。また、春は何となく体がだるく、気持ちの良い季節にもかかわらず、やる気が出なくなってしまう方も多いと思います。漢方薬を上手に使うことで、この季節を乗り切ることができます。
前回(*1)もお伝えいたしましたが、体は常にバランスを保とうとしており、何かの原因でバランスが崩れると病気になります。体の外から入ってくる花粉の影響も同じです。抵抗力が強ければ花粉症も軽く済むということもありますが、ストレス社会の現在、ヒトは常に多くのストレスにさらされています。症状が軽ければ漢方薬で悪化させないこと、症状がひどい時にも漢方薬を併用して楽に過ごせるようにすることがポイントです。
漢方薬は症状にきめ細かく対応できる
花粉症も風邪と同様に、体の中に入ってきた異物である花粉を外に追い出そうとくしゃみや鼻水、涙が出ます。悪化してくると鼻や喉の粘膜や周囲の組織に炎症が起きて、場合によっては微熱などが出る方もいらっしゃいます。まだ症状が軽いうちに対応するのが悪化させないコツです。西洋薬では抗ヒスタミン薬の内服とともに、点眼薬や副腎皮質ホルモンの点鼻薬が処方されますが、漢方薬では生薬の組み合わせによって症状にきめ細かく対応することができます。
花粉症の時には「解表薬(げひょうやく)」という体の外に現れてくる症状を取り除く生薬が含まれている方剤を使用します。花粉症やアレルギー性鼻炎によく使われる漢方薬に「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」がありますが、小青竜湯は、麻黄(マオウ)、桂皮(ケイヒ)、芍薬(シャクヤク)、細辛(サイシン)、乾姜(カンキョウ)、五味子(ゴミシ)、半夏(ハンゲ)、甘草(カンゾウ)からなる方剤で、麻黄という代表的な解表薬が含まれております。 麻黄は体を温め発汗させる作用や利尿効果があり、解熱作用がありますが、この発汗利尿作用によって鼻水を減らすのです。また、桂皮が麻黄の利尿作用を助け、細辛が鼻水の分泌を抑制します。他にも乾姜や五味子といった体を温める漢方薬を組み合わせて作られたのが、小青竜湯です。
くしゃみや鼻水、鼻づまりが止まらない時
くしゃみが止まらず、鼻水がダラダラと出てしまう時には、「麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)」を頓服で服用することもお勧めします。麻黄附子細辛湯は、麻黄(マオウ)、細辛(サイシン)、附子(ブシ)の3つの生薬からなる方剤です。一般的に生薬の数が少ない漢方薬では、それぞれの生薬の効果がシャープに出るといわれております。附子が加わることによって麻黄や細辛の利尿効果を助け、水溶性の鼻水や痰に効果があります。ぬるま湯で服用すると10〜15分くらいで鼻水が止まってきますので、私がいつも携帯している漢方薬の一つです。
逆に鼻詰まりがひどい方には、「葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)」もお勧めです。解表薬の麻黄(マオウ)や葛根(カッコン)、桂皮(ケイヒ)などに加えて辛夷(シンイ)が含まれており、鼻粘膜の炎症性浮腫を取り除きます。
これらはどれも短時間で効果が実感しやすい方剤ですが、麻黄にはエフェドリンという成分が含まれており、副作用として動悸や血圧上昇が起こる可能性があります。麻黄が含まれる漢方薬で具合が悪くなったことがある方はご注意ください。
また、毎年花粉症になる方や、花粉症の時期に喘息が悪化するような方、季節の変わり目に体調が悪くなる方には「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」を服用されることもお勧め致します。初めに書きましたように、免疫力の低下がアレルギー症状の悪化も招きます。体質改善も視野に入れて服用すると良いでしょう。
このように漢方薬では症状に応じて細かく対応することが可能なのです。
漢方薬の併用
最後に、漢方薬を2種類服用しても良いかという質問を頂きますが、より症状に合わせるために2種類服用することはよく行われます。しかし、併用することによって重複する生薬の量が多くなり、それによって副作用が生じることもあります。また、逆に併用することによって目的とする効果が現れにくくなることもあります。漢方薬を2種類以上併用したいときや、普段医薬品を服用している方が漢方薬を服用したいというときには、その旨を薬剤師にご相談ください。
漢方薬を使用して、花粉症のつらい時期や季節の変わり目を上手に乗り越えましょう。
*1 2025年1月14日公開「新・薬の話(3)」を参照