2025
04/03
在宅医療とおひとりさま
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在宅医療
院長
梅野 福太郎
在宅医療(7)
おひとりさまAさん(92歳女性、独居)のケース
キーパーソンの息子さまは県外に在住。普段はデイサービスと訪問診療を利用し過ごされているが、たまに転倒して動けないと救急要請となったり、入院するほどではないが身の回りの事ができず、臨時で緊急避難的にショートステイを利用したりすることもある。今後どのように過ごすか、関係者も含めて都度相談している。
在宅医療を提供する現場では、このケースのように孤独や孤立と向き合っている“おひとりさま”住まいの方を担当することが増えてきています。今回は、在宅医療とおひとりさまについて考えたいと思います。
Contents
孤独と孤立
“つながりの規制緩和”とその影響
最近は、私たちの生活様式に大きな変化が見られます。昔は家族や勤め先とのつながりが非常に強く、社会的なネットワークが生活の重要な一部を成していました。しかし、現代では、家族や会社との関係性の自由度が高まり、いわゆる“つながりの規制緩和”が進展しています。この変化により、人によっては強いコミュニティーを形成し、より深いつながりができる一方、孤独感や孤立感を覚えるようになった人たちもいます。このようなコミュニティーの二極化は、現代社会の大きな課題の一つと考えられます。
1人暮らしの人口増加とその現実
国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、2020年には全国で38.0%であった1人暮らしの割合が、2050年には44.3%に達すると予想されています。また、65歳以上の1人暮らしも、13.2%から20.6%に増加する見込みです(https://www.ipss.go.jp/pp-pjsetai/j/hpjp2024/t-page.asp)。
さらに警察庁による統計では、孤独死の23.7%が生産年齢人口(15〜64歳)によることが示され、高齢者だけでなく現役世代にも孤独の問題が広がっていることが明らかになっています(https://www.npa.go.jp/news/release/2024/20240821001.html)。
孤独がもたらす健康への影響
2010年に発表されたブリガムヤング大学の研究では、社会的なつながりの有無が死亡率に与える影響が喫煙や飲酒、高血圧などよりも大きいことが示されました。長引くコロナ禍により、孤独や孤立はますます深刻な社会問題として認識されるようになり、2021年には日本政府が孤独担当大臣とその対策室を設置されており、孤独を和らげるための制度や取り組みの必要性が強調されています。
孤立に備えるための3つの要素
孤立に対する備えとして、次の3つの要素が挙げられます。
・生活支援→買い物支援や通院の付き添い、役所や金融機関の手続きを代行するサービスが含まれます。介護保険制度を利用することで一部の生活支援を受けることができます。
・身元保証→入院や施設入所の際に必要となる保証や医療同意を含みます。身元保証人が居ない場合、知人など地域でのサポートを受けているケースもあります。
・死後事務業務→亡くなった際の葬儀の手配や、さまざまな契約の解約手続き、遺品整理などです。
具体的には、生活支援・身元保証・死後事務業務を一括してサポートできる高齢者等終身サポート事業を提供する民間事業所があり、年々増加傾向にあります。ただし、各事業所によって提供範囲やコストが異なるため、事前のサービス内容の確認が必要です。
孤独を和らげ、豊かな社会を作る第一歩を⁉
1人暮らしの幸せと地域の支援
一方で、おひとりさまの生活が幸せであるという調査結果もあります。辻川覚志著『老後はひとり暮らしが幸せ』によれば、自分の生活を自己決定し、気ままに生きることができると感じている人々が多いことが示されています。このような生き方を社会全体で受け入れ、地域がサポートする仕組みを整えることが重要かもしれません。
地域での若い人たちやボランティアが活動することも重要です。生活支援の具体例として、地域での交流イベントやカフェなどがあります。また、最近ではオンラインでのコミュニティーも増えており、孤独感を和らげる新しい形のつながりが生まれています。
先日行った地域の連携会で、ある高齢者等身元保証事業所に所属する主任ソーシャルワーカーの方が「大事なのは身元保証人を立てることではなく、人生会議(ACP)を繰り返すこと」と発言したことが印象的でした。つまり、身元保証人がいなくても地域のサポートで安心して暮らせる仕組みを作り上げていくことを目指しましょう、というものでした。
冒頭の方は、何かのきっかけでその生活が脅かされそうになるのも事実であり、有事への備えは非常に大切だと思われますが、自分の意思で“おひとりさま”を続けており、決して悲観的でもなく自分らしく過ごされています。
もし皆さんの家族や身近な人に1人暮らしの方がいるのであれば、久しぶりに連絡を取ってみてください。思いやりの気持ちを持って、関係性を築き続けることが、孤独を和らげ、豊かな社会を作る第一歩となるでしょう。