2025

04/09

小児インフルエンザウイルス感染症を別の視点から考えよう!

  • 小児の病気

鈴木 繁
社会福祉法人聖隷福祉事業団聖隷佐倉市民病院
小児科副部長兼臨床研修センター長

小児の病気④

発症予防、検査、薬

流行のピークは過ぎましたが、毎年冬に猛威を振るうインフルエンザについて、少し別の角度から考察したいと思います。

ヒトに感染するインフルエンザウイルスはA・B・Cの3タイプが存在します。C型は1年おきに流行するといわれていますが、発熱期間が約2日と短く、臨床上あまり重要な位置付けはされていません。A型はウイルス蛋白の種類によりH〇N△と番号が付けられ、理論上144種類の亜型(番号違い)が存在します。B型はビクトリア系統、山形系統の2種類のみです。

それでは、こうしたインフルエンザに対して、どのような予防法などがあるのでしょうか。以下に挙げてみます。

★ワクチン接種による発症予防

ワクチンは流行が予測されるA型2種とB型2種の抗体産生を目的に接種され、発症予防に対する有効率はおおむね50%です。この有効率50%とは、ワクチン接種した100人中50人が発症しない、ということではありません。ワクチン未接種者100人中発症が50人、ワクチン接種者100人では25人だったとしますと、ワクチン接種により50人中25人が発症を免れたことになりますので、有効率は25/50×100で50%となります。一般的にワクチンは集団での接種率が高い(80%以上)と集団免疫効果(herd immunity)が期待できますが、昨今接種者が減り接種しても感染してしまう、そうするとまた接種者が減るという悪循環に陥ってしまう状況が見受けられます。

ワクチンは接種後1カ月くらい経過すると感染予防、重症化予防の効果を発揮します。

★インフルエンザ迅速検査

インフルエンザはウイルス感染後1~2日で発症します。発熱(発症)12時間以内に検査すると25%程度で偽陰性(実際はインフルエンザ感染症ではあるが陰性)となります。ある程度のウイルス量に達しないと陽性反応がでません。

★発症後に使用する薬

現在インフルエンザ治療薬として使用されている薬剤は、①オセルタミビル(タミフルR)、②ザナミビル(リレンザR)、③ラニナミビル(イナビルR)、④ベラミビル(ラピアクタR)、⑤バロキサビル(ゾフルーザR)、⑥麻黄湯Rでしょう。以前、①は異常行動との関連が指摘された時期がありましたが、現在はインフルエンザ感染による症状とされています。実際にどの薬投与下においても異常行動の報告はあります。「タミフルRは怖いです」とおっしゃる保護者の方もいらっしゃいますが、①~④は全てノイラミニダーゼ阻害薬といって薬理作用としては同じです。1回の投与で治療ができる③は、二峰性発熱(いったん解熱した後再度24~48時間発熱する)が多い傾向にあります。⑤は一部のA型に感受性が低く(効果が弱い)、B型への投与は①~④の薬剤に比べ有熱期間が減少するという報告が散見されますが、11歳以下の小児への投与は推奨されていません。⑥は①と同等の抗インフルエンザ作用があります。

薬処方時の医療者の思い

子ども医療証で低価格、市町村によっては無料で薬が処方されすぐに治療することができます。では小児のインフルエンザ感染に対し、早急なインフルエンザ治療薬投与はどのような恩恵をもたらすでしょうか? 抗ウイルス薬投与により12~20時間解熱が早くなりますが、インフルエンザ脳症などの合併症を予防する効果は全くありません(成人は早めの投薬で肺炎などの合併症を軽減するといわれています)。ただし幼児、喘息や慢性心肺疾患を持っている方などは、抗ウイルス薬による治療が推奨されています。

最も怖い脳症にならないためには、インフルエンザにかからないことが大前提ですから、やはりより多くの方々がワクチンを接種することは大事なんです。また、早期に抗インフルエンザ薬を投与することで十分な抗体を作ることなく治癒してしまうとされており、抗インフルエンザ薬を使用せず治した方に比べ、抗インフルエンザ薬で治療した方の再感染率は約3倍上昇するとの報告もあります。

インフルエンザは風邪ですので、抗インフルエンザ薬の使用は必須ではありません。もしインフルエンザの診断があっても比較的元気であれば、薬を使用せずに治すことも選択肢として捉えていただければ幸いです(咳や鼻水の薬、解熱薬など症状を和らげる薬は必要に応じて使用してください)。そうすればしっかりとした抗体が産生され、来シーズンは同じ亜型の感染を起こしにくくなっています。熱が出て12時間経過したから夜間でも救急に受診する方も非常に多くいらっしゃいます。ご心配なお気持ちは十分に理解できますが、熱の高さではなく全身状態を見て受診の判断をしていただければ大丈夫です。

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