2024年8月
生きることを励ます川柳4
江畑 哲男 さん
(一社)全日本川柳協会副理事長、麗澤大学オープンカレッジ講師
小生が主宰する川柳の会には、ナント97歳の現役作家がおられる。毎月句会に足を運び、その場で10句ほどの作品を提出し、入選すると呼名(自分の句だと名乗りをあげること)まで果たす。見事である。
仮にMさんとしておこう。
Mさんは川柳歴20年を越え、作品のレベルは高く、会の発展にも貢献してこられた。そこで、当会の年間最優秀賞を差し上げることになった。
授賞式は4月にあった。そのMさんの御礼の挨拶が素晴らしかった。
《川柳歴が長いのでちょこちょこと賞をいただくことはございますが、今日が一番嬉しゅうございます。何しろ、地元での受賞です。素直に喜んでおります。それもこれも江畑哲男代表をはじめとする東葛川柳会のお仲間の皆さんのおかげです。……どうも有り難うございました。》
右記内容を、カンニングペーパーも持たずに述べられた。よどみない自然体で、率直に語られたのである。会場が大きな拍手に包まれたことは、言うまでもない。
その後も、お目にかかるたびにMさんはこう仰る。
《ボクは川柳のおかげだと思っています。川柳のおかげで長生きできたし、川柳のおかげで好奇心を持ち続けています。本当に有り難いことです。》
数年前、Mさんとこんな約束をしている。
《元気に100歳を迎えられたら、お祝いをさせていただきますね。ホテルの一室を借り切って、みんなでお祝いをしましょう。ただし、健康長寿が条件ですよ! 寝たきりになったらパーティーはしませんよ。》
その100歳の祝賀会が、いよいよ日程に上りつつある。慶事は楽しみである。おめでたい目標は、ご本人のみならず、周囲の人間をも元気づけてくれる。
健康長寿は万人の願いである。川柳は人を元気づける、不思議な力を持っている。小生などはそう確信している。
さて、佳作作品からご紹介しよう。
終活で断捨離できぬ診察券 (老人生)
バレてます間食おやつ二段腹(北の大ちゃん)
バス乗っていつまで通える膝治療(三国離郷)
おしゃれして目指せ元気な高齢者(元太のおばさん)
仮病でしょ自称ギャンブル依存症(しむらむし)
老いたのはその分元気でいた証(まこもじゃる)
チョコザップ入ったからにはもととるぞ (やまあらし)
健康の理由はきっと孫の世話(アイぽん)
お味噌汁出汁に伝わる妻の愛(一刀両断)
腹筋をすれば腰痛ぶり返し(宗像次郎)
一万歩転ばぬ先にある元気(さくらんぼ)
体操を三日坊主で終わらせない(あこ)
酒止めてタバコも止めて引きこもる(アルコホリック)
続いて、ベスト3。今回は下記作品の頭上に輝いた。おめでとうございます。
◎瓶のフタ夫の握力を試す(やんちゃん)
こんな時だけ夫が頼られる? まあ、頼られるうちが花。そう思っておきましょうか。いかにも川柳的な仕立て方で、そこがよかった。
○家事育児エクササイズと言い聞かす(うし)
そうでしたか。家事育児はエクササイズ、なんですね。「言い聞かす」がおかしい。自分をナントカ納得させようとしているところに、ユーモアが漂っている。
○健康はついでくらいがちょうどいい(夏風かをる)
肩の凝らない自然体の表現がよい。「ついでくらい」という言い回しがソレだ。口語文芸の魅力を遺憾なく発揮してくれた。
今回の川柳
ベスト作品
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◎トップ賞
瓶のフタ
夫の握力を試すやんちゃん
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家事育児
エクササイズと
言い聞かすうし
-
健康は
ついでくらいが
ちょうどいい夏風かをる