多くの患者を守るメディカルウイング

特別インタビュー/メディカルウイング

医療過疎地と都市部の大病院を高速移動でつなぐ

 

へき地や離島といった医療過疎地域から都市部の高度・専門医療機関へ、空路を使って救急患者を迅速かつ安全に搬送することができるメディカルウイングは、北海道エリアでこれまでに2度の研究運航を実施し、その有効性が実証された。今年度(2017年度)には国家予算にメディカルジェット(へき地患者輸送航空機)の運航費用が計上されるなど、北海道内での本格運航に向けた取り組みが進んでいる。

2017.7特別インタビュー_メディカルジェット

目黒  順一 氏

北海道航空医療ネットワーク研究会・副会長
一般社団法人北海道医師会・常任理事

 

悪天候でも高速で安定飛行。
低騒音で患者に優しい搬送手段を実現

 

――メディカルウイングとはどのようなものか教えてください。

目黒 メディカルウイングは、医療機器等を装備し医師や看護師が搭乗して、救命救急医療や高度専門医療を必要とする患者を最適な医療機関に搬送するための、救急搬送用のことを指します。専門用語的には「医療優先固定翼機」という名称です。時速750㎞以上の高速で、へき地や離島と都市部の間を短時間で移動することができ、医療過疎地の救急患者に対し迅速に高度・専門医療機関で治療を受ける体制を整えることができる搬送手段として期待されています。

 

ドクターヘリや他の搬送手段との一番の違いは、やはりその速さにあります。私自身も体験しましたが、ドクターヘリでは2時間かかってしまう距離でも、メディカルウイングなら約45分で着いています。搬送時間が長くなれば、それだけ患者さんにとってはリスクとなりますから、高速移動が可能なメディカルウイングは救急医療にとって大きな力となりうるものです。

 

また、ドクターヘリは日没後の夜間飛行には制約がありますが、メディカルウイングは昼夜を問わず飛行が可能です。天候の影響も受けにくく、ドクターヘリでは飛行がキャンセルとなるような悪天候でも、メディカルウイングなら飛行可能となるケースも少なくありません。

 

長距離搬送にも対応しており、これまでの研究運航では、新千歳空港から関西国際空港まで1000㎞以上の距離を運航した実績もあります。

 

搬送時のエンジン音も、ヘリコプターと比べて非常に静かです。メディカルウイングは主に高度3000m以上の上空を飛ぶため、機内の気圧をコントロールできる客室与圧装置を備えており、機内の搭乗者に負担をかけません。

 

――いわば“患者さんに優しい”搬送手段というわけですね。

目黒 そのとおりです。ただし、ヘリポートがあればどこでも離発着ができるドクターヘリと違い、メディカルウイングは空港の滑走路を使っての離着陸しかできないという制限もあります。空港から受け入れ先の病院までは救急車などで搬送しなければならず、地元の消防機関などとの連携が必要となります。

 

また、今回、国が予算化した事業の枠組みでは“計画搬送”に限られており、救急搬送には対応していません。この点に関しては、救急搬送が可能となるように今後、行政側に要請をしていきたいと思っております。

B200搬送

搬送の様子(写真提供:北海道航空医療ネットワーク研究会)

 

企業からの資金援助をきっかけに、研究会を発足し研究運航開始

――メディカルウイングを、北海道エリアで導入することになったのは、どういう経緯からでしょうか。

目黒 広い面積を有する北海道では、救急患者を航空搬送するケースが多く、従来はドクターヘリのほか必ずしも医療用ではない防災ヘリや自衛隊などの固定翼機を利用していました。ただ天候に左右されやすいなどの課題も多く、医療用固定翼機の導入を望む声が以前からありました。

 

そんな中、2010年に民間企業のダスキン本社と道内フランチャイズ加盟店から、道央ドクターヘリの基地病院である手稲渓仁会病院に対して、「ダスキンの北海道上陸45周年記念事業の一環として、社会貢献をしたい」という申し出があり、同社の販売商品である「台所用スポンジ」の売り上げの一部を寄附することを考えていただいておりました。道内の航空医療体制を充実させるために利用してほしいという主旨で、いわばドクターヘリ運用のための資金援助でした。

 

ただ、ドクターヘリの運用には既に国家予算がついていることもあり、他の用途に使えないかという話になりました。そこで浮上したのが、以前から要望されていた医療用固定翼機、つまりメディカルウイングの運航だったのです。

 

さっそく運航に向けて研究会を発足し、「北海道航空医療ネットワーク研究会(通称HAMN:ハミン)」と名付けられました。

――その研究会に目黒先生も当初から参画していたのですね。

目黒 はい。私自身、道内の航空医療搬送については以前から課題が多いと感じていたので、自分から進んで研究会に参画しました。他には道内3医育大学救急医学講座の教授や北海道医師会長、ドクターヘリ基地病院の幹部と所在エリアの医師会長といったメンバー、さらには医療過疎地域の首長、国会議員、道議会議員などが研究会に名を連ねた、まさに官民一体での取り組みでした。

 

この研究会が中心となり、2010年9月6日から10月5日までの1カ月間、全国で初となる医療優先固定翼機による研究運航が実施されました。運航システムは、固定翼機による患者搬送の実績と全国各地でドクターヘリ事業を受託している中日本航空にご協力いただき構築しました。

 

――最初の搬送は、どのようなケースだったのですか。また、1カ月の試験運航で、どれくらいの搬送を行ったのですか。

目黒 運航初日に丘珠空港で、関係者や地元のマスコミ等を招いてセレモニーを行っていましたが、その最中に釧路から新生児の搬送要請がありました。それが、最初の搬送でした。1カ月間の試験運航では、医師搬送、臓器搬送を含め19件の搬送要請があり、実際に患者搬送を行ったのは9件でした。さまざまな課題が浮き彫りになりつつも、メディカルウイングの有効性が立証され、さらなる継続的な検証が必要だということになりました。

 

関係機関との折衝を重ねたところ、北海道地域医療再生計画の中で交付金を得られることが決まり、2011年11月から2013年9月までの3年間で、断続的に計12カ月の研究運航を実施することになりました。最終的に12カ月間で134件の要請を受け、実際に85件を搬送しました。

 

周産期患者を数多く搬送。滑走路積雪という課題も

――2度の研究運航で、具体的にどのようなことが分かりましたか。

目黒 国内の他地域と異なり、冬季の積雪が多い北海道では、離発着する滑走路の状態に気を配らなければいけません。当初、基地空港として、札幌市内の自衛隊丘珠駐屯地に隣接する札幌丘珠空港を利用していたのですが、この年は例年より気温が低く積雪期には滑走路の凍結状態が観測されるなど、航空法上の制限を受けることが多かったため、丘珠空港より滑走路の長い新千歳空港に基地空港を移して運航していました。ただ新千歳空港は発着便の数が多いので、迅速に出動させるためには制約もあり、結果的に冬季とそれ以外の季節で運航数に差が出てしまったのは、今後の課題となっています。

 

――実際に搬送した患者さんで、特に多かった症状などはありましたか。

目黒 小児や新生児、妊婦など、周産期の患者さんが多かったですね。小児の心臓疾患などの高度・専門医療機関は都市部に集中しており、北海道内にはまだまだ少ないのです。また、離島などの医療過疎地域から二次・三次救急医療機関に向けて、心大血管疾患や脳血管疾患といった集中管理を要する患者さんを搬送する手段としても、大いに有効であることが今回確認できました。

 

一度、潜水病の患者さんを旭川から岩手県まで搬送する機会がありました。潜水病患者を航空搬送する場合、機内の気圧を一定に保たなければ、肺塞栓などの症状を引き起こして死に至るケースもあるので、気圧がコントロールできるメディカルウイングのメリットが活かされた事例となりました。

 

――搬送先エリアとの連携についてはいかがでしたか。

目黒 事前要請をきちんと行っていたので、総じて連携はうまくいっていました。ただ、搬送元も搬送先も空港を起点としているため、調整に時間がかかるケースもあり、メディカルウイングは緊急搬送よりも準緊急搬送や計画搬送が適していることは確認できました。

 

ただ、先ほど話したように今回、国が予算化した事業は救急搬送の利用はできず、また北海道内医療機関からの利用に限定されるなどの規制もありますから、今後はそうした枠組みを越えた事業の働きかけも行っていく必要があると感じています。

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メディカルウイング(写真提供:北海道航空医療ネットワーク研究会)

■北海道航空医療ネットワーク研究会のホームページは下記URLでご覧になれます。

http://www.hokkaido.med.or.jp/hamn/

 

(隔月刊ドクターズプラザ2017年7月号掲載)

2017.11月号
リスト
  • 1. 巻頭インタビュー
  • 2. ドクターヘリ
  • 3. よしこ先生のメンタルヘルス
  • 4. 海外で活躍する医師たち
  • 5. 健康インタビュー
  • 6. 健康サポーターえむぞぅくん
  • 7. 医療系学生インタビュー
  • 8. 地域医療・北海道
  • 9. 小黒先生の薬の話 Q&A
  • 10. 微生物・感染症講座
  • 11. 川柳漫語
  • 12. 女子大生が考えた一品料理レシピ
  • 13. 魅地探索
  • 14. 僻地・離島医療
  • 15. 読者プレゼント
  • 16.医療法
  • 17.病理診断科の紹介
  • 18.野菜考
  • 19.一期一会・この人に聞きたい!
リスト
  • 1. 西松 能子
  • 2. 横山 和之
  • 3. 天願 勇
  • 4. 小黒 佳代子
  • 5. 内藤 博敬
  • 6. 江畑 哲男
  • 7. 東京家政大学ヒューマンライフ支援センター
  • 8.竹内 千佳
  • 9.末松 直美