僻地・医療医療(8)鹿児島県・公立種子島病院

“ロケットの島”を支える地域医療”

高齢化が進むなか、人間関係が密な島民性
若い医師・看護師をどう確保するかがが当面の課題

 

鹿児島県沖に位置する種子島は、県内では奄美大島に次ぐ人口規模を持つ。ロケット打ち上げ基地があるほか、サーフィンをはじめとするマリンスポーツのメッカとしても有名だ。

南北に長い島の南部エリアの中心部・南種子町にあるのが、公立種子島病院だ。1983年3月に診療所として開設して以降、種子島南部エリアの医療を担ってきた。医師不足という問題を抱えながらも、地域を支え続ける病院の現状を事務長の羽生裕幸氏に伺った。

 

僻地医療_種子島病院2017.7 - コピー

羽生 裕幸 氏

公立種子島病院

事務長

 

増える独居高齢者を隣人や地域が支える

――最初に、病院の概要について教えてください。

羽生 公立種子島病院は種子島南部に位置する人口5600人ほどの南種子町と、8100人ほどの中種子町を主なエリアとしています。3人の医師のほか、看護師、介護助手、レントゲン技師など総勢96人のスタッフ体制。診療科目は内科、外科、眼科、脳神経外科、リハビリテーション科、耳鼻咽喉科、整形外科の7科目ですが、オペの設備はないので、急性期ではなく慢性期の患者を対象としています。

 

種子島南部エリアには、当病院のほかに診療所が4カ所あり、うち病床を持っているのは当病院を含め3カ所。施設数だけ見れば、エリア人口に対して十分な規模の医療体制と言っていいでしょう。ただ、医師や看護師の数は慢性的に不足しており、人材の確保は大きな課題の一つとなっています。

 

そもそもこのエリアは、昔から医師不足に悩まされていました。1980年代の初頭には医師が1人もいない“無医村”となったこともあり、
「これじゃあイカン」ということで83年3月に当病院の前身となる南種子町国民健康保険診療所が開設されたのです。自治医科大学から医師を派遣していただき、内科、外科、歯科の3科だけでしたが、住民にとって念願の診療所ができたわけです。

 

その診療所がその後、増築増床を重ねて徐々に施設規模を拡大し、1990年には病床数30床の町立病院として開設。さらに広域医療を目指すという国からの指導もあって、2001年に南種子町と中種子町が共同で公立種子島病院組合を設立して新病院建設に動き、2004年4月に現在の病院建物が開設しました。

IMG_0247種子島病院

スタッフの皆さん(写真提供:公立種子島病院)

 

――この地域の特徴は。

羽生 多くの離島やへき地と同様、種子島も少子高齢化が進んでいます。現在、島内には高等学校が2カ所ありますが、大学や専門学校はありません。ですから高校を卒業した生徒の多くは進学のために島を離れてしまい、そのまま戻らないことが多いのです。島内には高齢者も多く、また近年の特徴として伴侶を亡くした独居高齢者が増加しています。そうした状況における医師の役割として、検死の件数が増えてきています。隣人が様子を見にいったらすでに亡くなっていたとか、そういう話も珍しくはない。以前はそうしたケースはほとんどなかったですから、”時代‶を感じますよね。

 

ただ、都市部におけるいわゆる“孤立死”と異なる点は、死後長い間発見されずに白骨化するというようなケースが少なく、隣人などがすぐに発見してくれることです。「前日の夕方は元気だったけど、今朝は姿が見えなかったので様子を見にいったら……」というパターン。独居であっても、お隣さんが心配していろいろ面倒を見てくれるわけです。それだけ住民同士の繋がりが強いのでしょうね。

 

私自身も種子島に生まれ育って、母親も同じ町内の100mほど離れた場所に住んでいるのですが、例えばいつもは点いているはずの母親宅の玄関の照明が夕方になっても点かないと、ご近所の方が気付いてすぐに私に連絡してくれるのです。それで、私が確認しに行くと、母が「照明を点けるの、忘れていた!」って(笑)。

 

――そうした住民同士の距離の近さは、離島ならではですね。

羽生 例えば独居高齢者が入院しなければならなくなった場合、着替えを持ってきたり、いろいろ世話をしてくれたり身寄りが必要となりますよね。患者のカルテを見ると身近な親戚がいないことが分かるのですが、そんな時はご近所の人に聞けば「伯母の従兄弟の子供」とか「甥っ子のお嫁さん」とか、誰かしら探し出して、時には連絡も取ってくれます。良くも悪くも、個人情報やプライバシーとか、誰もあまり気にしていない土地柄なのです(笑)。

 

その一方で、高齢の入院患者が退院する際に、受け入れ先がないといったケースも少なくありません。誰が治療費を支払い、誰が退院後の面倒をみるのか。今、国の主導で在宅医療・介護への移行が進められていますが、地方はまだまだそうした体制が整えられていません。

 

オールマイティーが求められ多くの役割を担う医師、看護師

――実際に独居高齢者が入院する場合は、どのようになるのですか。

羽生 お子さんやお身内が本土や遠方に住んでいる場合は、連絡をして対処していただきます。ただお身内とはいえ、お盆や年末年始など、ごくたまにしか顔を合わせないと、普段の生活ぶりや体の状態を把握していないケースも少なくありません。「お盆に会った時は普通に歩いていたから、まだまだ元気なはずだ」と言って、こちらの話がなかなか飲み込めないお身内もいらっしゃいます。そうしたお身内に、患者さんの病状だけでなく普段の生活状態までも説明するのも、医師や看護師の役割となります。

 

都市部の大きな病院であれば、院内に支援センターがありますが、地方の病院にはありません。医師や看護師がオールマイティーに、そうした役割を担っていくしかないのが現状。医師や看護師にとっては、大きな負担になります。特に、いまは医師が3人しかいませんからね。

 

――なぜそこまで医師が不足してしまっているのでしょうか。

羽生 大学の医局制度がなくなって、医局からの医師派遣が途絶えてしまったのが一番の要因だと思います。医局制度に関してはいろいろ批判も多かったですが、私たちのようなへき地の病院にとっては、医局の権限で確実に医師が派遣されるのはとても助かっていました。都市部の病院のような最新設備もない厳しい環境のへき地の病院に、自ら進んで行きたいと言ってくれる医師は決して多くはないですからね。

 

――今はどうやって医師を探しているのですか。

羽生 20くらいの紹介会社に登録しています。実際、そうした会社を通じてこれまで80名以上の医師と話をしてきましたが、なかなか実を結びません。せっかく視察に来てもらっても「こんなに田舎だとは思わなかった」と言って帰られる方もいらっしゃいます。現在いらっしゃる医師の皆さんも地元の方ではないので、ずっといてくれる保証はありません。

 

それと、医師だけでなく看護師も不足しています。看護師を志す若い島民がいても、専修の看護学校に通うには本土に行かなければならず、そのまま就職も本土になってしまいがちです。医師のみならず看護師をいかに確保するかも、緊急の課題となっています。

 

隆盛のロケット事業をのんびり見守る島民性

――高齢化が進む種子島の産業は。

羽生 古くからある農業や漁業が中心ですが、一部の大規模専業家を除けば、ほとんどはサラリーマンや建設業などとの兼業です。それ以外では、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の種子島宇宙センターがある関係で、ロケット事業が盛んですね。関連企業の事業所も島内に多く存在しており、そこからの健康診断の依頼なども年々増えてきています。

 

ただ、ロケット事業関係者の多くは、短期間島内の旅館や寮に宿泊しながら仕事に従事するだけで、定住はしません。特にロケット打ち上げが近くなると多くの関係者がやって来ますから、島内のホテルや旅館はそれだけで満杯になってしまいます。ちょうど同じ時期に病院にやって来た応援の医師が、泊まる所がなくて病院の当直室に泊まったということもありました。

 

――ロケット打ち上げの時は、見物客も多く来島しそうですね。

羽生 旅館は満杯でも、昼間の時間帯の打ち上げなら日帰りできますから、島外からも多くの見物客が訪れます。打ち上げに慣れているはずの島民ですら、ついつい見入ってしまう。それくらいロケットの打ち上げは“見もの”ですよ。

 

当病院でも、打ち上げの時間になると診察を止めて、みんなで屋上に上がって眺めるんです。医師も患者さんも、周辺住民の方々も、みんな一緒になって(笑)。

 

――のんびりした雰囲気ですね。島内で重大事故が発生することはありますか。

羽生 海釣りなどに伴う海難事故はたまにありますが、重大事故につながることはほとんどありません。ただ、高齢者が多いので大動脈瘤とか心筋梗塞、脳梗塞など、ドクターヘリの要請が必要な重い病気の患者さんが発生することは結構多いですね。

 

種子島は本土からの山村留学生の受け入れ先として有名ですが、以前、留学生が通学途中にヘビに咬まれて、ドクターヘリで搬送したことがありました。咬んだのが猛毒を持つヤマカカシだった可能性があるということで、鹿児島の病院に送りました。結果的には全く何ともなく、翌日には元気に船で戻って来たのですが、その留学生は「ドクターヘリに乗る貴重な体験ができた」と喜んでいたようですよ(笑)。

 

他には、島の高齢者が農作業の最中にマムシに咬まれるケースも多いです。高齢者はマムシの扱いに慣れているので、全く怖がらない。それで油断してしまうのでしょうね。でも、マムシの毒はヤマカカシほど強くないですから、咬まれた高齢者も自分で歩いて病院に来ます。血清などを打つ必要もないのですが、毒を抜くために患部を切開する時は、大の大人がうめき声を上げるくらい痛いようです。

 

――最後に医療者や医療系学生に一言お願いします。

羽生  皆さんが今、一生懸命学んでいることは皆さんが飛躍するために必要なものです。私たちの病院で皆さんの力を思う存分、発揮してみませんか。宇宙に一番近いこの町で、皆さんが飛躍するのを応援します。いつか皆さんにお会いできる日を楽しみにしています。

 

●名   称/公立種子島病院
●所 在 地/〒891-3701鹿児島県熊毛郡南種子町中之上1700番地22
●延床面積/18,031㎡
●診療科目/内科、外科、眼科、脳神経外科、リハビリテーション科、耳鼻咽喉科、整形外科
●病 床 数/62床(一般60床、感染症2床)
●開設年月日/1983年3月
●職 員 数/93人(常勤医師3人)

 

種子島病院 全景

正面写真(写真提供:公立種子島病院)

 

(隔月刊ドクターズプラザ2017年7月号掲載記事)

2017.9月号
リスト
  • 1. 巻頭インタビュー
  • 2. ドクターヘリ
  • 3. よしこ先生のメンタルヘルス
  • 4. 海外で活躍する医師たち
  • 5. 健康インタビュー
  • 6. 健康サポーターえむぞぅくん
  • 7. 医療系学生インタビュー
  • 8. 地域医療・北海道
  • 9. 小黒先生の薬の話 Q&A
  • 10. 微生物・感染症講座
  • 11. 川柳漫語
  • 12. 女子大生が考えた一品料理レシピ
  • 13. 魅地探索
  • 14. 僻地・離島医療
  • 15. 読者プレゼント
  • 16.医療法
  • 17.病理診断科の紹介
  • 18.野菜考
  • 19.一期一会・この人に聞きたい!
リスト
  • 1. 西松 能子
  • 2. 横山 和之
  • 3. 天願 勇
  • 4. 小黒 佳代子
  • 5. 内藤 博敬
  • 6. 江畑 哲男
  • 7. 東京家政大学ヒューマンライフ支援センター
  • 8.竹内 千佳
  • 9.末松 直美