乳幼児の食物アレルギーの約7割は治る!?

特別レポート/第12回公開講座「子どもの食物アレルギー」抄録

食物アレルギー対策を考える上では、皮膚をきれいな状態に保つことが必要

 

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津曲 俊太郎 氏

神奈川県立こども医療センター

アレルギー科

 

本年5月20日(土)、北海道立総合体育センター・大講堂で「第12回公開講座・市民健康の集い」(主催/NPO法人日本医学交流協会医療団、 株式会社ドクターズプラザ、後援/公益財団法人北海道体育協会、協賛/合同会社スノーベル)が開催された。

 

当日は、特別講演の講師として神奈川県立こども医療センターアレルギー科の津曲俊太郎氏をお招きし「子どもの食物アレルギー」について 講演をしていただいたほか、東京家政大学ヒューマンライフ支援センター・准教授の内野美恵氏と「コンサドールズ」のプロデューサー・金子桂子氏によるトークショーも行われた。

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食物アレルギーとは

私は神奈川県横浜市にある神奈川県立こども医療センターのアレルギー科で子どものアレルギー疾患の患者さんを診ています。近年は食物アレルギーのお子さんが非常に多いので、普段の診療から気を付けたいことをお話しします。

 

まず食物アレルギーというのはどのようなものなのかを考えてみましょう。簡単に言うと、特定の人が特定の食物を食べると、免疫反応を起こして体にいろいろな症状が出ることをいいます。そもそも体の免疫とは、例えば、風邪をひいて細菌やウイルスなどが体に侵入してきたときに、体はそれを異物と認識してそれを攻撃する仕組みのことを指します。つまり、体に侵入してきたものが自分の体(自己)なのか自分の体でないもの(非自己)なのかを判別し非自己を排除するシステムといえます。

 

では、食べ物は自己なのか非自己なのかと考えると、当然非自己になります。ですから、物を食べれば本来なら免疫反応が起きるはずなのですが、実際には反応は起きないようになっています。それは、食べ物を異物として攻撃してしまうと、栄養として食物を取り入れることができず、生命が維持できないからです。食べ物を異物とみなさないために、体にはよくできた仕組みがあります。その一つは「消化機能」で、もう一つは「経口免疫寛容」と呼ばれる免疫システムです。

 

食物は口から摂取し胃や腸を通過する際に消化酵素によって分解されるので、ほとんどのタンパク質は小さくなった状態で吸収されます。アミノ酸レベルまで分解されると体は異物として認識しないようになるのですが、一部は分解が不十分のまま腸管から吸収されます。それを都合よく、免疫反応が起きないようにするのが「経口免疫寛容」というシステムです。名前の通り、口(消化管)を経由して体に入るものに関しては免疫応答が起こらないような仕組みになっています。つまり人の体というのは口から食べ物を摂取することによって実は免疫が強くなりやすい(食物アレルギーを発症しにくい方向に免疫が発達する)ようにできているのです。

 

このような免疫機能が破綻しているのが食物アレルギーなのですが、それではなぜ食物アレルギーが発症してしまうかについて考えてみましょう。

 

アレルギーを引き起こす物質は、抗原 (アレルゲン)と呼ばれています。アレルゲンが体の中に侵入してくると、体の中で免疫細胞が反応して、まず体の中で「IgE抗体」と呼ばれる抗体が作られるようになります。これを「感作」といいます。そして再度アレルゲンが侵入したときに、すでに体の中に存在するIgE抗体が反応を起こしてさまざまな症状を引き起こすのです。このように一般的にはアレルギーというのは2回目以降にアレルゲンが体内に入ったときに起こるのですが、食物アレルギーの場合は、実際は離乳食で初めて卵などを食べさせたときに症状が出てしまうケースが多いです。つまり、初めて食べたはずなのにその時点で既に抗体が体に出来上がっているわけです。では、一体どこから赤ちゃんの体内にアレルゲンが入っているのでしょうか。

 

 

従来は、妊娠中にへその緒を通じて感作されているのではないか(経胎盤感作)とか、母乳をあげている時期に母乳から侵入しているのではないか(経母乳感作)といった考え方もされていましたが、これらの時期に母親が食事制限をしても食物アレルギーの発症は予防できないことはこれまでの研究で証明されています。

 

しかし最近になって、実はアレルゲンというのは皮膚から侵入するということが判明してきました。これを「経皮感作」といいます。ただし、皮膚からといっても正常な皮膚からではなく、アトピー性皮膚炎などの湿疹でバリア機能が破綻している皮膚から侵入すると感作が起きやすいといわれているので、表現としては「経湿疹感作」の方が適切かもしれません。つまり、食べ物は口から食べると免疫が抑制される反面、皮膚(湿疹)から入るとアレルギーを発症する方向に免疫が傾くことが分かってきたのです。実際の研究でも、湿疹のある児とない児を比較すると湿疹のある児の方が食物アレルゲンへの感作率が高く、かつ湿疹が重症であるほどより感作率が高いことが報告されています。

 

この経皮感作という概念を基にすると、食物アレルゲン感作の原因が乳児期の湿疹にあるのであれば、乳児期の湿疹を早期からしっかりケアしてあげればその後のアレルゲン感作も予防できる可能性があると考えられます。よって、食物アレルギーの対策を考える上では皮膚をきれいな状態に保つことが必要ですし、そのような意識を持つことがとても重要になってきます。

 

食物アレルギーの傾向と診断

では、それでも食物アレルギーを発症してしまった子はどうすればよいでしょうか? 食物アレルギーにはどのような傾向があるのか考えてみましょう。まず、年齢別にみると患者数が圧倒的に多いのが乳幼児(0〜1歳くらい)で、食品としては鶏卵・牛乳・小麦がほとんどを占めています。ただ、この時期の食物アレルギーは成長とともに状況はかなり変化するので、赤ちゃんの時にアレルギーがあるからといって全員がその後もずっと食べられないわけでは全然ないということです。半年たてば体質は変化してきますし、7割程度の子は自然に治っていくともいわれています。

 

一方で学童期以降に多いピーナツ・蕎麦・甲殻類などに関しては自然治癒の可能性が低いといわれています。なぜこのような違いがあるのかはまだ解明されていないのですが、食物アレルギー児を対応するにあたってはこのような違いを把握しておくことも必要でしょう。

 

次に診断の話をします。診断では、何をどのくらい食べたら症状が出て、どのくらいたってから症状が出たのかという時間の情報などが大切になってきます。本当にアレルギー症状なのか疑わしい場合は同じ物を食べてみて同じように症状が出るかどうかという再現性も大切です。ここで強調したいのは、「血液検査だけで食物アレルギーかどうかは判断できない」ということです。アレルギー検査で血液検査を行う場合、基本的にはIgE抗体が血液中にどれくらいあるかを調べていますが、実際は検査が陽性でも食べても何ともない人はいますし、反対に陰性でも食べたら症状が出てしまう人もいるということです。

 

血液検査の他にも皮膚検査などもありますが、いずれの検査も基本的には診断を補助するという位置付けであり検査のみで全てを判断するものではありません。はっきりしないときは実際食べて反応を見る検査が一番確実なのですが、多少のリスクは伴います。ですから、症状が出る確率が高い人は基本的には病院の専門施設で負荷試験を行うことが望ましいです。病院選びは悩むと思いますが、一つの方法として食物アレルギー研究会のウェブサイトを参考にするのがよいかもしれません。こちらのウェブサイトには、食物経口負荷試験実施施設一覧が掲載されています。近所で負荷試験をたくさん行っているところを探してみるとよいでしょう。

 

症状が出た場合の対応

次に食物アレルギーの症状の話ですが、やはり食物アレルギー児と関わるには症状が出てしまった時の対応も理解しておく必要があります。食物アレルギーの症状は本当にたくさんのものがあり、体のあらゆる場所に出る可能性があります。

 

一般的には皮膚の症状で、かゆくなったり赤くなったり、じんましんが出たりすることが多いです。ただ、咳が出たり、ゼーゼーヒューヒューしたりするなどの呼吸の症状が出るときや、吐いたりおなかが強く痛んだりするときは注意が必要です。また、血圧が下がって意識がもうろうとしたり、顔色が悪くなってぐったりしたりするときは緊急的な対応が必要になってきます。また、過去の症状がじんましんだけだったからといって毎回同じ症状しか出ないとは限らないので、一般的な知識として食物アレルギーではどういう症状が出る可能性があるのか把握しておくことが大切です。

 

アレルギー症状を把握できたら次はその症状に対しての対応が必要になりますが、医療機関に行く前にできることを整理しておきましょう。まずよく使われるのが抗ヒスタミン薬です。飲み薬で持たされていることが多いと思います。皮膚のかゆみやじんましんを和らげる働きがあり、だいたい30分くらいで効いてきます。呼吸の症状が出やすい人は吸入のお薬も出されます。そして緊急時に使う薬としてエピペンがあります。自己注射の薬で、すごく即効性が高くてかなり強い効果があります。基本的には全てのアレルギー症状に効果があるのですが、即効性がある分、5〜10分で効果が切れてくるので、エピペンを使って症状が引いたとしても、また症状がぶり返す可能性があります。エピペンは使ったらすぐに救急車を呼んで、必ず医療機関に行くようにしてください。

食事指導と治療法

食事の指導の話に移りましょう。基本的にはタンパク質が原因なので、タンパク質含有量を目安にすると食事指導もしやすいです。経口免疫寛容を考えると、不必要な除去は極力避けた方がいいですし、子どもは徐々に消化機能が発達してくるので、半年たてば状況はかなり変わってきます。ずっと除去するのではなく、本当に今の現時点での除去が必要なのかを定期的に評価していく必要があると思います。何となく除去していくと、除去する食べ物が増えていく結果になるのでよくないです。

 

安全性の確保という点でいうと、どれだけ頑張って除去をしてもどうしても誤食は起こってしまうのが現状で、特に家庭では加工食品の表示を見落としたり表示自体の理解が不足していることが多いので、表示の約束事をしっかり理解して見落とさないようにしたいものです。加工食品はその時々で内容が少しずつ変わることがありますし、同じ食パンでも牛乳の含有量は銘柄によって違うので、そこにも注意する必要があります。ただ、なかなかご家庭だけでそういった判断をしていくのは難しいと思うので、専門の先生からアドバイスを受けながらやった方がいいですね。

 

 

先ほど述べたように乳幼児の食物アレルギーは7割方は治りますが、残り2〜3割は学童期になっても治りません。ただ、そういう人も経口免疫寛容を意識して、家庭で症状が出現しない量から摂取をし始めて、階段を上がるようにゆっくり増やしていくことで、半年から1年後には症状なく食べられるようになれるということが分かってきました。この方法は「経口免疫療法」と呼ばれるものです。もっと微量でも強い症状が出る人は、1カ月くらい入院してどんどん負荷をかけて食べられるようにする「急速法」という治療法を選択する場合もあります。

 

ただ問題点としては食べられるようになったらおしまいではなく、その後も継続的に食べ続けないとその状態を維持できないということが挙げられます。また、継続して摂取している期間でも体調が悪かったりすると症状が出てしまうこともあり得るので、治療したからといって完治するわけではないというところも問題点です。経口
免疫療法は治療法としては標準的なものではなく、今はまだ研究的に行われている段階なので、専門施設のみで行われています。自己判断で勝手に家でやるのは危険なので絶対にやらないようにしてほしいです。

 

このように、この10年ほどで食物アレルギーの世界は考え方が180度に近いくらい劇的に変わりました。食物アレルギーのお子さんと接するためには、周りの方が正しい認識を持っていないと間違った方向に進みかねないので、正しい知識をもって導いてあげることが大切だと思いますし、患者さん(子ども)の安全と生活の質を考えてアレルギーと上手に付き合っていくことが大事だと思います。

 

食物アレルギーを持つ子どもの親などが参加

特別講演終了後、津曲俊太郎氏、内野美恵氏、金子桂子氏の3氏によるトークショーが行われました。トークショーは、金子氏の司会進行で進められ、司会進行役の金子氏ご自身の食物アレルギー体験を踏まえての質問や内野氏から「食物アレルギーの子供が増加している原因」等について津曲氏に質問がありました。

 

また、参加者からは「園児への給食の提供について」のほか、「緊急時の対応」の質問等があり、各先生方からそれぞれの立場からの意見が述べられました。トークショーでは、参加した先生方からお互いに質問が出るなど和やかな雰囲気の中で進行、終了しました。

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トークショーでは、参加者の先生から津曲氏への質問がでるなど、講演では聴けなかった話を聞くこともできました。

◆トークショー参加者

金子桂子氏(左):「コンサドールズ」・プロデューサー

津曲俊太郎氏(中):神奈川県立こども医療センター・アレルギー科

内野美恵氏(右):東京家政大学ヒューマンライフ支援センター・准教授

 

 

 

 

 

2017.9月号
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  • 1. 巻頭インタビュー
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