特別企画 病院職員の安心・安全インタビュー2

ハード・ソフト両面の強化を図る

警察OBを中心とした防犯体制づくり

首都圏で28の病院を展開する戸田中央医科グループ(Toda Medical Group、以下TMG)では、病院内で発生する暴力行為や窃盗などの犯罪行為、医師や看護師に対する暴言やストーカー行為、その他さまざまなトラブルに対して、グループ全体として組織的な防犯・防災施策を展開することで効果を上げている。今回は、警察OBとしてグループの防犯に取り組む交通・防犯対策部長の今村光志氏と、グループ傘下の医療法人横浜柏堤会が運営する戸塚共立第1病院総務課課長の宮下竜也氏に、TMGの取り組みについて話を伺った。

 

 

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1都4県のエリア内を7区分し、
警察OBが防犯・防災専門に担当

 

―最初に、TMGの概要について教えてください。

宮下 1962年、現在の埼玉県戸田市に開業し、現在は492床を擁する戸田中央総合病院を中核施設とした医療事業グループです。1都4県で28の病院と六つの介護老人保健施設を展開するほか、クリニック、健診センター、訪問介護ステーション、特別擁護老人ホームなど、計114カ所の関連事業所を開設。首都圏における保健・医療・介護・福祉をトータルで支えるヘルスケアネットワークを形成しています。

―グループが展開する医療機関の規模は。

宮下 先述の戸田中央総合病院が最大規模となりますが、それ以外にも300床規模の病院が2カ所、200床規模が3カ所、100床規模になると15カ所あり、総勢1万3451人の職員が働いています。グループ創設当初から「患者さまを第一に考えた医療を行う」ことを行動規範としており、「救急車を断らない」「24時間365日の救急体制の実施」といった伝統を今に継承しています。

―グループとして病院内の防犯に注力しはじめたのは、いつごろからでしょうか。

今村 2004年ころからだと聞いています。もちろん、それ以前から事件や事故の被害者などの受け入れを通じて、各病院では地域の警察署と密接に連携を取り合う関係を構築していました。たまたま2004年ごろに戸田中央総合病院で外部とのトラブル事案が発生し、警察に相談したことがあった。それがきっかけとなり、あらためて病院における防犯・防災に注力していこうということになりました。同時に、私のような警察OBを病院に招き入れようという動きが活発化したのです。

 

最初は戸田エリアからはじまり、今では全てのエリアで警察OBが招かれ、交通・防犯対策責任者といった肩書きのもとで活動を行っています。

 

―今村さんも含めて、具体的に何人の警察OBが招かれているのですか。

今村 現在はグループ全体で12人。1都4県のエリア内を、防犯・防災上の管轄として七つのエリアに区分し、それぞれが担当として就いています。私は「東京城南エリア」の担当。ほかに、「東京城西・埼玉エリア」「埼玉南エリア」「埼玉西エリア」「神奈川エリア」「静岡エリア」「千葉エリア」があります。

 

 

 

護身術など定期的に講習会を実施。
暴力やストーカーには毅然とした態度で

 

―病院内で発生する犯罪は、具体的にどのようなケースがありますか。

宮下 警察を呼ばなければいけないレベルの”犯罪‶としては、暴力、窃盗などがあります。さらに、患者さん自身やお見舞いに来る方からの暴言などが、トラブルに発展するケースもあります。

 

今村 暴力事件は、グループ全体の中でも年に1回あるかどうか。とはいえ、刃物がからんでくるケースも過去にはありましたから油断はできません。

 

―暴力事件の傾向としては。

今村 中小規模の病院では患者さんも高齢の方が多いので、患者さん自身が暴力を振るうケースはほとんどありません。一方、大学病院のような大規模な病院では年齢層が幅広いため、暴力沙汰になる確率は上がるようです。

 

宮下 一般の診療患者さんは比較的おとなしいのですが、夜間救急などで来られたお酒を飲んだ患者さんが暴力を振るう場面はありますね。

 

今村 また、警察沙汰とまではいかないまでも、迷惑行為は少なからずあります。患者さんや見舞客から医師や看護師に向けた暴言や、中には物を投げつけてくるケースもあります。

 

―そうした暴力や暴言は、基本的に「患者・見舞客」から「医師・看護師」に向けたもののようですね。患者さん同士のトラブルなどはありますか。

 

宮下 あまりないですね。例えば「同室の患者がうるさい」といった苦情も、本人に直接言うのではなく、まずは看護師等に相談してくるので、患者さん同士の大きなトラブルには発展しません。

 

―では、医師や看護師に向けた暴力への対策としては、どのようなことを実践していますか。

今村 年1回程度、各病院で防犯講習を行っています。そこでは、暴力を振るって来る相手にどう対処するか等を含め、かなり具体的なことまで指導しています。

 

例えば、暴力を振るう相手に対応する上で重要なのは”間合いを取る‶こと。むやみに近づいてはいけません。ですから病院によっては、日本で昔から用いられている武具の刺股(さすまた)を購入して、その使用法を教える「刺股講習会」も実施しています。刺股が手元にない場合でも、丸イスなどを使って相手を近づけないことが大切です。

 

その上で、1人の相手に対して複数で対応します。成人男性が3人もいれば、どんな相手でも抑え込むことができます。

 

宮下 夜間に救急搬送された患者さんが酔って暴れた時などは、看護師の人手が足りないので事務の人に来てもらったりします。「これはちょっと危ないな」と思う時には、すぐに人を集められるように普段から心掛けています。

 

―夜間、病棟を看護師が見回る際に、1人で行動するのも心配ですよね。

今村 確かにそのとおりです。ただでさえ夜間は看護師が少なく、ナースコールで呼ばれたら1人で行くしかありませんから、特に女性の看護師は用心が必要です。グループでも女性のための護身術の講習に力を入れていますが、一方で、男性看護師を育成することも必要だと感じます。

―暴力や暴言以外のトラブルとしては、どんなものがありますか。

宮下 近年目立っているのが、女性医師や看護師を狙ったストーカー被害です。最近も、グループのある病院の女性医師が患者さんにつきまとわれた事案がありました。その時は、エリアを担当する警察OBを通して警察に相談をして、相手を説得してもらいました。多くの場合、警察のようなプロフェッショナルが介在すれば、ストーカーもあきらめるものです。

 

また、女性看護師や医師のロッカーなどに、エリアを担当する警察OBの携帯番号をポスターとともに掲示して「何かあったらすぐに連絡を」と呼び掛けています。ストーカー被害に遭っている本人が警察に直接駆け込むのは、なかなかハードルが高い。でもエリア担当の警察OBなら気軽に相談することができ、警察に話を通すこともできます。

 

今村 ストーカーに対しても、暴力を振るう相手に対しても、最初に毅然とした態度を取ることが重要なのです。絶対に弱みを見せてはいけません。

 

 

ソフトとハードの組み合わせで、
窃盗被害の抑止に効果を上げる

―窃盗犯罪に関しては、どのようなケースがありますか。

今村 いわゆる“病院荒らし”と呼ばれる、見舞客を装った外部からの窃盗犯による事案のほかに、残念ながら看護師や職員が窃盗をしてしまうケースもあります。

 

宮下 外部からの病院荒らし対策としては、今はどの病院でも受付で見舞い先の患者名などを記入し、カードを身に着けてもらっています。私などは立場上、見舞客が着けているカードを必ず目で見て確認するようにしていますが、看護師はやるべき業務が多いから、なかなか見舞客をチェックすることができません。看護師にそれを強制することも難しいのです。

 

今村 そこで病棟ごとに1人ずつ「クラーク」と呼ばれる事務兼看護助手のような職員を配置し、見舞客のチェックをするようにしています。また、患者さんや見舞客に職員が必ず“挨拶”というかたちで声を掛ける
「声掛け運動」も行っています。そのおかげで、見舞客を装っての日中の窃盗被害はほとんどなくなりました。

 

病院内で発生する窃盗には、患者さんのいる病室内にある金品を狙ったものと、医師や看護師、職員の居室、休憩室を狙ったものがありますが、患者さんのプライバシーの問題もあって病室内に監視カメラなどを設置するのは難しい。ですから「声掛け運動」などソフトの部分で防犯体制づくりに注力しているのです。

 

―医師や看護師、職員の居室、休憩室を狙った窃盗とは、具体的にどのようなケースがありますか。

今村 外部の病院荒らしが白衣を着て、医師や看護師に扮して盗みを働く場合もあります。大きな病院だと、見慣れない人間が白衣を着ていても「新しく入った医者かな」くらいにしか思われないので、どこにでも入れてしまうのです。

 

また一方では、先ほどもお話ししたように、非常勤などで入っている看護師が窃盗をするケースも、残念ながらあります。病院側としても慢性的な看護師不足が続くと、そういう人を採用してしまうこともあるのです。

 

医師などは回診に行く時に、自分の私物を机の上に何気なく置いたままにしてしまう。そういう医師の行動パターンを知っている看護師が、盗みを働いたケースが過去にはありました。また、看護師たちは自分のロッカーを持っていますが、私物の入ったバッグなどは休憩室に置きっぱなしにすることも多く、そこから金品が盗まれるケースもあります。

 

―その対策としては。

宮下 医師の居室や看護師の休憩室などにはカギを取り付けています。特に医師は病院内の連絡用にPHSを常に携帯していますから、PHSのストラップ部分にカギを取り付け、必ず持ち歩いてもらうようにし
ています。看護師の休憩室にもカギをかけており、夜間など看護師の人数が少ない時には必ずカギをかけてもらっています。とはいえ日中は人数が多く、出入りが激しいので管理が難しい。

 

最終的には防犯カメラを設置することが、抑止という意味も含めて、病室以外の防犯には最も効果的だと思います。

 

―自分が働いている職場にカメラが設置されることに、不満を感じる看護師や職員もいるのでは。

今村 以前は、カメラを付けることで自分たちのプライバシーが侵害されたとクレームを言う看護師や職員もいましたが、今はほとんどいなくなりました。結局、カメラが抑止力になって窃盗被害が減れば、それだけ快適な環境で仕事ができると分かったからです。ある病院では「監視カメラ作動中」という貼り紙をしているところもある。それによって、見舞客を装った窃盗犯による被害も併せて抑止することにつながっているのです。

 

宮下 最近はカメラの性能もかなり良くなってきています。また警備会社からカメラの設置位置に関する提案などもあり、ハード面での防犯対策もかなり効果が上がっていると思います。

 

今村 私どもTMGとしても、カメラなどのハード面と、「声掛け運動」などのソフト面を組み合わせ、グループ全体で防犯に取り組むことで、実際に効果を上げています。

 

(隔月刊ドクターズプラザ2017年1月号掲載記事)

 

 

 

 

 

 

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